晴れ、ときどき映画三昧

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『危険なメソッド』 75点

2012-11-05 16:49:41 |  (欧州・アジア他) 2010~15

危険なメソッド

2011年/イギリス=ドイツ=カナダ=スイス

バイオレンスを抑えて、円熟味を増したクローネンバーグ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★☆☆70点

「ヒストリー・オブ・バイオレンス」「イースタン・プロミス」など絶えず衝撃的バイオレンスの世界を描いてきたデヴィッド・クローネンバーグ。最新作はクリストファー・ハンプトンの同名戯曲を脚色した心理ドラマ。
高名な心理学者フロイトとユング。師弟関係のようであり親子のような関係であった2人を結びつけ、決別させた存在のロシア人女性がいた。実在の人物ザビーナ・シュピールラインで、ユングの患者で愛人でもあり、のちに心理学者として論文発表。結婚してロシアで幼稚園を設立するなど功績があったが、ナチに銃殺された波乱万丈の生涯を送ったヒトだ。
「つぐない」「危険な関係」の脚本でも名高いハンプトンのシナリオは彼女をヒロインとはせず、ユングを中心とする3人の愛憎・エゴが複雑に絡んだ人間ドラマとして描かれている。
<言語連想テスト>や<夢分析>などの精神分析シーンも登場するが、もっぱらユングとフロイトの会話は専門用語も飛び交う高尚な論議に終始する。字幕では追い切れないところもあるが、寧ろ学問上の論争より人間性の違いで袂を分かち合ったエピソードが興味深い。アーリア人で裕福な妻のお陰でヨットをもち豪邸に住み愛人を容認されるユング。ユダヤ人のフロイトには理解を超えた根源的な違いを感じたのだろう。アメリカへの船旅で妻が予約したという一等船室へ消えるユングを見送るフロイトの心情は察して余りある。
クローネンバーグはいつもの過激さは最小限にして、知的好奇心をよび起こすようなエピソードを重ね、人間の複雑な心の内を描いている。それに応えたユングのマイケル・ファスベンダーは<精神科医が神経を病む>ということも<恋愛やセックスも研究対象>とするアーリア人気質を巧く表現してユングになりきっていた。フロイトを演じたヴィゴ・モーテンセンはワイルドさは一切みせず別人のような風貌で受けの演技で、クリストフ・ヴァルツの代役とは思えないほど監督の期待に応えた。ザビーナ役のキーラ・ナイトレイは日頃のメロドラマのヒロインのイメージをかなぐり捨て過激なシーンに挑戦。顔を歪め、沼に飛び込み絶叫する統合失調症患者から若き研究者へ変貌する姿を体当たりで熱演している。ファンは当初見てはいけないものを観たような錯覚に陥るかも。出番は少ないがこれも実在の精神医でユングに「快楽に身を委ねろ」と影響を与えるオットー・グロスをヴァンサン・カッサルが演じ、印象的。
クローネンバーグは円熟味を増し、鬼才から巨匠へターニング・ポイントとなった作品だと思う。これから何処へ行こうとするのか?次回作が興味深い。