晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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『ピアノレッスン』 75点

2012-06-08 17:51:35 | (欧州・アジア他)1980~99 

ピアノレッスン

1993年/オーストラリア

母と娘の関係を、女流監督ならではの感性で描く。

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

19世紀のニュージーランドを舞台に、激しい内情を秘めた女性の愛を描いて、女流監督らしく繊細で独自の世界を作りだしカンヌ・パルムドールと米国アカデミー・脚本賞を受賞したジェーン・カンピオン監督の作品。
ヒロインはスコットランド出身で6才の時話をしなくなり、訳あって11歳の娘と未開の地へ嫁いできたエイダ。ピアノが唯一、心の表現手段でカケガエのないもの。夫となるのは不動産事業を営むスチュアートで世間体もあり、未開の地へはるばる嫁いでくれるなら多少のハンデは厭わないと迎え入れたのだ。最初からピアノに対する価値観の違う2人を暗示するように運んできたピアノは重すぎるという理由で浜辺に残される。
どんよりとした空と海、セピア色の映像はポツンと取り残されたピアノはエイダの分身でもあった。新しい土地へきて期待に胸を膨らませ天使のまねをして踊るフローラと一身にピアノを奏でるエイダ。運命共同体の母と娘を象徴するようなカットだ。ピアノを救済したのは現地マオリ族と同化した仕事仲間のジョージで80エーカーの土地とピアノを交換して自分の家へ運び込む。スチュアートはもう一つの条件であるエイダのピアノ・レッスンも二つ返事で同意する。
ここからは昼メロもびっくりのエイダとジョージの密室劇が始まる。これまで、どちらかというとスチュアートに同情していた筆者には置き去りにされる自分を感じざるを得なかった。
カンピオンはエロティズムを大胆に描くことで、束縛されたこの時代の女性に本来の愛の姿を伝えたかったのだろう。その証拠に愛の描写は束縛の象徴である女性の服装を徐々に剥いでしまい、本能を呼び覚まそうとしている。
建前や道徳感を重視して犠牲をしいて家族の一員にしようとしたスチュアートと本能のままエイダを愛そうとしたジョージの勝負はありありと見えてくる。おまけに本能のままエイダをものにしたハズのジョージが愛していないなら遭いたくないし、ピアノも返すといえば勝負あり。女性が憧れる男性像がジョージにあって風貌だけが伴わない矛盾は問題ない?
母と娘の関係が微妙に変化するシーンが面白かった。娘は母の代弁者でありながら、疎外されたと思えば嫉妬の対象でもあった。その微妙な間柄を感性豊かに表現していたのには感心させられた。この関係が物語をイキイキとさせてくれてホリー・ハンターとアンナ・パキンがオスカー(主演・助演女優賞)を獲得している。その後2人が本作を超えた役柄に出会えないのは残念。終盤での流れはどうも治まるところへ納まったようで共感できなかったが...。