晴れ、ときどき映画三昧

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「蟬しぐれ」(05・日) 75点

2014-07-23 18:09:46 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・藤沢文学の傑作を、映像化に腐心した黒土三郎の意欲作。

                    

 「たそがれ清兵衛」(02)を始め「隠し剣 鬼の爪」(04)と続いた山田洋次監督による藤沢周平時代劇の映画化。最高傑作と言われながら映画化は難しいと思われていた本作を黒土三郎が実現した。

 黒土がTVドラマのシナリオを書きドラマ化され評判となった本作。念願叶っての映画化で、TVでは描き切れなかった作品の「気高さ」を表現することに挑んだという。

 江戸時代、庄内地方の海坂藩で起こった権力争いに巻き込まれながら、直向きに生きた下級武士・牧文四郎の、清貧な半生と切ない恋を描いた時代劇。

 原作のエピソードを忠実に守りつつ、文四郎15歳から20数年間の物語を131分に纏めるのはかなり無理があり、初めて本作を観た場合エピソードの羅列について行けないところもあったのでは?

 原作やTV連続ドラマと条件が違うので、それとの比較はあまり意味がない。結論から言うと、<行間から溢れる空気感や透明感に腐心して頑張ったが、観客をその世界に引き摺り込むインパクトには欠けるきらいがあった>というところか。

 お気に入りは元服前の前半。普請組の義父・牧助左衛門は、お家騒動のため反逆罪に問われ切腹。最後の親子の対面は最初の見せ場。父を尊敬する文四郎の一途さを石田卓也が好演し、助左衛門を演じた緒方拳の律義で慎ましい姿が流石で印象深い。

 父の遺体を大八車で泣きながら引いて行く<矢場の坂>が前半のハイライト。文四郎と彼を秘かに慕うふくとの2人の懸命な姿が痛ましい。その後ふくは江戸に奉公が決まり、最後の別れに文四郎の家に行くが不在のまま逢えず仕舞いとなる。子役の佐津川愛美がなかなかの演技で、少女の直向きさが出ていて感心させられた。

 好調な前半に比べ、元服後の中盤は?が多く原作の味とは程遠い。演じた市川染五郎の品の良さは文句のつけようもないが、下級武士には見えず終盤の郡奉行で初めてイメージが合致。石田卓也からの変換が巧くないうえ2人の雰囲気がまるっきり違っているのが致命的。これは演技上の問題ではなくキャスティングのミス。

 剣に励みながら道場の先輩・同輩との交流も、ソレゾレは成り立っているが纏まりがなく原作の映像化に腐心しているのが窺える。リアルな斬り合いなど殺陣も見せ場があるが、決闘となった犬飼兵馬との経緯が省略されていたので深みが伝わらない。

 おふくに扮した木村佳乃は気高さと美しさを漂わせ、ヒロインに相応しい演技を魅せた。注文をつけるとすれば儚さが欠けていたように思うが・・・。

 「蝉しぐれ」というタイトルはラスト・シーンからつけられているが、本編は思い切ったアレンジとなっている。是非論はあるがこれは納得。

 庄内地方のオープンセットを組み、1年掛かりで美しい日本の風景をバックに繰り広げられたこのドラマ。できれば、庄内地方の言葉でやって欲しかった。

 私利私欲とはかけ離れたところで懸命に生きた下級武士と、好きなヒトとは結ばれなかったが20数年経っても想いは変わらなかった女の慎ましく気高い恋物語。

 大衆小説でありながら人々の心を掴んで離さない藤沢文学の映像化に全力投球した黒土三郎やスタッフに拍手を送りたい。
 


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