・ L・ハルストレム監督が、ハリウッド進出のキッカケとなった作品。
50年代後半、自国で開かれたワールドカップに湧くスウェーデンを舞台に、12歳の少年が日々の暮らしの中から成長して行く姿をみずみしく描いたヒューマンドラマ。83年出版のレイダル・イェソンの原作を、ラッセ・ハルストレム監督が映画化。彼がハリウッド進出のキッカケとなった作品でもある。
海辺の町に住むイングマルは、兄エリクと結核の母、そして愛犬シッカンと暮らしている。父は南氷洋へ行ったまま帰ってこないので、母の病状悪化とともに田舎の叔父の家にひとり預けられる。
12歳にしては幼く、兄弟ゲンカやドジをしたりして大好きな母をいらいらさせ叱られている。やがて母の病状悪化とともにひと夏だけ愛犬とも別れることになり、自分より不幸なことを探しては<僕はOOよりは恵まれている>と心の中で慰めている。繰り返し思うのは<宇宙船スプートニクに乗せられ死んでしまったライカ犬>。
90年代「ギルバート・グレイプ」(93)、「サイダーハウス・ルール」(99)、2000年代「ショコラ」(00)、「シッピング・ニュース」(01)など、コンスタントに良作を送り続けてきたハルストレム監督。その原点が本作で<子供と動物がテーマ>なのは、まさにストライクゾーン。
都会の伯父さん夫婦とは違って、田舎のガラス工場に勤めている叔父さんはとても温かく迎えてくれる。そこでひと夏を過ごすイングマルがとても微笑ましく、本人が思うほど不幸ではなく見えるのは大人目線での解釈か?
叔父さんはガラス工場の社宅に住んでいるが、許可なく東屋を建ててマイルームを謳歌している。ゴンドラ宇宙船を作って子供たちを楽しませる人、一年中屋根を修理している人、ちょっとエッチな芸術家、曲芸を披露する男、女性下着のカタログを読んで喜ぶ老人、真冬の湖に飛び込む男・・・。可笑しな
大人たちがいるが、子供の世界には適度な距離感があった。これはちょっと年上だが同世代の筆者が育った少年時代の境遇と共通している。
サッカーやボクシングをして遊ぶ子供たち。なかでもサガという少女とはヒトキワ仲良くなる。12歳にしては幼いイングマル。少女は男の子たちと一緒に遊んでいても異性を意識し始めた微妙な時期。胸の膨らみを隠すためバンテージを巻くのを手伝うイングマルに、男と女の成長期のズレを感じてしまう。
こんな素敵な想い出はなくても、甘酸っぱい経験は誰にでもあること。ハルストレムは自身の少年時代を再現するようにひとつひとつのエピソードを重ね、出逢いと別れを通して少年を少しづつ人生の目覚めに遭遇させて行く。
これが唯一の作品となったオーディションで選ばれたイングマル役のアントン・グランセリウスは泣きべそ顔が気に入られたとか。美少女サガを演じたメリンダ・キンナマンは女優となったと聞くが、筆者は未見。おそらくこれが代表作だろう。
2度目に戻ったとき、もうサガとはボクシングもサッカーもできなくなったイングマル。それでもスカートを穿いたサガとはゴンドラには乗ることができ、屋根を修理している村のヒトは相変わらずツチ音を響かせている。
ギリシャ人の家族が同居して手狭になった叔父さんの家では、ラジオでヘビー級世界チャンピオン・パターソンを破ったヨハンソンの英雄復活を流していた頃でもあった。
筆者は栃錦VS若乃花や長嶋VS金田の対決を、ラジオで聞いていた頃と重なる。まるで自分がイングマルだったように微笑ましく、懐かしい作品だった。