・トップ・ブランド<シャネル>誕生までを眼で演技したO・トトゥ。
ヴォーグ編集長エドモンド・シャルル=ルーの原作をもとにアンヌ・フォンテーヌが脚色・監督、「アメリ」のオドレイ・トトゥが主演している。
08年が生誕125周年、10年が創業100周年ということで<シャネル>の映画が3本作られているが、本作は孤児院育ちの少女が自らのスタイルを確立するに至るまでの若き日の恋物語が中心のドラマ。
「ココ・シャネル」(08)はシャリー・マックレーンが71歳で復活するシャネルが生い立ちから人生を振り返る仕立てで、、プロフェッショナルの苦悩が描かれていてなかなか良く出来た映画だった。ただ、英語版だったのでパリのトップモードの臨場感はなく、シャネル本社の協力も得られなかった。
もう1本の「シャネル&ストラヴィンスキー」(09)はブランドのミューズであるアナ・ムグラリスが演じているが、名声を得てからの逸話を切りとった番外編の趣きだった。
本作はフランス語でしかもシャネル本社の協力のもと、本国で大ヒットしたというので、本命登場と言うところ。<アヴァン>とは<前>と云う意味だそうで、まさに25歳でパリで帽子店を創業するまでの物語なので憧れのトップブランド・オンパレードとはいかない。
19世紀末から20世紀初頭のフランス上流社会のシキタリを息苦しく感じながら必死に生きてきた少女がどのように暮らしてきたかにスポットが当たっている。
20世紀のフランス女性ではエディット・ピアフと並び称されるガブリエル・シャネル。生い立ちも似ていて、姉とともに田舎のキャバレーで歌って踊る傍らお針子で生計を立てていた。ココはそこで歌っていた歌から付いた仇名。這い上がるにはパトロンが必要で貴族の将校バルザン(ブノワ・ポールヴィールド)の家へ押し掛け愛人となる。ここで社交界を知ることになるが、コルセットに高い靴・羽根飾りの帽子の女性ファッションに違和感を覚える。
生涯独身を貫いたのはイギリス人実業家アーサー・カぺル(アレッサンドロ・ニヴォラ)との出会い。密かに望んだ結婚はアーサーが石炭王の娘との婚約をしていたため果たせず、「結婚は形式で君との愛は変わらない」という言葉を聴いたから。そのアーサーも愛車での事故死であっけなく逝ってしまう。
エディット・ピアフと比べても遜色のない波乱万丈の前半生記だが、共感が伝わってこないのは何故だろう?あまりにも<行動力ある女性として描くこと>に焦点が当たり過ぎて生きて行く必死さや人を愛する感情が湧いてこないのだろうか。不遇な境遇から這い上がったとはいえ、あまりにも自己本位な行動の女性に映ってしまったのかも。
O・トトゥは眼の演技で表現するのが上手な女優だが、あまりにも切ないココの感情を表現するには何かが不足していたように感じた。