goo blog サービス終了のお知らせ 

晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「マクダレンの祈り」(02・英=アイルランド) 80点

2015-03-05 07:40:56 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・ 絶対的権威へ警鐘を鳴らしたピーター・ミュラン。

                   

 ピーター・ミュラン監督・脚本によるヴェネチア国際映画祭・金獅子賞受賞作品。’64ダブリンにあるマグダリン修道院へ送られた3人の少女を中心に、非人道的な生活を強いられた事実をもとに描かれたドキュメンタリー・タッチの物語。

 従兄弟にレイプされたマーガレット、未婚の母・ローズ、孤児院で少年を挑発したバーナデットが周りの冷たい待遇のため性的堕落の烙印を押され、強制の名目で修道院へ送られる。

 たった40年前に実存したとは思えない中世のような刑務所なみの環境に驚かされる。刑務所と違い刑期がないため、一生ここから出られないかもしれない少女達の絶望感は想像以上だろう。

 カトリック批判ともとれる修道院の扱いぶりが、これでもと言うほど出てくる。宗教に寛大な日本では、それ程問題にならなかったが、ヨーロッパではかなり議論を呼んだ話題作。今は、3人がソレゾレ人間らしい生活を送っているのに心が少し落ち着く。

「過去のない男」(02・フィンランド) 85点

2015-03-04 09:36:20 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・A・カウリスマキが本領を発揮した作品。

  
 「浮き雲」のアキ・カウリスマキによる製作・監督・脚本のカンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品。彼の作品には欠かせないカティ・オウティネンが主演女優賞を獲得している。

 フィンランドの首都ヘルシンキ。街の片隅で暴漢に襲われ、半死半生で生き延びた男(マルック・ベルトラ)の物語。悲惨な境遇なのに、ユーモラスで淡々と再スタートしようとする男。

 ほのぼのとしていて思わず応援せずにはいられない。カウリスマキの綿密な作りが登場人物に息を吹き込んでいて感動もの。尊敬する<小津映画の模倣>を衒いもなく取り入れ、光を活かした映像とカットもこの作品にぴったり。

 2人の朴訥としたラブ・ロマンスを中心に、世間から弾き飛ばされ都会の片隅に住む人々が善いヒトばかりで、お金に目のない悪徳警官も何処か善良そう。

 飼い犬が猛犬ハンニバルという名とはウラハラなメス犬なのもカウリスマキらしい。おまけに偶然巻き込まれた銀行強盗が倒産した経営者で、従業員の給料を払うために押入り自殺する挿話まである。

 イスケルマ(フィンランドの歌謡曲)を唄う救世軍の上司(国民的歌手アンニッキ・タハティ)と人気バンド、マルコ・ハーヴィスト&ポウタハルカも作品の雰囲気を醸し出している。

 また日本通ぶりを発揮して、日本酒で寿司弁当を食べる食堂車のバックにクレイジー・ケンバンドの「ハワイの夜」が流れるのもご愛嬌。

 「人生は前にしか進まない」というキャッチフレーズが全編を通して描かれている。主人公の過去が解ってこれからの人生がどうなるのか、最後まで観客の期待を裏切らない。カウリスマキの本領発揮作品である。

「薬指の標本」(04・仏) 80点

2015-03-02 11:02:39 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・女性の危うさと妖しさを見事に映像化。

  
 「博士の愛した数式」の小川洋子・原作を、デュアーヌ・ベルトランが監督、脚本も手がけ、若い女性が新しい世界へ踏み入れる危うさと妖しさを女性監督ならではの繊細さで幻想的に描いて行く。

 21歳のイリス(オルガ・キュリレンコ)が飲料工場で薬指を損傷した不幸な出来事から、心身のバランスを崩してしまう。仕事を求め面会した不思議な標本技術士(マルク・バルベ)にドンドン惹かれるようになり、離れられなくなってゆく。

 演じるO・キュリレンコはウクライナ出身のスーパー・モデルらしく、少女の面影を残しながら大人っぽい女の魅力を画面いっぱいに披露してくれる。
 相手役のM・バルベも目力があって、どこか冷徹な影を感じる静の演技で好演している。

 プレゼントされた靴が重要な小道具となって2人の関係を暗示していて、だんだん足に喰い込んで行くさまなど、キメ細かな演出も見事。

 原作にはない港の風景やホテル、同宿の船員とのすれ違いなど、全てがイメージを膨らませてくれる。ただ、これも原作にはない標本室に出てくる少年がちょっと唐突な気がした。

 ベス・ギボンズの音楽が、効果的で夢のような物語だった。

「ドット・ジ・アイ」(03・英=スペイン) 80点

2015-02-28 08:09:18 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・ ただのラブ・ストーリーではない、最後まで目が離せないサスペンス。

  
 マシュー・パークヒル監督によるラブ・サスペンス。<細かいことに気を使う>という意味ありげなタイトル。ロンドンで暮らす美しいスペイン人・カルメンを巡るセクシーな男キッドと婚約者バーナビーの物語。思いがけない逆転劇にドンドン惹きこまれて行く。

 前半は三角関係のラブ・ロマンスで一旦終結したかに思えたが、それからがこの映画の本領を発揮するところ。「人生は映画とは違う。」という<卒業>の台詞が象徴的。

 貧しいスペイン・ダンサーを取り巻く2人の男の立場がコロコロ変わって、最後まで種明かしは分からないままラストシーンまで興味を持たせる。

 本当に3人は<映画とは違う人生>を、送ったのだろうか?レビューするには本当に難しいが、なかなかの映画だ。

「リバティーン」(04・英) 75点

2015-02-27 08:02:34 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・ 才能を持て余す哀しさを熱演したJ・デップ。

  
 ジョン・マルコヴィッチの熱意で実現した意欲作。新人監督ローレンス・ダンモアが才能を発揮。

 17世紀イギリス王政時代に彗星のように現れた天才詩人ジョン・ウィルモットことロチェスター伯爵(ジョニー・デップ)の物語。冒頭のアップからラストシーンまで、J・デップがあたら天才が持つ時代にそぐわない人物の哀しさを、想い入れタップリに熱演している。世のデップ・ファンには堪らない作品だ。

 対照的にJ・マルコヴィッチが、冷静で政略家の国王チャールズ2世を好演。女優陣も多彩でサマンサ・モートン(愛人・エリザベス)、ロザムンド・バイク(妻)、ケリー・ライリー(娼婦)とそれぞれ違うキャラクターで華を添えている。

 J・マルコヴィッチに惹かれて観た映画だが、人によって好き嫌いがハッキリしそうな作品だ。

「ブリジット・ジョーンズの日記」(01英・米) 70点

2015-02-23 11:09:45 | (欧州・アジア他) 2000~09
 ・ キャスティングの妙でベストセラーを再現。

   
 世界23カ国に翻訳され、働く独身女性に人気となったヘレン・フィールディングのベストセラーを、自身が共同脚色したラブ・コメディ。監督は映画初監督のシャロン・マグアイア。

 ロンドンの出版社に勤める32歳のブリジットは、ちょっと太めのシングル・ウーマン。新年に<日記を付け、タバコとお酒を控え、体重を減らして、恋人を見つける!>と誓う。そして<ハンサムな上司のダニエルには気をつける>ことも。

 現実には出版社を退職してTVリポーターに転職できることもないし、こんなセクシーな上司もいなければ幼なじみのエリートもいない。<ありのままの君が好きだ>といわれることもないだろう。だからこそ、ヒロインに自分を重ね、励みになるのだ。

 観ている分にはキュートでチャーミングで愛すべきキャラクター。何事にも上手くいかないながら、一所懸命な姿に共感する女性に指示されたのだろう。これが現実だったらどの職場にもこういう女性が必ずいて、周りに迷惑がられているのも事実。

新年の決意から33歳の誕生日まで、恋に仕事に悪戦苦闘しながら頑張るブリジットを愛情をこめてユーモラスに描いていて、思わず父親のような気分で応援してしまった。

 大ヒットした最大の理由はキャすティングの妙だろう。周囲の反対を押し切ってテキサス生まれのレニー・ゼルウィガーを起用したのも成功。「ザ・エージェント」で注目された彼女の、庶民的な可愛らしさがヒロインにぴったり。彼女のクイーンズ・イングリッシュの2か月特訓と体重増量も成果のあらわれ。

 相手役のダニエルにヒュー・グラントはロマンティック・コメディの第1人者。おまけにセクシーな上司で女性にモテモテはもっとも得意なキャラクター。もうひとりバツイチの堅物弁護士マークにはコリン・ファース。達者な演技には定評があるが、TVドラマの「高慢と偏見」のダーシー役の現代版の役柄で、出番は少ないがH・グラントに負けていない。

 ひとつ不満なのは日本人への偏見・差別。マークの元妻は日本人で介添え役のダニエルが奪ったというストーリー。ブリジットの心の台詞で<a cruel raced ex-wife>というのはスラングで<残酷な劣等人種の元妻>という意味。

 喜劇なので目くじら立てるのも大人げないが、原作にはない台詞をあえて入れたのは脚本家に想い込みがあるからだろう。日本でも大ヒットしたが、字幕は言い変えてあった。15年後でも偏見は変わっていないとすれば、誠に残念なことだ。


「幻影師アイゼンハイム」(06・米、チェコ) 70点

2015-02-22 10:39:19 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・S・キングが絶賛したラスト・シーンのラブ・サスペンス。




 スディーヴン・ミルハウザーの短編小説集「バーム」から、ニール・バーガー監督が究極のラブ・サスペンスに仕上げている。

 19世紀のウィーンを舞台に、幻影師アイゼンハイム(エドワード・ノートン)と侯爵令嬢ソフィ(ジェシカ・ビール)が愛を貫くストーリー。台詞が英語なのに違和感は拭えないが割り切って観るしかない。ウール警部(ポール・ジアマッティ)が狂言廻し的役割でこの映画の要となっている。

 類似テーマにC・ノーラン監督の「プレステージ」(06)があるが、時代設定は同じでも奇術師の対決やトリックを如何に映像で種明かしするかに興味があった「プレステージ」に対し、CGを駆使した本作は種明かしは一切なくその点では物足りないかもしれない。

 スティーヴン・キングが絶賛したラスト・シーンはフラッシュバックでスッキリさせてくれるが、ウール警部の演技なくしては成立しなかっただろう。オスカー撮影賞にノミネートされただけあって、ハプスブルグ帝国末期のウィーンが幻想的。

 ヒロイン・ソフィアに華やかさが欠けるきらいがあったが、ルドルフ皇太子がモデルのレオポルト皇太子(ルーファス・シーウェル)の徹底的な敵役振りがあってこそ、ふたりのラブ・ストーリーが際立ち、イリュージョンの種明かしに気があった筆者も、楽しむことができた。


「君を想って海をゆく」(09・仏) 80点

2015-02-20 08:03:20 | (欧州・アジア他) 2000~09

  ・ルクス映画賞受賞に相応しい、メッセージ性のあるドラマ。

   


 「パリ空港の人々」(93)、「灯台守の恋」(04)の監督フィリップ・リオレの会心作。ロンドンにいる恋人に会うためドーバー海峡を密航しようとする少年と、彼に泳ぎを教える水泳コーチとの触れ合いを描きながら、難民問題にスポットを当てたメッセージ性のあるドラマ。

 ラブ・ストーリーを思わせる邦題のとおり<愛するヒトへの真摯な姿勢>にハラハラさせられるが、原題の「WELCOME」が意味するように難民問題を抱えるフランス独特の複雑な心情が見え隠れする。

 難民受け入れの少ない日本ではあまり現実味がないが、かつてイラン人が大量に不法滞在して社会問題となり、強制撤去した経緯があるのを思い出す。フランスには移民担当大臣がいることで分かるとおり、大変ナーバスな問題である。

 舞台のフランス最北端の港町カレは、ドーバー海峡の玄関口で難民収容所があった。リオレ監督は、実情を2年間に亘る取材の末にこの映画を完成させている。難民を手助けする市民が尋問を受けるのを、ドイツ占領下と比較したため政治論争となり話題を呼んだ。まさに欧州議会ルクス映画賞(EUの文化的多様性を扱った最も優れた作品に与えられる)受賞に相応しい。

 水泳コーチ、シモン(ヴァンサン・ランドン)の立ち位置が好い。元金メダリストだが今はしがないスイミング・スクール水泳コーチで、教師の妻マリオン(オドレイ・ダナ)とは離婚訴訟中。未練たっぷりなシモンは、教師の傍ら難民ボランティアを務める妻の気を惹くために、クルド人難民の少年・ビラル(フィラ・エウェルディ)に関わりを持っていく。

 キッカケは動機不純だが徐々に温かい感情が湧いてきて、警察代理官に我が子だというほどになっていく。その心情変化が巧みに表現されていて上質な人間ドラマとして鑑賞できる。「すべて彼女のために」(08)に続いてシリアスな役を演じたV・ランドンの好演によるところが大だ。

「ココ・アヴァン・シャネル」(09・仏) 65点

2015-02-14 08:04:30 | (欧州・アジア他) 2000~09
 ・トップ・ブランド<シャネル>誕生までを眼で演技したO・トトゥ。
 
 

 ヴォーグ編集長エドモンド・シャルル=ルーの原作をもとにアンヌ・フォンテーヌが脚色・監督、「アメリ」のオドレイ・トトゥが主演している。

 08年が生誕125周年、10年が創業100周年ということで<シャネル>の映画が3本作られているが、本作は孤児院育ちの少女が自らのスタイルを確立するに至るまでの若き日の恋物語が中心のドラマ。

 「ココ・シャネル」(08)はシャリー・マックレーンが71歳で復活するシャネルが生い立ちから人生を振り返る仕立てで、、プロフェッショナルの苦悩が描かれていてなかなか良く出来た映画だった。ただ、英語版だったのでパリのトップモードの臨場感はなく、シャネル本社の協力も得られなかった。
 
 もう1本の「シャネル&ストラヴィンスキー」(09)はブランドのミューズであるアナ・ムグラリスが演じているが、名声を得てからの逸話を切りとった番外編の趣きだった。

 本作はフランス語でしかもシャネル本社の協力のもと、本国で大ヒットしたというので、本命登場と言うところ。<アヴァン>とは<前>と云う意味だそうで、まさに25歳でパリで帽子店を創業するまでの物語なので憧れのトップブランド・オンパレードとはいかない。

 19世紀末から20世紀初頭のフランス上流社会のシキタリを息苦しく感じながら必死に生きてきた少女がどのように暮らしてきたかにスポットが当たっている。

 20世紀のフランス女性ではエディット・ピアフと並び称されるガブリエル・シャネル。生い立ちも似ていて、姉とともに田舎のキャバレーで歌って踊る傍らお針子で生計を立てていた。ココはそこで歌っていた歌から付いた仇名。這い上がるにはパトロンが必要で貴族の将校バルザン(ブノワ・ポールヴィールド)の家へ押し掛け愛人となる。ここで社交界を知ることになるが、コルセットに高い靴・羽根飾りの帽子の女性ファッションに違和感を覚える。

 生涯独身を貫いたのはイギリス人実業家アーサー・カぺル(アレッサンドロ・ニヴォラ)との出会い。密かに望んだ結婚はアーサーが石炭王の娘との婚約をしていたため果たせず、「結婚は形式で君との愛は変わらない」という言葉を聴いたから。そのアーサーも愛車での事故死であっけなく逝ってしまう。

 エディット・ピアフと比べても遜色のない波乱万丈の前半生記だが、共感が伝わってこないのは何故だろう?あまりにも<行動力ある女性として描くこと>に焦点が当たり過ぎて生きて行く必死さや人を愛する感情が湧いてこないのだろうか。不遇な境遇から這い上がったとはいえ、あまりにも自己本位な行動の女性に映ってしまったのかも。

 O・トトゥは眼の演技で表現するのが上手な女優だが、あまりにも切ないココの感情を表現するには何かが不足していたように感じた。

「4分間のピアニスト」(06・独) 85点

2015-02-11 10:36:09 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・ 定番では終わらない音楽ドラマ。

    
 刑務所でピアノを教えるために赴任したクリュガー(モニカ・ブライブトロイ)は殺人犯で服役中のジェニー(ハンナ・ヘルツシュプリング)という少女に出会う。粗暴で反抗的ながらピアノの才能のあるジェニーには、養父との忌まわしい想い出があって、将来を嘱望されながら殺人犯となった経緯がある。クリューガーには60年前愛する女性を失ったトラウマを引き摺っている。

 2人が看守や受刑者たちの嫉妬や憎悪にもメゲズ、ピアノで未来への希望、生きる喜びを得るというストーリーを想像するが、一筋縄では行かないところが本作。

 随所に、シューマン・シューベルト・モーツアルト・バッハの音楽が流れるが、何といってもラスト・シーンに流れる<アネッテ・フォックス>が衝撃的。この演奏の吹き替えとレッスンをしたのが日本人の白木加絵というピアニストであることも興味深い。

 脚本家クリス・クラウスが好走8年で初監督。独アカデミー賞作品賞を受賞、主演女優賞を受賞しているM・ブライブトロイは息子・モーリッツと共演した「ラン・ローラ・ラン」で知られるドイツのトップ女優。対するジェニー役のH・ヘルツシュプリングはオーディション1200人から選ばれた新人。このキャスティングが成功の要因だろう。

 設定にドイツ映画らしい重さはあるものの、観終わると清々しさが残る不思議さは、エンディングの素晴らしさのせいか?