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晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「マイ・ブルーベリー・ナイツ」(07・仏、香港) 70点

2015-02-05 08:16:09 | (欧州・アジア他) 2000~09
・カーウァイは英語作品でも独特の映像と浮遊感は健在。

  

 「花様年華」(00)「2046」(04)のウォン・カーウァイが初の英語作品に挑んだ現代劇ラブ・ストーリー。

 大都会NYの片隅にあるカフェに深夜現れたエリザベス。失恋を慰めてくれたのはオーナーのジェレミーでブルーベリー・パイを焼いて出してくれた。別れた彼のアパートの鍵を託して、エリザベスは旅に出る。

 NYからルート66でメンフィス、エリ、ラスヴェガス、ヴェニス・ビーチと横断するロード・ムービーでもある。当初はNYロケで完成する筈が予算が掛かり過ぎるので急遽撮影場所を変更したという、いかにもカーウァイらしい裏話もある。「セブン」の撮影監督ダリウス・コンジの映像はCMでコンビを組んでいるので、独特のスタイリッシュな雰囲気は健在。アメリカ的というより無国籍風の風景映像が流れる。

 ヒロイン、エリザベスを演じたのはグラミー賞歌手のノラ・ジョーンズ。本人役での映画出演はあったが本格的演技は初めて。素直な演技は好感が持てたが、初主演は荷が重かった感も・・・。彼女自身NYでカフェのアルバイトをしながらデビューのチャンスを待っていた経験もあって、感性を見込んでのエリザベスに起用したのは如何もカーウァイらしいキャスティングだ。
 相手役のジェレミーには、英国の若手演技派ジュード・ロウが選ばれた。こんなカフェがあったら女性客が押しかけるだろうと思わせるほどで優しさを持ち合わせたカッコよさ。元恋人役のショーン・マーシャルも一瞬出ていたが、寧ろ挿入曲「ザ・グレーテスト」が雰囲気づくりに一役かっていた。このあたりは音楽ライ・クーダーの意図なのだろうか?
 
 最初と最後がNY、次に57日後のメンフィス、そして251日後ラスベガスと短編3話が繋がってひとつのドラマが構成されている。
 メンフィスでは別れた妻を諦めきれずアル中になった警官アーニー(デイヴィッド・ストラザーン)とその妻スー・リン(レイチェル・ワイズ)の物語が中心となる。達者な2人に囲まれてN・ジョーンズは狂言廻しの役割り。D・ストラザーンの代表作はオスカーノミネートされた「グッドナイト&グッドラック」(06)だが、小悪魔的な妻に逃げられたやるせない中年警官に成り切っていた。妻を演じたR・ワイズは登場したとき誰だか分からないほどの奔放な美しさ。オスカー受賞(助演女優賞)作「ナイロビの蜂」(06)とは別人のような女っぷりに驚かされた。
 真打ち登場はラスベガスで登場した女性ギャンブラー役のナタリー・ポートマン。ジャガーを担保にエリザベスから2000ドルを借金するが、父親への反抗から抜け出せないでいる。青味がかった鮮やかなワンピースに金髪を靡かせジャガーで疾走する姿は、若いころのジーナ・ローランスのイメージで起用したカーウァイのキャスティングの確かさを知る想い。

 結局、N・ジョーンズを囲む4人の芸達者が巧く絡み合ってひとつのラブ・ストーリーが構成されていたが、肝心のヒロインに変化があまり感じられずNYへ逆戻りした感じ。

 豪華な脇役を揃えながら俳優のスケジュールの都合なのか、撮影中にシナリオを変えて行く独特の製作手法なのか、纏まりに欠けた構成になってしまったのが惜しい。それでもシネマスコープを使ってのスタイリッシュな映像と浮遊感が漂うラブ・ストーリーは、他の誰とも違う世界を見せてくれている。とくに色使い、ブルーベリー・パイ、手紙・電話、ガラス瓶、鍵、モニターカメラなど小道具を巧みに活かしたドラマ作りでカーウァイのセンスの良さを満喫。



 

「ある侯爵夫人の生涯」(08・英) 70点

2015-01-31 08:07:44 | (欧州・アジア他) 2000~09

・煌びやかで閉鎖的な貴族社会の暮らしをドラマチックに描写。

   
18世紀後半、マリー・アントワネットと同時代に生きた英国・デヴォンシャー侯爵夫人・ジョージアナの生涯を描いたアマンダ・フォアマンの伝記小説の映画化。ドキュメンタリー出身のソウル・ディヴによる監督・脚本。米アカデミー衣装賞を獲得している。

ダイアナ妃が子孫でもあるスペンサー家からデヴォンジャー侯爵家へ17歳で嫁いだジョージアナ。現代の夫婦生活とはかけ離れた世界で、夫は世継ぎを生むことだけを望む跡取りのための政略結婚だ。華やかな社交界での人気と煌びやかな生活の陰で、夫との関係は彼女の期待とは違っていた。
それを慰めてくれたのは、親友エリザベス・フォスターで侯爵に同居の許可を得る。皮肉にもその親友を夫に奪われ、<妻妾同居>が続いて行く。

いっぽう文学・政治のサロン主宰者として、女性のファッションリーダーとして脚光を浴びて行くジョージアナ。そこで知り合ったのは政治家を目指すチャールズ・グレイ。紅茶のアール・グレイの由来は彼の名に起因する。後の首相はまだ野心家の若者だった。2人はたちまち恋に落ちる。もともとギャンブル・酒・恋と3拍子揃ったバイタリティ溢れる型破りな女性の生涯は波乱万丈だ。

ヒロイン、ジョージアナを演じたのはキーラ・ナイトレイ。「つぐない」「プライドと偏見」のコスチューム劇でお馴染みの若手女優だ。肖像画を観る限り豊満な女性だったが、細身のナイトレイとはイメージが違う。ただ華麗な衣装を纏っての美しさは引けを取らない。

侯爵に扮したのはレイフ・ファインズ。当時の貴族がそうであったように彼もまた下半身に節操がなく、使用人との間にできた女の子がいた。結婚後もエリザベスとの仲はスキャンダルとなる。
ただ男として見ると同情の余地はある。世継ぎを儲けるというプレッシャーのなか、17歳の娘との結婚は本意ではない。現代風にいえば、結婚と恋愛は別モノというところか?妻が男の子を産む前に好きな男との不倫は想定外だったことだろう。お互い様では済まない侯爵家のスキャンダルはちょうどチャールズ・・ダイアナ夫妻と重なる。「不器用な男だ。」と述懐する侯爵をさりげなく好演しているが、女性からはブーイングが聴こえそうな役柄だ。

チャールズ・グレイ役のドミニク・クーパーは風貌が歴史劇には合わない感じがした。親友でもあり恋敵でもあるエリザベスを演じたヘイリー・アトレルはジョージアナとは正反対の肉感的。3人の子供を元・夫から取り返そうと侯爵を頼るがジョージアナへの親愛も失わない複雑な役。ヘレナ・ボナム=カーターが適役だと思うが、年齢的には無理だったかもしれない。ジョージアナの母にシャーロット・ランプリングが扮していたが、<名家の女の在り方>を諭す凛とした女性で適役だった。

長編2作目のS・ディヴ監督には荷が重かったのかもしれない。史実を元にしたドラマの功罪を背負いながら、このドラマを観た。ちょうどNHK大河ドラマの「篤姫」のように。

「007/カジノ・ロワイヤル」(06・英=チェコ=独=米) 75点

2015-01-15 07:29:31 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・若返った6代目J・ボンドはD・クレイグ。

  
 オールド・ファンには懐かしいスパイ・アクションのバイブル的存在。21作目ジェイムス・ボンドには公開前から賛否が話題となったダニエル・クレイグ。若返った6代目ボンドは大成功で違和感ない。イアンフレミングの原作シリーズ第1作を忠実に映画化して原点に戻った。監督はマーティン・キャンベルが復帰して拘りの演出が窺える。

 いきなりのノンストップ・アクションから目が離せなくなる。空港でのカー・アクションや水に沈むヴェニスの家などの見せ場に、敢えてCGを使わないことで却って迫力が増した。お馴染みのボンドガール(エヴァ・グリーン)が知的で人間味もあって魅力的。

 脇を固めるマッツ・ミケルセンとのポーカー・シーンも見もの。お馴染みM役のジュディ・デンチ、CIAのジェフリー・ライト、キーマンであるマティス役のジャンカルロ・ジャニーニと多彩なキャスティングも魅力だ。

 上映時間の長さを感じなかったのは、ポール・ハギスの脚本によるところが大きい。ジャンルを超えた脚色能力の高さに感心させられた。

 まずまずのクレイグ・ボンドは果して何作続くのだろうか?。

「Dear フランキー」(04・英) 85点

2015-01-13 07:59:10 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・ 母と子の絆を見事に描いたオーバック監督の佳作。

    
 CM出身のショーナ・オーバック監督の長編デビュー作。スコットランドの海辺の町を背景に、母と子の絆を描いた佳作。

 リジー(エミリー・モーティマー)は難聴の息子フランキー(ジャック・マケルホーン)と母の3人家族。グラスゴー近くの海辺の町へ引っ越してくる。実は、夫のDVのために逃げてきたのに息子には本当のことを言えず、ACCRA号で世界中を航海しているという架空のハナシを造り、何年もウソの手紙を送り続ける。偶然その船が街に寄港することを知って、2日間だけのストレンジャー(ジェラルド・バトラー)を雇うことになる。

 母と子の絆を描きながら、単なる甘ったるいお涙頂戴ものではない人物描写にオーバックの6年間の準備期間は無駄ではなかった。カンヌ映画祭で上映後20分間もスタンディング・オべーンションが鳴りやまなかったのも頷ける。

 初主演のE・モーティマーはスコットランド地方の地味で芯の強い母親でありながら、控えめな女の感受性を持ち併せる女性役を好演している。孤独なストレンジャー役のG・バトラーは「オペラ座の怪人」のファントム役と両極の<白鳥の騎士役>で、誰が演じても好い役を、シッカリとキャラクターを浮き出させて存在感を魅せた。16歳まで父親を知らなかった実体験が何処かに生きていたのかもしれない。

 事実上の主役はJ・マケルホーンで、ハンデキャッパーでありながら、母親をそれとなく守っている賢い少年役を等身大で演じていて、将来性を感じた。心温まる佳作を堪能した。

「白いリボン」(09・オーストリアほか) 85点

2015-01-12 08:27:55 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・抑圧された時代背景を切りとったM・ハネケの傑作。

    

 「ファニー・ゲーム」(97)「ピアニスト」(01)のミヒャエル・ハネケ監督・脚本によるクライム・ミステリーで、カンヌ国際映画パルムドール受賞作品。ミステリーといってもそこはハネケで、次々と怒る事件の犯人探しの映画を期待するとついて行けない。

 ときは1913年、第一次大戦直前で、ところは北ドイツの寒村で荘園主の男爵(ウルリッヒ・テトュクール)が支配する村。唯一の医師(ライナー・ボック)が馬で帰宅途上自宅前に張ってあった針金で重傷を負うのをキッカケに次々事件が起きる。敬虔なプロテスタントの村民は疑心暗鬼となりながら、真相を追及しない。

 <白いリボン>とは、子供が悪さをしたトキその戒めとして、大人が腕や頭に白い布を巻きつける。牧師(ブルクハルト・クラウスナー)は自分の子供に不条理な抑圧の象徴であるリボンとともに鞭打ちまで行う。それは純潔であれという子供への欺瞞に満ちた大人の願望でもあった。

 この閉塞的な寒村の情景をモノクロの美しい映像と、BGMを一切使わない雰囲気が、抑圧された時代背景を見事に切り取って魅せる。男爵を頂点として家令・牧師・医師とそれぞれの家族は、権威主義の塊でその言動が妻や子供達に無意識な悪意を振りまいているのに気付かない。

 唯一の救いは、都会から赴任してきた若い教師(クリスチャン・フリーデル)。良識を持ち合わせ、乳母の17歳の恋人もできる。彼が晩年に振り替える物語という構成でもある。ハネケはこの教師を仕立屋の息子で恋人の名をエヴァにしたのは、ナチス・ドイツの予感を観客に暗示したのだろう。

 子供達は大人の前では従順だが、欺瞞だらけの大人の世界をしっかり観ていた。この世代が’19ドイツ労働党結成とともに次の時代を担って行くのだ。

 現代を抑圧されたこの時代に置き換え大人たちへの警告を込めた本作。ハネケの信条である<観客にポップコーンを食べさせない>骨太な作品を2時間25分堪能した。


「戦場のピアニスト」(02・ポーランド=仏) 85点

2015-01-10 08:07:48 | (欧州・アジア他) 2000~09
 ・ R・ポランスキーの実体験がオーバー・ラップ。

     
 ウワディスワフ・シュピルマンの原作をロマン・ポランスキー監督、ロナルド・ハーウッド脚本で映画化。カンヌ映画祭のパルムドールを始め、英・米アカデミー賞・最優秀監督賞など受賞作品多数。

ユダヤ系ポーランド人・ウワデク(エイドリアン・ブロディ)が、ナチス・ドイツによるポーランド侵攻から撤退までの間、奇跡的に生還したストーリー。

 実話をもとにしただけに心を打たれるが、監督自身ゲットーで暮らし、母親をユダヤ人収容所で亡くした経験を踏まえた渾身の代表作品となった。

 「ナチスは悪で、ユダヤは善」という映画は数限りなくあるが、人間はもっと複雑で、自分が生き残るために他人を裏切るし、思い遣りを見せたりもする。本作は、それを音楽という人類共通のコミュニケーション手段を通じて真髄に迫って行く。

 命を救ったドイツ将校ヴィルム・ホーゼンフェルド(トーマス・クレッチマン)がベートーベンの「月光」を弾き、ウワディクがショパンの「バラード第一番ト短調作品23」を弾くところが印象的。

 主演のE・ブロディはもちろん脇を固める大勢の出演者が、この感動的な物語をそれぞれのシークエンスで支えていた。

 

   

「シチリア!シチリア!」(09・伊・仏) 80点

2014-09-02 16:27:11 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・ 郷土愛と生きる歓びを詩的に描いたトルナトーレ。

                    

 若干32歳で「ニュー・シネマ・パラダイス」(88)を作ったジュゼッペ・トルナトーレが原点に返って、生まれ故郷シチリアを舞台に30年代から80年代まで、50年間のトッレヌオヴァ一家を描いたファンタジー。

 少年たちがコマ遊びの最中、大人たちは賭けに興じていた。ある少年が父親からタバコを買ってくるようにいわれ夢中で駆けだすプロローグ。少年は何時しか空を飛び、眼下にはバーリア(バゲリアの俗称)の街並みや荒涼とした岩が続くシチリアが一望に見えてくる。
 
 ファシズム時代、バーリアで暮らす牛飼い一家の次男・ペッピーノ。貧しいながら、オリーブ園や乳牛を売り歩く仕事をしながら学校に通っていた。ある日学校で立たされ教室の隅で寝てしまう。

 主人公ペッピーノ(フランチェスコ・シャンナ)が逞しい青年となり、長い黒髪で大きな瞳の美しい娘マンニーナ(マルガレット・マデ)に恋をする。マンニーナの母の反対を押し切り結ばれるまでのエピソードを始め、子供に恵まれ、父・チッコや兄・ニーノとの別れ、子供を失う悲しみ、マフィアの存在、政治家を目指し共産党に入党、政治の闇を体験、国政選挙に敗れるも5人目の子供に恵まれ、息子・ピエトロの旅立ちを見送る...。

 次から次へと家族の出来事を繋ぎ合わせたシークエンスは、バーリアにカメラを据えながらファシズムの崩壊、第二次大戦敗戦、共和国成立というイタリア現代史が背景に浮かび上がって見える。時代とともに移り替わる街並みや服装にはリアルさを追及するトルナトーレの拘りが感じられる。

 F・シャンナは甘いマスクで青年期から主人公を演じ切り、M・マデはトップ・モデルのスタイル・風貌で魅了して映画初出演とは思えない好演。子供たちはノビノビと演技していて、大勢のエキストラ動員による臨場感とともにトルナトーレ演出は健在だ。

 無名だった2人を支えるようにモニカ・べルッチ、ルイジ・ロ・カーショ、ミケーレ・プラテドなど著名俳優達がワンシーンで華を添えているのも見逃せない。

 長いようで短いヒトの一生。トルナトーレはそれを親子3代の時空を超えたストーリーで、まるでタバコを買って帰ってくるような速さのようなものだと言っている。それは<「邯鄲の夢」シチリア版>だというように。

 エピソードの連続は自叙伝だと思うほど思い入れが強すぎて入り込めないシーンや、ファンタジックなシークエンスに首をかしげてしまったところも。「題名のない子守唄」(06)で作風が変化し始めた直後、ローマで暴漢に襲われ生死をさ迷ったトルナトーレ。だからこそ郷土を愛し、それを繋いで行く家族の大切さ・愛おしさを映像化したかったのだろう。

 暗い時代を元気に過ごすシチリア庶民のバイタリティが明るい陽射しとともに映え、名コンビの巨匠、エンニオ・モリコーネの音楽が、ときに軽快でユーモラスな流れで、辛く哀しい心情を洗い流してくれる。

「預言者」(09・仏) 85点

2014-07-06 12:55:30 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・長さを感じさせないプリズン・ドラマの傑作。

                    

 「リード・マイ・リップス」(01)、「真夜中のピアニスト」(05)のジャック・オーディアール監督が、人種間対立のある刑務所内で生き残るために様々なことを学びながら伸し上がって行く青年の姿を描いたプリズン・ドラマ。脚本を完成させるまでに3年を要したJ・オーディアールは寡作ながら絶えずハンディキャップを負った人間の生き様をドラマチックに描いてきた。

 今回も19歳の孤児であるアラブ系のフランス人マリクが刑務所という社会の縮図である世界でどう生き抜いてきたかを実にスリリングに描いて2時間30分の長さを感じさせない傑作に仕上げている。カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリ受賞作品。

 日本公開は3年後の12年。理由のひとつには無名な俳優が主役(タハール・ラヒム)で、著名な俳優はコルシカ・マフィアのセザールを演じたニエル・アレストリュプだけの地味なキャスティング。これがオーディアールの狙い通りで、観客を惹きつけて止まないのだから映画は面白い。

 身寄りのない孤独なマリクは所内で最大勢力のコルシカ・マフィアに目を付けられ、アラブ系レイェブ
を殺すよう強要される。初めて人を殺めたマリク。ボスのセザール庇護のもと、フランス語、コルシカ語、アラブ語の読み書きを覚え、生き残るスベを学んで行く。このあたり台詞は少ないがセザールのN・アレストリュフの圧倒的存在感が光る。

 マリクが殺した男の亡霊と会話する幻想的シーンが何度か出てくる。題名の由来は殺した男なのかそれとも<神と接触し神の言葉を人々に伝えるような主人公・マリク>になぞらえてのことか?

 舞台はフランスの中央刑務所で、これが想像とはかけ離れた日々を送る囚人たち。看守はボスに買収されいいなりで、模範囚は日帰りの時間指定ながら外出が許される。マリクの外出日に観た海岸の風景はヒトキワ眩しい。

 マリクは6年間でセザールの指示のもと地下ビジネスのノウハウを学び、先に出所した親友リヤドとともに麻薬ルートを開拓してチャンスを窺う。さらにジプシー(ロマ)のジョルディと手を組みコルシカ一派の一掃を図る。

 19歳の無学な青年が徐々に成長し、6年間で立派な?リーダーとなって行く様は現代フランス社会への複雑な問題提起にも重なってる。社会派ドラマとは思わせないフランス映画伝統のフィルム・ノワールの世界を醸し出している点では、「ゴッド・ファーザー」の持つ義理・人情のナルシリズムとは違うギャング映画の誕生を想わせる。

 現に続編が期待できそうなラスト・シーン。タハール・ラヒムが演じる出所後のマリクを観てみたいが、5年が経ってしまった。緻密で慎重なオーディアールが筆を取るのは何時のことになるのだろう。ハリウッドでリメイクが企画進行されているのでこちらが先になりそうだ。

 

「96時間」(08・仏) 70点

2014-05-28 12:34:34 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・ リュック・ベッソンが、L・ニーソンで新キャラクターを生んだ。

                    

 リュック・ベッソンが「レオン」のジャン・レノ「トランスポーター」のに劣らない新キャラクターをリーアム・ニーソンを起用したタイムリミット・アクション。続編が4年後製作され、今年シリーズ3作目が待たれる。監督は撮影監督出身のピエール・モレル。

 主人公ブライアン・ミルズはロスに暮らす元CIA工作員。退職したのは離婚した元妻レノーアと暮らす17歳の娘キムと会うためで、娘のためなら何でもするという親バカぶり。

 折りしも誕生日にプレゼントのカラオケBOX持参で再会するが、裕福な義父からの馬のプレゼントに大喜びする娘に寂しい想いを味わう始末。

 原題が「TAKEN(誘拐)」なので、溺愛する娘が誘拐され、ブライアンが必死に救いだすストーリーが連想される。想ったとおりの展開なのだが、思ったより本題に入らず序盤20分ほどは親バカぶりが目立つ。

 これはL・ベッソンの思惑どおりで、家庭人としては失格のブライアンが、娘が旅先のパリで誘拐されそうになった途端、一変する。ここからは有無を言わさないノンストップ・アクションに目が離せなくなる。カーチェイス、ガン・アクション、ファイト・シーン満載は、突っ込みどころを引っ込ませる迫力充分。

 筆者にとってL・ニーソンは「シンドラーのリスト」(94)の印象が強いが、「スターウォーズ」シリーズなど幅広い役柄でもお馴染み。今回55歳で演じた新しい人物像で健在ぶりを魅せてくれた。

 <娘のためならエフェル塔も壊す>というブライアン。世の父親にはマネできないが、娘を心配する父親像はひとり娘を持った筆者にも充分共感の93分だった。

 

「カレンダー・ガール」(03・英/米) 60点

2014-04-10 11:28:42 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・ 小品ながら英国らしいユーモア溢れる爽やかさ。


                    

 実話をもとにユーモアたっぷりに描いた傑作といえば、「フルモンティ」(97)を思い出す人も多いだろう。本作はその女性版という宣伝文句で公開された記憶がある。

 ヨークシャーの田舎町ネイプリーで作られた中高年女性のヌード・カレンダーという想定外のことが話題となって30万部も売れた顛末記が描かれている。主演は後に「クイーン」(07)で賞を総なめにしたヘレン・ミレンだけに、今想うと役柄とはいえそのギャップに興味をそそられる。


 ことの起こりは、婦人会のメンバー集会でマンネリのテーマに飽き飽きしていた、クリス(H・ミレン)とアニー(ジュリー・ウォルターズ)の親友コンビ。アニーの愛する夫・ジョンが白血病で倒れ、その病院に椅子を寄付することで企画されたもの。

 周囲の好奇心や家族や婦人会幹部の反対を押し切ったクリスたちの行動力に、関西のおばちゃん同様のバイタリティを感じる。地方ならではの古いシキタリに潜在していた不満欲求がここに集結。

 ヨークシャーの美しい田園風景とともに、中高年女性の解放感が心地良い。残念だったのはハリウッドに招待されることになった後半。必要不可欠なシーンだが、はしゃぎ過ぎるオバサンたちを見せられ急にハートフルな気持ちが萎えてしまった気がする。


 それでも英国らしいユーモアとチョッピリ刺激の効いた作りは、爽やかなエンディングで心が洗われ女性版「フル・モンティ」に納得。ただカレンダーは欲しいとは思わなかったが・・・。

 そういえば邦画では「ぷりてぃ・ウーマン」(02)というハートフル・コメディの佳作がある。女性のパワーはグローバルだと改めて認識させられた。