遊び人親子の日記

親子で綴る気まぐれ日記です。

舶来屋

2009年08月10日 14時13分54秒 | 読書
            舶来屋      幸田真音(著)2009年7月発行

  東京、銀座、並木通りにある、超高級店「サン モトヤマ」創業者の
  茂登山長市郎氏をモデルにした一代記です。

  今から20年程前のバブルの頃に、ブランドだ、セレクトショップだと、
  色んな店が欧州から輸入したブランド品を店頭に並べ、
  それに女性達が群がる、という現象が起こった記憶が鮮明です。
  しかし、それより数十年前の外貨持ち出しの厳しい時代に、
  フランス、イタリア、スペイン、イギリスなどを、
  伝統の技、美しいものを求めて、ひたすら行脚し、敗戦国の東洋人として
  鼻にもかけられない態度をとられながらも、粘り強く交渉し、日本に
  初めて“グッチ”や“エルメス”を紹介し、輸入販売したのが、
  この小説の主人公なのです。

  主人公のチョウイチロウは、祖父の代からの商人の家に育つも、戦争で 
  二等兵として徴集され中国に送られる。
  激しい戦闘の中で、生死の境を運よく生き抜き、なんとか帰還する。
  戦場に赴く直前の休暇ではじめて見た、上海の租界のウインドウディスプレーに、
  「万が一、生きて日本に帰れるのなら、こんな綺麗なものを売りたい」と
  いう熱い想いを抱いたチョウイチロウだった。
  その想いを胸に、戦後間もない闇市から商売を始め、苦難のなかでも
  商いを楽しむ姿勢を貫き、美しいものを第一に、時代を先取りしていく。
  例え、失敗したとしても、
  彼は、「私は、反省はするが、後悔はしないよ」という。
  その逞しい精神と商人としての矜持が、なんとも心地よいのだ。
  
  最近のアメリカ流の収益至上主義に凌駕された欧州の各ブランドが、
  現地独立法人(ジャパン)設立し始め、古くからの信頼関係で結ばれていた
  “グッチ”や“エルメス”との決別を覚悟するチョウイチロウを描いている
  ところなどは、読んでいてなんとも切なくなる。
  ただ、その辛く苦しい状況でも、次の一手、更なる美しいもの貴重なものを
  世界に探し求める姿には感服してしまった。
  チョウイチロウ氏(80歳を超えているのですよ)が、どんな時代の荒波も、
  商人として凛とした誇り、限りない情熱を持ち、生きることを楽しむ姿、
  そして、そのお洒落さに憧れてしまいます。
  素敵な日本の男性です。
  他にも、お店を切り盛りした素晴しい女性や作家、有名人、
  主人公が迷わず「文化を売る商人の道」へ進めるよう道を示した恩人も登場
  し、とても興味深い、戦後の銀座一代記でした。
  そして、その時代の景気の流れにより客層が変化する様子は、ある意味で
  戦後の経済史を読んでいるようでもありました。

    わがまま母

  
  
  
  
  
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