遊び人親子の日記

親子で綴る気まぐれ日記です。

風花病棟

2009年06月01日 15時12分57秒 | 読書
          風花病棟       帚木蓬生(著)2009年1月発行

  帚木氏の作品にしては、珍しい短編集です。
  今までの小説のようなドラマティックな展開や、サスペンスはないのですが、
  しみじみと味わい深い話が10編。
  いずれも、医療の現場を舞台として、「医師と患者」のあり方について、
  様々な形が描かれていて、それが「人生」の生き方をも語っています。
  それぞれの話に、必ず「花」が脇役として登場、それもまた楽しみ。

  どの話にも、感慨を覚えたのですが、戦争と医師の関係(軍医)を取り上げて
  いたのが、『チチジマ』と『震える月』で、
  父と息子の関係がテーマとなっているのが、『百日紅』『震える月』。
  (父子関係というのも、なかなか難しい問題なのですね。
  母娘関係もやっかいだし、親子の問題って永遠のテーマなんでしょうね。)
  『顔』は、病状がかなり衝撃的で、その現場にいて目視することだけでも、
  私には無理だろうな、、、医療関係者はスゴイ。
  『終診』は、30年間診療を続けたクリニックを閉じて引退する老医師の話。
  この話は、個人的にとても身近に感じられるお話でした。
  そして、『終診』のなかで、この老医師が若い研修医の頃、当直で初めての分娩  
  に立ち会うことになり不安だった場面で、看護師(三枝さん)の言った言葉が、とても
  印象に残った。
  「先生、これからも、患者さんから逃げんで、踏みとどまって、ちゃんと見届け
  て下さい」
  ━逃げんで、踏みとどまり、見届ける。
  若かった老医師は、その言葉を胸底に焼き付けて、彼の<指針>としたのです。
  そして後に、三枝さんの最後を見届けることになる、という巡り合わせが
  待っていました。

  他にも、医師と患者の心の琴線に触れる良い話ばかり。
  いつもの小説よりも、より作者の気持が、率直に表現されていると感じました。
  10編中では、強いていうなら、理由はまだ不明ですが、
  私は『震える月』に惹かれました。
  短編なので時間がかかりません。
  就寝前に一話づつじっくり読んでもいいし、通勤途中に読むのもいいかもしれ  
  ません。
  現在は、色んな問題山積の医療現場ですが、どんな問題も、基本は医師と患者
  のつながりなんだなぁ、とあらためて考えさせられました。

    わがまま母
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