いないも同然だった男 パトリス・ルコント(著)2015年7月発行
『髪結いの亭主』などの作品で有名なフランスの映画監督が書いた小説。
ドーバー海峡を一人で泳いで渡る話、と聞いて読み始めたものの、
それは小説のテーマに占める割合は、さほどでもなく、チョッと落胆。
子供の頃から家族と居ても、大人になって職場(パリの銀行勤務)においても、
存在が認められず、あたかも居ないかのような扱いを受け続ける男の日々が
淡々と語られていく、いかにもフランス小説らしい語り口。
日々、まるでそこに存在していないかのような扱いを受け、
それを自然なこと仕方ないこととして受け入れて暮らす男が、
職場で好意を抱く女性に「自分の存在に気付き、振り向いて欲しい」
そして「出来る事なら自分の気持ちを受け入れて欲しい」と一念発起。
唐突に、ドーバー海峡を一人で泳ぎきることができたら彼女に気付いてもらえる
のではないか・・・と、妄想を逞しくする。
巨大なフィンとウエットスーツ、食料を入れたリュックを背負い、
ある日、ついに無謀にも、イギリスの海岸から海峡横断泳を開始。
まあ、満足なトレーニングも準備もしていないまま実行しているので、
結果は推して知るべし。
そこが、私が想像していたドーバー海峡横断泳話とは全く違っていて
期待はずれだった、というだけで、小説の意図はそこにはないので止むなし。
切実で身の危険を思わせるシーンもありつつ、
ラストが悲劇で終わらない、ってところが昔のフランス映画と違うかな。
それでも、やはりフランスっぽい空気感あふれる小説でした。
わがまま母