遊び人親子の日記

親子で綴る気まぐれ日記です。

長いお別れ

2016年03月09日 11時01分00秒 | 読書

       長いお別れ      中島京子(著)2015年5月発行

    なんとも後味のいい小説♪
    認知症の家長と家族の話、らしいので、多少覚悟して読み始めたのですが、
    娘達の心情に共感したり、一生懸命介護する母親に尊敬の念を抱いたり、
    ユーモラスな場面や会話にクスッと笑ったり、、、
    途中、病状の悪化でシリアスな状況もあるのですが、
    決して暗くなったり重くなりすぎず、
    清々しい気分のまま読み終える事ができました。
    表現方法が決して派手ではなく地味に絶妙で上手いんですね~。
    ともすると、陰鬱になりがちなテーマを、こんな風に読ませるとは、、、
    素敵です。

    登場人物は、中学の校長を退職した夫、三人の娘を育て家庭を守ってきた妻、
    今は結婚し家を離れ子育てに奮闘中の長女と次女、自活し仕事に多忙な三女。
    
    ある日、同窓会に出かけたはずの夫が、会場に辿り着けず自宅に戻ってくる。
    夫の行動に不安を抱いた妻のすすめで、「ものわすれ外来」を受診したところ、
    アルツハイマー型認知症と診断され、それから夫の病状が徐々に悪化していき、
    夫を支えようと介護する妻の奮闘、父と母の介護をめぐり姉妹の葛藤の日々が
    きめ細やかに、それぞれの環境と心情とともに描かれている。

    個人的に、父の最期の数年間を思い出させられ、その時の自分の行動や家族の
    対応を振り返ったりしながら読みました。
    また、高齢の実母のこれからを考えたり想定したりも。
    認知症への対応は、家族にとって、なかなか難しく大変なこと。
    
    でも、最期の方で、妻が認知症の夫についての思いを描いた箇所には
    長年連れ添った夫婦の真実を感じその絆に感動。

    ―
    夫がわたしのことを忘れるですって?
    ええ。ええ、忘れてますとも。わたしが誰だかなんてまっさきに忘れてしまいましたよ。   
    その「忘れる」という言葉には、どんな意味がこめられているのだろう。
    夫は妻の名前を忘れた。結婚記念日も、三人の娘をいっしょに育てたこともどうやら
    忘れた。二十年前に二人が初めて買い、それ以来暮らし続けている住所も、それが
    自分の家であることも忘れた。妻という言葉も、家族、という言葉も忘れてしまった。
    それでも夫は妻が近くにいないと不安そうに探す。不愉快なことがあれば、目で訴えてくる。
    何が変わってしまったというのだろう。言葉は失われた。記憶も。知性の大部分も。
    けれど、長い結婚生活の中で二人の間に常に、あるときは強く、あるときはさほど強くも
    なかったかもしれないけども、たしかに存在した何かと同じものでもって、夫と妻は
    コミュニケーションを保っているのだ。
    幸いだったのは、夫の感情を司る脳の機能が、記憶や言語を使うための機能に比べて、
    損なわれなかったことだろう。ときおり、意のままいならないことにいら立って、
    人を突き飛ばしたり大きな声を出したりすることはあるけれど、そこにはいつも何らか
    の理由があるし、笑顔が消え失せたわけではない。この人が何かを忘れてしまったから
    といって、この人以外の何者かに変わってしまったわけではない。
    ええ、夫はわたしのことを忘れてしまいましたとも。で、それが何か?
    ―

    著者の作品は、以前に『かたづの!』を読んだのみで、
    それも時代背景と特にテーマがユニークで、とても面白かったのですが、
    本書はそれとは全く違う現代を背景にリアルな今のテーマをもとに、
    じっくり読ませてくれる小説です。
    誰が読んでも、それぞれが共感する部分に出会える小説ではないか、
    と思うのですが。
    これもまたお薦めしたい一冊。

      わがまま母
    
    

    
    
    
    

    
 
    
    
   
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