ここ最近、私の勤務校にいる学部生・大学院生や卒業生たちが、大阪府内のある公立小学校へ出入りしています。それは「学力向上」を目的として、放課後や夏休みなどの長期休暇中の小学生たちを対象にした学習サポート事業の「手伝い」のため。ちなみに、その小学校では、放課後の子どもたちを対象にしたいわゆる「学童保育」の事業も行われています。
正直なところ、こうした事業の展開に対して、私は複雑な思いを抱きます。なぜなら、学童保育や小学生の放課後の学習サポート活動というのは、実はこれまで、大阪市内や大阪府内の各自治体で「青少年会館」事業として展開されてきたことではないか、と思ってしまうからです。あるいは、大阪市内・府内の児童館や隣保館(市民館、人権文化センター)などで、類似の活動を展開してきたところもあるでしょう。
しかも、もしも今まで青少年会館や児童館、隣保館などで、こうした学童保育や放課後の学習サポート活動が行われていたとしたら、それは行政施策のひとつとして、相応の専用施設や教室用スペースを持ち、常勤か非常勤か、雇用形態は別として一応そこに張り付くスタッフを置いて、活動費もでる形で行われてきたわけですよね。今、私の大学から学生・大学院生や卒業生が出入りしているように、1回いくらの交通費補助(しかも、遠方の人だと足りないかもしれない)で、たいした活動費もなく、学校の余裕教室で行っているのとは、相当、条件整備面で開きがあります。
「学力向上」に大阪市や大阪府内の各自治体の教育施策が「特化」してしまうことには、私個人としてはいろいろと思うところはあります。ですが、「学力向上」だけに教育施策を「特化」するとしても、この現状を見ていると、「教育行政はあまりにも金をかけなさすぎる」とか、「あまりにも安上がりに施策をやろうとしすぎる」と思うのは、私だけでしょうか。
しかも、これまでも、子どもたちでの学校での「学力」獲得には、「家庭」の文化的・経済的な階層間格差の問題が色濃く反映していると、よく教育社会学系の研究者たちが語っています。その階層間格差を埋めていく社会保障・社会福祉や就学援助等の施策にはたいした取り組みをせずに、ぎりぎりにまで人数を絞り込んだ学校現場の教員たちのふんばりと、学生たちのように「安上がり」に動員可能な「市民」ボランティアの「善意」で、「とにかく、金をかけずに学力向上」をというのは、やっぱり、私としては「虫がよすぎる」ように思うのです。「本気で学力向上策をとりたいのであれば、せめて行政当局は子どもや若者の社会教育・生涯学習部門にお金をかけ、放課後に学びたいこと・体験したいことのある子どもや、子どもに何かをさせたい保護者たちに対して、その機会を整備すべきだろう」と思うわけです。
もちろん、だからといって今、目の前に支援を必要とする子どもがいて、協力要請が私のところに学校現場などから入ってくれば、それを放置しようとは私も思いません。また、学生や大学院生の社会参加体験という観点から見れば、こうした活動にかかわることの意義も認めます。しかし、それが「安上がりな教育行政」の施策に「市民の善意」が「動員」されるようなものであっては、やっぱり何か、私としてはひっかかってしまうわけです。「市民」はそんなに都合よく、役所の財政次第で左へ右へと動かされるものではないだろう・・・・と、思ってしまうわけです。
ついでにいうと、このあたりはNPOを含む民間への行政からの事業委託だとか、指定管理者制度の適用などにも言えること。従来の行政が負担してきたさまざまなコスト削減のためだけに、NPOなど民間への事業や施設運営の委託、それも3~5年と期間を区切っての委託を進めていくだけなら、民間で働く人々の不安定雇用を増やすだけのように思います。
また、そういう不安定な雇用を維持するがために、「何か、うまい話はないか?」とNPOを含む民間側が行政施策の動向に絶えず注意を払い、何かにつけ、それにのっかかるように動いてしまうのであれば、「それは行政当局による新たな形態での民間へのコントロール(露骨に言えば「支配」)ではないのか?」と思えてなりません。
このような次第で、私は今、大阪市や大阪府内の各地で教育行政当局が導入しようとしている施策については、それを「学力」問題を扱ってきた教育社会学系の人たちの視点とは別に、「安上がりな施策」に動員される「市民」という視点から、まさに教育行政学や教育政策論的な立場から検討してみる必要があるように思います。でなければ、学校現場の教員たちはこのままだとますますヘトヘトになり、「善意」で動員されたまともな「市民」たちは最初だけ気分はいいものに、やがてあまりの「安上がりな施策」に苛立ち、ストレスを抱えてしまうことになるだろう、と思うからです。もっとも、「お上にさからわず、喜んで下請けを引き受ける」ような心性を持った「市民」であれば、こうした批判や苛立ちもでないのでしょうが・・・・。
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