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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

こういうときに「児童憲章」と「子どもの権利条約」を読む

2011-04-09 18:46:13 | いま・むかし

敗戦後の混乱期にあった日本が制定した「児童憲章」(1951年)の条文のなかに、次のようなものがある。

「三 すべての児童は、適当な栄養と住居と被服が与えられ、また、疾病と災害からまもられる」

今、東日本大震災で被災した子どもたちの暮らしを前にして、もう一度、この「児童憲章」の条文は思い出されるべきだろう。

また、「児童憲章」全体を読み直して、教育・保育・福祉・心理・医療等々、被災した子どもたちを支援するあらゆる活動の原則として、関係者の間で確認しなおす作業が重要ではないかと思う。

一方、子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)もまた、このたびの東日本大震災を前にして、あらためて被災した子どもたちの今後の暮らしを考えていく上で、教育・保育・福祉・心理・医療・法律・行政など、あらゆる場面において対応上の「基本原則」として再確認していく作業が必要なのではないだろうか。

それこそ、たとえばこのたびの大震災で親(保護者)を亡くした子どもたちについては、子どもの権利条約20条の次の原則が適用されるべきであろう。

子どもの権利条約第20条(家庭環境を奪われた児童の養護)

1 一時的若しくは恒久的にその家庭環境が奪われた児童又は児童の最善の利益にかんがえみその家庭環境にとどまることが認められない児童は、国が与える特別の保護及び援助を受ける権利を有する。

2 締約国は、自国の国内法に従い、1の児童のための代替的な監護を確保する。

3 (省略)

あるいは、子どもの権利条約27条(生活水準への権利)についても、このたびの大震災に際しては、被災した子どもたちの状況に応じて、柔軟に読みこなしていくべきではないだろうか。

子どもの権利条約第27条(生活水準への権利)

1 締約国は、児童の身体的、精神的、道徳的及び社会的な発達のための相当な生活水準についてのすべての児童の権利を認める。

2 父母又は児童について責任を有する他の者は、自己の能力及び資力の範囲内で、児童の発達に必要な生活条件を確保することについての第一義的な責任を有する。

3 締約国は、国内事情に従い、かつ、その能力の範囲内で、1の権利の実現のため、父母及び児童について責任を有する他の者を援助するための適当な措置をとるものとし、また、必要な場合には、特に栄養、衣類及び住居に関して、物的援助及び支援計画を提供する。

4 (省略)

この27条の原則からするならば、子どもの保護者がこのたびの大震災で被災し、住居を失うだけでなく仕事も失ってしまった場合などは、子どもとともに優先的に仮設住宅や公営住宅などの提供が受けられるべきだろうし、また、物的・金銭的にも当面の生活保障が受けられるべきであり、その先の就労支援についてもなんらかのプランづくりが行われるべきだろう。

このように、「子どもの権利条約」や「児童憲章」は、東日本大震災から1ヶ月目を迎えようとする今こそ、被災した子どもたちの支援を充実させるためにも、きっちりと教育や保育、福祉、医療、心理、法律、行政などの関係者において、読み直されるべきものだと思う。

と同時に、「こんなときこそ、<子どもの権利保障という観点から見て、何が一番大事なのか?>ということを、子どもの人権論にとりくんできた研究者だとか、子どもの人権保障の充実に向けてとりくんできた市民活動の担い手たちが、積極的にものを言わなければいけないのではないか? 今だまっていて、いつものを言うのだ?」とも思う。

正直なところ新学期に入って仕事は忙しいし、家事・育児・介護とやるべきこともあるし、依頼された原稿は遅々として進まないし、授業準備も思うように出来ないうえに、ここへ来て右腕の具合もよかったり悪かったりの繰り返し。私もほんと、やりたいことがなかなかできなくて、苦しいところもある。

でも、それでも、「できるときに、できることを」の発想で、今日もこうして東日本大震災で被災した子どもたちに関して、子どもの人権保障の充実という観点から、何か言っておこうと思った。これからも同じことを続けたい。

なお、各地で今、地方自治体の議員や首長選挙が行われている時期だが、その公約・マニュフェストなどに「子どもの人権保障」の観点のない候補者は、おそらく、大災害発生時における対応も、被災した人たちに冷たいことをやりかねない人たちだと思う。目立ちたいだけで自分の名前を連呼したり、テレビに出てくる有名な人にぶらさがって当選を狙ったりするような候補者には、少なくとも私は票を入れたくない。ましてや、津波が来るかもしれないのに、関西の臨海部に都市機能を集中させようという、そんなことを言う方は論外である。

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