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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

地方議会のチェック機能

2009-03-25 11:18:22 | ニュース

この数日、関西圏のマスメディア(もしかしたら全国ネットで?)は、大阪府庁のWTC移転案をめぐる橋下府知事と府議会各会派のせめぎあいや、府議会での採決結果の報道に明け暮れておりました。私としては、その裏でおそらく可決・成立したであろう国際児童文学館の府立図書館への移転・廃止や、府立青少年会館の廃止、さらには、大阪府内の青少年拠点施設への補助金廃止のことのほうが気がかりなのですが・・・・。

ただ、マスメディアを駆使してさんざん世論の支持をあおった上で、橋下府知事が出したWTC移転案であっても、府議会は府議会として、各会派それぞれの事情はあるものの、否決するべきときは否決することが示されたわけです。すでに一部のマスメディア報道でも出ているとおり、今までの改革手法がそう簡単には通用しなくなっているという意味で、これは府知事サイドにしてみればかなりのダメージかもしれません。

また、今の地方自治のシステムが、府民の選挙で選ばれる府知事=つまり首長と、同じく府民の選挙で選ばれる府議会=地方議会の、ふたつの代表制をとっている以上、「首長によって示される民意」と「地方議会によって示される民意」のせめぎあいというのは、今後も続くことになるかと思います。そして、このシステムによって、府知事の持つさまざまな権限に対する地方議会のチェック機能が担保されているといってもいいでしょう。

しかし、ここで立ち止まって考えてほしいのです。今回のWTC移転案をめぐるせめぎあいのように、今までの大阪府議会は、例えば府知事サイドから出てくる予算案に対してきちんとしたチェックをかけたり、あるいは、施設建設案に対して疑義を示したりすることが、どの程度あったのでしょうか? もしもそのチェック機能が有効に働いていたのであれば、府知事サイドが言うような「財政難」などは、そう大きなものになっていなかったのではないか、という気がするのです。

あるいは、大阪府としての子ども施策や教育施策に対して、府議会としては今まで、どういう見識を持って、府知事あるいは府教委サイドから出てくるものに対して、自らの主張を行ってきたのでしょうか? 府の行政サイドから出てくる提案に対して「ノー」といえる、そんな府議会であれば、なおさら、そう思いますよね。

そして、首長と地方議会のふたつの民意のせめぎあいによって、首長の持つ権限にチェックをかけていくというのが、今の地方自治のシステムだとすると、地方議会がいかに首長の打ち出す施策に対してチェックをかけていくのかという問題。これは都道府県だけでなく、市町村レベルの自治体でもいえることだと思います。

だから今後は、橋下府知事や府教委サイドから出されてくるさまざまな政策提案に対してだけでなく、府議会がどんな議論をして、どういう方針で臨もうとしているのか。あるいは、大阪市や大阪府内各市町村で首長が打ち出す施策に対して、地方議会側がどんな反応を示そうとしているのか。「地方議会」の側にも、私たちの注目が必要ではないか、と思います。府知事を含め、首長が出す政策提案をただ「追認」「承認」するだけの地方議会であれば、それはチェック機能が有効に機能していないという見方もできるので。

ちなみに、今回否決された府庁のWTC移転案ですが、「そもそもそんな予算があるなら、大阪府の子ども施策や教育施策にまわせよ」といいたかったです。また、今、何か用事があって府庁に行くと、分散してどこにどの部局の入っている建物があるのかわからない面がありますが、しかし、その程度なら案内表示をきちんと整備すればいいわけで、「別に今の大阪城周辺にある府庁で、何が問題なの?」と思います。さらに、「わざわざ、今の交通の便利のいいところを棄ててまで、ニュートラムくらいしか使えない南港に行くのもなぁ・・・・。府庁に出向く用事のある人のこと、ちゃんと考えているの? 災害発生時に府庁がまず孤立するんじゃないの?」という思いもありますしね。そして、もっと地方分権化の流れを推し進めて、今後いっそう、市町村レベルに都道府県レベルから行政権限を委譲するのであれば、大阪府庁はもっと規模を縮小してもいいわけですし、そうなれば、「今ある府庁を補修工事しながら使うことで、何か問題があるのか? あるいは、大阪城近辺の最近建造されたビルの借り上げではなぜだめなのか?」と言いたくなりますしね・・・・(その補修工事や建物の借り上げの幅ですら、どの程度必要なのか、かなりシビアに見積もりをすることは可能でしょう)。

だから、こういうことから考えてみても、府知事サイドから出てくる行財政改革のプランは、「いったい、何が基本的な基本原則なのかがわからない」わけです。例えば、「財政再建でムダな出費を抑える」というのであれば、「当然、それを基本原則にして府庁移転案も検討しなければいけないのでは? そこだけ聖域ですか? なぜそれは聖域なのですか?」という批判ができるはずなのです。そして、当面の財政再建策はやりつつも、その間に、「そもそも、国や府が責任を持って担うべき行政施策は何で、各市町村が担うべきものは何か」という根本的なところから、もっと徹底した議論をしたほうがいいような気がするのですが・・・・。

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