角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

忘れなかった草履。

2011年10月31日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き〔4,000円〕
【2012年1月1日より4,600円】
こちらも季節的には、落ち着いた秋をイメージさせます。赤やピンクといった明るい配色も角館草履らしいのですが、こうした情緒のある草履も私は好きですね。案外お若い女性がお選びになるかも知れません。

50歳代後半と思しきお母さんが、ほぼ真っ直ぐ草履コーナーへ向かって見えました。過去にお会いしているように思えるのですが、すぐには思い出せません。簡単な挨拶のあと様子を伺っていると、数少ない展示品の中からなんとか選ぼうとする気持ちが見えました。そこで初めて、『リピーターさんでしたか?』とお声をかけてみました。

『ウチのおばあちゃんが病院に入院しているときからこちらの草履を履いていたんですけど、このところ認知症が出てきて施設に入ったんですよ。車椅子に乗っているときなんか足を寂しそうに見てて、そしたら草履のことを口にしたんです。せっかくだから新しい草履を履かせてあげようと思って、病院にいるときからみんなに自慢していたんですよっ』。

お母さんのこのお話を聞いて、すぐに思い出しました。2009年4月29日のブログでご紹介の、角館草履を病院の看護師さんたちに自慢していたおばあちゃんです。
あれからもう二年半、当時の病気はほぼ大丈夫とのことですが、そうでしたか、施設にお入りだったんですね。

お母さんもおっしゃるように、昔のことはよく憶えていて、今のことを忘れてしまうのが認知症です。そう思えば、角館草履のことをよく忘れずにいてくれたものです。もうトイレ内くらいしかご自身の足で立つことはないそうですが、車椅子に腰を下ろしていても草履の心地良さはお分かりいただけると思います。

お帰り際に、『ずーっと草履を編み続けていますから、おばあちゃんに遊びに来てくれるように伝えてください』と言うと、『そうですねっ』と笑顔のお母さん。
桜の花柄が美しいシックな草履を、おばあちゃんが待つ施設へとお持ちになりました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする