緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

尺八 「手向」、「三谷菅垣」を聴く

2019-07-07 20:23:03 | その他の音楽
ギター、ピアノ、オーケストラなど西洋の楽器で作曲された日本風の曲で、日本が西洋化される以前の純粋に日本情緒を感じさせるものは極めて少ない。
ギターでは伊福部昭、原田甫くらいか。
日本が西洋化される以前、すなわち江戸時代までの音楽は、箏、三味線、琵琶、尺八、篠笛といった楽器で演奏されていた。
これらの楽器のほとんどは中国などから伝わり、日本古来のものではないと言われている。
しかしこれらの楽器が日本に伝来してから、日本独自の文化と融合し、独自の進化を遂げたことで、もはや生来の地域のルーツに存在していたであろう特質とは隔絶したものとなっていったに違いない。

そのことを端的に表している楽器が尺八だと思う。
尺八は古代中国から伝わったようだが、現在日本の尺八の曲として残されているものは日本独自のものだ。
尺八は音が独特なので、和楽器の中でも人気は今一つのようだ。
しかしそういった先入観を脇に置いて聴いてみると、この楽器から聴こえてくる音楽が、極めて日本情緒に富んでいることが分かる。
私には箏、三味線以上にそれが感じられる。

日本情緒というものは一体どういうものなのだろう。
日本が、それも西洋化される以前の明治時代以前、すなわち外国との交流を閉ざしていた時代に生まれた、世界に類を見ない、独自の環境、時代背景から生まれた、主にその時代の庶民の感情を表したものだと思う。
それでは独自の環境、時代背景とはどのようなものであろう。
恐らくそれは、鎖国、士農工商による身分制度、男尊女卑といった厳しい政策のもとに庶民に強いられた抑圧的生活環境であり、このような環境のもとに、庶民が表立って表すことの出来なかった気持ちから生まれ出たものではないかと思う。

尺八などの曲を聴くと陰旋法と呼ばれる音階で構成されているものがほとんだ。
暗く、寂しく、もの悲しく、素朴で静かである。
しかし、それだけではない。
重要なのは、これらの感情が、今よりもはるかに美しかったであろう、昔の日本の四季折々の、素朴であるが、思わず佇まずにいられないほどの景色、風、静かな中に聞こえてくる鳥のさえずりや虫の鳴き声などと密接にかかわっていることだ。
これらの関わりは意識されたものではなく、昔の日本人の感性として、いわば当たり前のものとして備わっていたのではないかと思うのである。

思うに昔の日本人は恐らく世界で最も忍耐力が強かったであろうが、それ故に、西洋化された今では完全に消滅した独自の豊かで繊細な感性を持っていたに違いないと思うのだ。
それは強いられた忍耐から必然的に生まれた抑圧的感情をベースとしており、諸外国に見られるような開放的なものとは全く性質を異にするものだ。

このような感性を感じる手段として最も有効なのは、尺八、琵琶などの楽器のオリジナルの音楽を聴くことだと思う。
西洋の楽器に移し替えられたものは、必然的にどうしても西洋の音楽と混在してしまう。
純粋さが失われてしまう。

下の譜面は、原田甫作曲の「ギターソナタ」第2楽章冒頭の暗く寂しい旋律。
単旋律で奏でられる。
尺八か篠笛の音をイメージして作られたと思われる。




1週間ほど前のことだが、尺八の曲で「手向」、「三谷菅垣」という曲をYoutubeで見つけた。

Katsuya Yokoyama - The Art of Shakuhachi


「手向」は2曲目(7:05~)、「三谷菅垣」は3曲目(11:02~)だ。
投稿者のコメント欄にワンクリックで曲に飛べるようになっている。
是非聴いて頂きたいと思う。
静かな誰もいない夜の方がいいだろう。
尺八の録音をYoutubeでいくつか聴いてみたが、このYoutubeの「手向」と「三谷菅垣」が一番素朴に心に響いてきた。

昔の日本人の感性に触れる一つの貴重な手段だと思う。

演奏者の横山勝也氏は武満徹のノーベンバー・ステップスの尺八演奏者として初演し、その後も数多くこの曲を演奏した尺八界の第一人者。
私はこのノーベンバー・ステップスの1984年のライブ録音、指揮:岩城宏之、尺八:横山勝也、琵琶:鶴田錦史、N響、を大学生の頃にテレビで見た。
凄い演奏であった。
現代音楽との融合の試みに賛否両論があるだろうが、尺八や琵琶といった日本の伝統楽器の持つ魅力が世界に認識されたのも事実だ。

武満 徹:ノヴェンバー・ステップス


琵琶奏者の鶴田錦史氏の演奏が凄い。
殆ど体がぶれずに演奏する鍛錬された技術に感動する。
因みに鶴田錦史氏は女性だ。
ずっと男性だと思っていた。
何故男装しているか。
その波乱に満ちた人生を知りたいと思って、本を注文した。
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