緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

マルタ・デヤノヴァ演奏、シューベルト作曲「ピアノソナタ第21番D.960」を聴く

2023-11-30 21:52:41 | ピアノ
今日、久しぶりに高揚感を随分と感じさせるピアニストの演奏に出会った。
マルタ・デヤノヴァ(Marta Deyanova)という女流ピアニスト。

ネットで調べても彼女のことはディスコグラフィー以外は何もヒットしなかった。今日のところはブルガリア出身ということだけが分かった。
しかし、Nimbusというマイナーレーベルを中心にかなりの数の録音があることが分かった。
シューベルトのピアノソナタ集、モーツァルトのピアノソナタ全集、スクリャービン、ショスタコーヴィッチ、プロコフィエフ、ラフマニノフ、シューマン、ショパンなど多岐に渡るが、ベートーヴェンは無いようだ。

メルカリの広告で目に付いたという、ただの偶然の出会いであったが、直感で聴いてみようかという気になり、Youtubeでシューベルトの即興曲D.899 No.3の演奏があったのでまずはそれを聴いてみた。
あの不気味な低音のトリルが深い底から響いてくるような音を出すピアノニストだった。
もしかして、これは凄いピアニストかもしれないと思って、Youtubeで同じシューベルトの「ピアノソナタ第21番D.960」を聴いてみた。
冒頭からしばらくして現れる、あの不気味なトリルの後の幸福感の極致を感じさせるフレーズの低音のアルペジオの弾き方は今まで聴いたことの特徴的なものであった。
音に強い感情が籠っている。力強い。特に低音の重厚さと力強さはマリヤ・グリンベルクを彷彿させる。
高音もピーンと伸び、芯のある透明度のある音だ。
楽器から音を引き出す能力は並のピアニストの比ではない。今まで数多く聴いてきたピアニストの中でも屈指のレベルだ。
技巧も最高レベルに位置するものと思う。

第1楽章の後半以降に現れる、あの恐ろしいまでの孤独感を感じさせるフレーズはどうか。あのめまぐるしく陰と陽をさまよう、シューベルトのどうしようもなく心がゆらぐ部分だ。
テンポはインテンポだが、音の変化がすごい。聴く者に迫る強さがある。
ただ残念なのは第2楽章。豪快に強く弾きすぎている。繊細さ、感情の深みに欠ける。
この楽章は、死に直面した人間が、最後の最後で悟りを得る心境を表現したものだと思っているのだが、そういうものが感じされない。非常に残念。
第3楽章、第4楽章は素晴らしいと思う。

下記に第1楽章のみYoutubeの投稿を貼り付けさせていただく。(録音年1996年?) 第2楽章~第4楽章も投稿されています。

Piano Sonata No. 21 in B-Flat Major, D. 960: I. Molto moderato


それと、10年前の彼女と思われるプライベート録音の投稿が見つかった。
演奏しているのはベートーヴェンのピアノソナタ第31番。
この演奏を聴くに、間違いなくマルタ・デヤノヴァだと思う。
音の出し方が並のピアニストとは全くレベルが違う。マリヤ・グリンベルクの音に近い。特に低音。
恐らく、だいぶ昔に弾いていた曲を頼まれて弾いたのであろう。楽譜を見ながらで練習無しで演奏したと思われる。
ミスは山ほどあるが、演奏自体は凄い。この曲の完成度が高まった段階での演奏を是非聴いてみたい。
第3楽章の嘆きの歌の情感の表現、2回目の嘆きの歌が終わったあとのフーガの出だしの音の美しさと柔らかさはなかなか出せるものではない。
年を重ねて、高い技巧と音の豪快さが奥にしまわれ、繊細さと情感の豊かさが加わってきたことを感じさせる演奏だ。
この時期に録音が出されていないのが残念。
はっきり言ってこのピアニストの実力は非常に高いと思う。是非聴いていただきたい。

Marta Deyanova recording Beethoven Piano Sonata No 31 Op 110



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