緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

母校マンドリンクラブ55周年記念演奏会終わる

2023-07-17 20:18:30 | マンドリン合奏
7月16日、北海道О市で開催された「母校マンドリンクラブ55周年記念演奏会」が終わった。
母校マンドリンクラブの卒業生が演奏する記念演奏会は10年ごとに開催されてきたが、今回は、前回の50周年の後の5年後にも開催したいという要望が多く寄せられ(私もそのうちの1人だったが)、55周年の演奏会が実現したのである。

この記念演奏会、30周年までは案内が来なかったため、このような行事が開催されていることすら知らなかったのであるが、40周年の開催を前に同期のMから直接電話があり、是非参加してみないかと誘われたのであるが、当時は勤め先のシステム入れ替えで多忙で、参加は実現できなかった。
(この時のメイン曲は藤掛廣幸作曲「星空のコンチェルト」)
40周年のときにこのような行事があるのを初めて知って、次の50周年には絶対参加したいと思っていた。
そんな折、50周年記念演奏会が開催される前年の2017年5月に、鈴木静一展という個展オーケストラにエントリーしたことがきっかけで30数年ぶりにマンドリンオーケストラを再開した。この個展演奏会は2018年5月に行われた。
そしてこの個展オーケストラに参加した縁で、現在所属している社会人マンドリンクラブの活動も始めることが出来た。

50周年記念演奏会の時は鈴木静一の「北夷」、末廣賢児の「流星群」、ボッタキアリの「交響的前奏曲」などそれなりに難易度の高い曲がメイン曲として採用されたが、遠方ということもあり合奏練習に殆ど参加できなかったこと、またマンドリン合奏を再開して間もない頃だったこともあり、消化不良を感じさせる出来となってしまったのは否めなかった。
やはり演奏会というものは納得のいくまで練習して、本番でも後悔を残さず弾けて初めて本当の満足感が得られるものだと感じた。

今回の55周年は2月25日に初めて札幌での合奏練習に参加。このときはほぼ初見状態であった。
その後4月30日に開催された大規模演奏会やその後のアンサンブルのための練習に集中するため、55周年の練習は全くせず、本格的に練習を開始したのが5月中旬になっていた。
そしてこの時、自分の認識の甘さを知らされることになったのが、シューベルトの「即興曲」という曲であった。



この曲の譜面を最初見たとき、単純な3連符しか無い曲だから簡単な曲だとたかをくくっていた。
だから練習も後回しにしていた。
しかしいざ練習してみると、これが物凄く難しく、今回の曲目の中で突出して演奏困難な曲であることを思い知ったのある。
そしてこの時からこの曲の猛練習が始まった。

そして6月4日に、東京で関東在住者のための合奏練習会が開催された。
札幌から指揮者2名、ドラトップ1名がはるばる来てくれて、関東在住の6名のメンバーのために半日であったが合奏指導が行われた。
ギターパートは私1人の参加だったので、出来ないところが明確に浮き彫りにされてしまった。
とくにシューベルトの即興曲は途中で、どこを弾いているのが分からなくなり、途中で数小節ずれて演奏しているのがだいぶ後になってから分かるという始末。
こんな調子では本番まで間に合わないと思ったくらいだった。
前途多難を感じさせられた東京合奏練習会であったが、実のところこの練習会がとても楽しかったのである。
少人数ということもあり、また同じ大学の出身者ということもあったのかもしれないが、練習しているときの雰囲気とか、音楽を一生懸命作り上げていくときに感じる一体感というものがより身近に感じられ、楽器を弾いていて不出来にもかかわらず何か独特の気持ちよさのような感覚を感じていたのである。
練習後は居酒屋で飲み会、天気が良く、店の外に置かれたテーブルで飲んだビールは格別だったし、若い参加者にドラのIさんとともに鈴木静一の曲の素晴らしさを熱く語ったことは普段の数ある飲み会でもなかったことであった。

東京練習会で直面したシューベルトの「即興曲」を攻略しなければこの演奏会で満足は得られないと痛感し、それから更なる猛練習を始めた。
アップしていただいた札幌での合奏練習の録音を聴きながら猛練習を始めたものの、今までに経験したことの無い、変幻自在に変化するテンポや強弱、3連符の伴奏というものとは全く次元の異なるギターパートの編曲が要求するレベルの高さに正直、この曲は今まで弾いたマンドリンオーケストラのギターパートで最も難しいのではないかと思ったほどだった。
とくに分類番号<C>から続く和音の3連符の単音の3連符に戻る部分は録音を聴きながら何度弾いても合わせられなかった。



テンポは速まるが、メロディにどう合わせるかなかなかつかめなかった。ようやく分かりだしたのが本番直前になっていた。
しかしこの曲、難しいながらも何度も弾いているうちに、何とも言えない至福感を感じ始めていた。
曲の持つ、底知れぬ力というのだろうか、単に美しいだけで終わらない何か不思議な力がこの曲に秘められているのではないかと思うようになっていた。
そこでオリジナルのピアノ独奏を聴いてみて分かってきたのであるが、この曲には美しい旋律の水面下に、潜在的な「暗い影」のようなものが見え隠れしているような気がしたのである。その「影」とは「孤独」、「忍び寄る不安」、「恐れ」といったものであろうか。

あとで分かったのであるが、プログラムの解説にこのような記載があった。
「この編曲にあたり、ピアノ独奏曲では構造上不可能な同音上での強弱変化に挑戦しました。9小節目からの全パートによる音の響きは、アヴェ・マリアを彷彿とさせます。
31歳で天逝した天才シューベルト晩年の作である本曲には、彼の内なる喜び・穏やかさの中に秘められた情熱と苦悩の吐露、悟りからであろう濁りの無い済んだ響きが詰め込まれているようです」
ちなみにこの「即興曲」のマンドリンオーケストラ版の編曲は今回の指揮者のSさんと、50周年のときのコンマスのMさんの合作である。

弾けば弾くほど惹きこまれていくこの「即興曲」を何度練習しただろうか。弾けば弾くほど至福感で満たされた。
そして6月25日に札幌での合奏練習に参加したが、このときは手が震えて難しい箇所が弾けなかった。練習では弾けるのに手が震えて弾けなくなってしまうのである。
でもとにかく実際の合奏で指揮や他パートの演奏に触れながら弾けただけで満足感を感じた。
練習後の飲み会も楽しく、年の離れた大先輩ばかりであったが、だいぶ距離感が縮まっていくのを感じた。

そして7月15日の札幌での最終合奏練習に参加。
朝から晩まで冷たい土砂降りの雨で関東に比べて10℃以上低い気温のためか、少し風邪をひいたようであった。
午前中はパート練習。合奏練習に参加していない身なので積極的に質問していった。
女性ギタートップのSさんは音が美しく、技量レベルのとても高い方だった。
午後から合奏練習。
即興曲以外はおおむね弾けた感じ。
即興曲はやはり合わない箇所があった。先の<C>と、録音練習のときは合わせられていた<F>1小節前の部分が合わなくなってしまっていた。



残念ながら「即興曲」の合奏練習は1回通しただけで終わってしまった。

翌日、朝起きたらどんよりとした曇りで濃霧がかかっていたが、雨はあがっていた。
JR線が深夜の人身事故で遅れや運休が出ているとの情報があったが、幸運にも出発するときには定刻運行に戻っていた。
開催地のO市に近づく頃には日が差してきて天気が回復していた。

会場に着いてしばらくすると、同期で同じギタートップだったIから声をかけられた。
50周年で30数年ぶりに再会した後、5年ぶりの再会であった。
5年ぶりとはいえ卒業してから1回しか会っていなかったのでとても懐かしかった。
Iは学生時代のときよりも話やすくなっていることに気付いた。
今回スタッフとして様々な仕事を引き受けてくれたのである。
私も鍵係を指名されたので彼から段取りを聴く。

間もなくリハーサルが始まったが一部のメイン曲、武藤理恵の「Paradiso」は今までで一番弾けた。曲と同化しているように感じた。
指揮者が練習の時よりも早いテンポになってしまったと言っていたが、このテンポがずばりこの曲に最もふさわしいテンポだと思った。
最も思い入れのある即興曲はやはり<C>の部分が合わなかったのと、新たに合わなくなってしまった<F>1小節前の部分がずれていることに気付き、本番での演奏に不安を残した。

昼食後、1時間半ほど時間があった。
このときだったと思うが同じギターパートの先輩で、札幌の団体で指揮者をしているSさんから声をかけられて少し驚いた。
今まで一度も話したことがなく、もしかして私のことを嫌っているのではないかと思っていたからだ。
しかし話してみると優しく気さくな方だった。
私の所属している東京のマンドリン団体の話や、鈴木静一の話をした。
Sさんとは、演奏会が終わって懇親会の会場までの間でも会話することが出来、正直嬉しかった。

そしていよいよ本番であるが、Ⅰ部のカラーチェの「踊りと唄」は上手く弾けたが、次のアネッリの「詩的序曲」は部分的に破綻があったし、テンポも微妙に合わせられなかったかもしれないような感覚があった。
武藤理恵の「Paradiso」はリハーサルよりも弾けなかった箇所があったが、最後の難しいリズムの部分は上手くいった。

休憩をはさんでⅡ部へ。
1曲目のグリーグの組曲「ホルベアの時代」より前奏曲はおおむね上手くいった。最後の速度が大きく落ちる和音の部分も正しく打音できたのは幸いだった(練習のときは1度も合わせられなかった)。
2曲目のベルッティの「黄昏前奏曲」はかなり上手く弾けた。一番最後の和音の連続で静かに速度を落としていく部分はどこで和音を終わらせるかが、前日のリハーサルでやっとわかったという状況であったが、本番では指揮が良く見える最前列だったこともあり、指揮を見ることで正確に出音することが出来た。最後のGの音もちゃんと弾けた。
この「黄昏前奏曲」が終わった直後に拍手ともに大きな歓声が上がった。
3曲目はいよいよ最も練習し、最も思い入れのあるシューベルトの「即興曲」。
合わせるの難しい<C>の部分は少しずれてしまったようだった。そしてもう一つの<F>の1小節前はリハーサルの時に比べるとズレはだいぶ解消されていたように思う。
ただ完全ではなかったと思う。
それでも本番ではこの曲は自分としては納得のいく演奏だったと感じた。完全というわけにはいかなかったが、気持ちよく弾けているのが感じられた。幸いにも手の震えは起きず、難所も殆ど弾けたという感触があった。
そして最終曲のマスカーニの「仮面」。学生時代に演奏したことのある思い出の曲だ。
この曲はギターパートで2か所、難所があるが、この部分も何度も練習した。6月4日の東京練習では殆どテンポが合わず、弾けない箇所も多々あった部分だ。
その後、この部分を猛練習した。本番では完全とまではいかなかったと思うがおおむねテンポどおりに弾けたのではないかと思った。
この曲が終わった直後も大きな歓声が上がった。

アンコールを2曲弾き終わり、恒例の「若人逍遥の歌」を演奏したときにようやく安堵感に浸ることが出来た。
終演後、ロビーに行くと、同期のMが来ていた。Mは観客席の前から2列目に座っているのが見えた。目立つ色のTシャツを着ていたせいかすぐに分かった。
Mと、他に同期や学生時代に一緒だったメンバーが来てないか探し回ったが、残念ながら来ていなかった。
これはかなり残念だった。今まで40年近く会うことのできなかったメンバーと会えるのではないかと密かに期待していたのだが、残念だったし落胆した。

懇親会は近くのホテルで開催されたが、同期のMと同じテーブルだったので学生時代の思い出を話した。
3年生のとき、Mが正指揮者だっとときに演奏した鈴木静一の「幻の国」や、芥川也寸志の「弦楽のためのトリプティーク」の演奏のことや、Mが陰で人知れず努力していた裏話などを聞いた。
そのうちスタッフの仕事を終えた同期のIが我々のテーブルに来て、昔話や同期の連中数名の現在の姿が写った写真を見せあったりして盛り上がった。
久しぶりに思いっきり笑うことができた。
しばらくして東京での大規模演奏会で一緒に演奏し、千葉のマンドリン団体で活動しているIさんとNさんと話していると、その千葉の団体に所属している他のメンバー、後輩のTや東京練習で一緒だったセロのKさんも集まってきて、しまいにはこの千葉の団体の創立者のKさん夫妻もやってきて、私がもうこの団体に入ることが既成事実のような展開になってしまって、Kさんからはよろしくとまで言われてしまった。
Kさんからは指揮について、音楽の流れに同化することが最も重要で、指揮に合わせることが目的ではないということを言われて本当にそうだなと思った。リハーサルでの「Paradiso」でその感覚を感じていたからだ。
千葉の団体メンバーからは以前から声をかけられていたし、自分としてももっとマンドリン音楽を経験したいという気持ちもあるので、とりあえずは今年の定期演奏会(11月)には出演してみようと思っている。
その後、50周年のときのコンマスで即興曲の編曲者でもあるMさんから話しかけられて、大規模演奏会(鈴木静一展)のことなどを話した。Mさんは大規模演奏会に参加してみたいと話してくれた。この会話も嬉しい出来事だった。

今回の参加で、話をすることが出来た方々が徐々に増えてきたのはとても嬉しいことであった。
少ない出会いではあったが、同じマンドリン音楽大好き人間であり、演奏を通してのつながりを実感できたのはなによりだった。

懇親会はあっと言う間に終わり2次会にも参加。30人以上はいただろうか。
カラオケスナックだったこともあり、人の話す声が聞き取りにくい私にとっては、会話が殆どできなかった(相手の話す声が殆ど聞き取れなかった)。
それでも22時過ぎまでいて、帰路についたが殆どの人はまだ残っていた。
帰り際に、Ⅱ部の指揮者で即興曲の編曲者のSさんと後輩のベースのO君と握手して2次会場を後にした。

今回の55周年記念演奏会は自分にとってはいい経験だったと思う。
「即興曲」という素晴らしい音楽をマンドリンオーケストラ版で演奏できたこと、そのために猛練習をした日々、新たに話をすることが出来た方々との出会い、同期や後輩との再会、貴重な体験だったし、このような行事を実現するために支えてくれた方々に感謝したい。
次は60周年であるが、鈴木静一の「交響譚詩 火の山」、熊谷賢一の「マンドリンオーケストラのための群炎第6番 樹の詩」、藤掛廣幸の「スタバート・マーテル」を是非取り上げて欲しいと期待している。

【追記】
シューベルトの「即興曲」のギターパートを今日、録音してみました。完全な出来ではないです。

55周年記念演奏会の余韻冷めやらぬ シューベルトの「即興曲」のギターパートの演奏 2023年7月17日夕方

【追記20230718】
今日、再び録音。昨日よりだいぶ良いのではないかと思う。

シューベルトの「即興曲」のギターパートの演奏 2023年7月18日 再び録音


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