緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

ブリームのライブ録音を聴く

2013-09-23 10:01:11 | ギター
こんにちは。
三連休も残りあと1日となりました。
2週連続の三連休ですが、毎週三連休であれば随分健康的な生活ができるのに、思ってしまいます。
早く定年になって音楽三昧の日々を送りたいものだ。
さて最近、ジュリアン・ブリームがRCAに残した膨大な録音の全集が発売されたようです。
CD40枚セットで割引価格1万2千円しない価格で出ていましたが、1枚あたり300円しないので、ブリームの録音をあまり聴いたことのない方は買って損しないと思います。
ブリームの全集は1990年代の初め頃にも発売されましたが、当時の私は安月給の若者だったため、手がとどかなかった。確か2万数千円はしていたと思います。
しかし運よくこの全集を借りることができCDにダビングすることができた。30代初めくらいのときでした。
ブリームを聴くのと聴かないのとでギター音楽に対する楽しみが全く変わってくるといっても過言ではありません。
彼の演奏はそのくらい素晴らしくインパクトのあるものです。
今の若い方はデイヴィット・ラッセルのようなギタリストの音楽をよく聴くようですが、ラッセルを聴くくらいならブリームの演奏をとことん聴いたほうがはるかに有益でギター音楽の真髄に触れることができます。
ブリームのレパートリーは古典から現代音楽まで膨大であり、若い頃はリュート奏者としてテノールのピーター・ピアーズと共演し、ダウランドなどの古い時代の音楽の録音を数多く残しています。そのリュートは独学で習得したと言われています。
とにかく半端でないほど古典を研究、演奏した人ですが、現代音楽も数多く手がけ、レノックス・バークリー、ウィリアム・ウォルトン、ベンジャミン・ブリテンなど自国の作曲家にギター曲を書かせた。
またジョン・ウィリアムスと2重奏をしたのも有名ですね。ジョン・ウィリアムスが未だいい音を出していた時代です。
私が初めてブリームを聴いたのが中学2年生の時、ジョン・エリオット・ガーディナー指揮のアランフェス協奏曲のレコードを買った時でした。
とにかくこのアランフェスに感動し、毎日毎日何回も飽きずに聴いたものです。
レコードなど高価な時代で、少ない小遣いで1年に1、2枚買えるのが限界だったので、それこそ毎日同じ録音を何度も繰り返し聴くしかなかった。
でもその繰り返し聴く習慣がギター音楽を始め他のクラシック音楽の本物の名演奏を探し出せる感覚を身につけさせてくれた。
この時代にブリームの演奏、しかも彼が最盛期の頃の演奏を浴びるほど聴けたのは自分にとって幸運だった思います。
高校2年生の時に買ったブリームの最高の録音であるヴィラ・ロボスの12の練習曲とブラジル民謡組曲のレコード聴いたときは凄い衝撃でした。
今でもこの曲の演奏で彼の演奏を超えるものはないと思っています。
膨大な録音を残したブリームですが、意外にライブ録音は少ないですね。
これはクラシック・ギターの場合、ライブでのミスが多い傾向にあるため、ライブ録音として販売できるレベルのものが極めて少ないからだと思います。
しかしブリームのライブ演奏の中では、レコードとして販売されてもおかしくなかったような完成度の高いものがあります。
私が大学時代のときに、兄がラジオから録音したものなのですが、1982年の第36回エジンバラ国際音楽祭でのライブ演奏は殆どミスが無く、音楽的にもハイレベルです。
1982年というとブリームが交通事故で怪我をする直前で、彼の最盛期の頃ですね。
演奏曲目は以下のとおりです。

1.ファリャ:ドビュッシーの墓に捧げる賛歌
2.ソル:モーツアルトの魔笛の主題による変奏曲
3.グラナドス・詩的ワルツ集より
4.ファリャ:三角帽子から粉屋の踊り
5.ビゼー:組曲イ調
6.バークリー:一楽章のソナタ

5年くらい前にTESTAMENTからこのライブ演奏で1曲のみソルの魔笛を入れたCDが発売されたが、音源が老朽化したせいなのかキンキンした金属的な音で、ラジオから録音した音とは別物みたいに聴こえます。古い音源からCD化する際によくあることで、当時の演奏の真価を全く伝えていないのは残念だ。
さて素晴らしかったのは、ドビュッシーの墓に捧げる賛歌、詩的ワルツ集、組曲イ調、一楽章のソナタ。
ドビュッシーの墓に捧げる賛歌はファリャの唯一のギター曲として知られていますが、リョベートがファリャの原譜に色々手を入れたようで、やらたハーモニックスの指定がされていますね。
さすがブリームはリョベートが後から付け加えたと思われるハーモニックスは一切演奏せず、原音で弾いています。この原音で弾くことにより、ファリャが表現したかった気持ちを正確に表現しているように感じます。
次にグラナドスの詩的ワルツ集。この編曲の録音は1983年ごろだったでしょうか。レコードで発売されましたが、それに先立つライブ演奏。ブリームが1990年代前半に来日した時にもこの曲を聴くことができた。
この曲については以前私のブログで紹介しましたが、編曲の素晴らしさもさることながら、演奏はブリームの先のヴィラ・ロボスの録音と並んで彼の最高の演奏ですね。
この曲をギターでここまで演奏できる人は後にも先にもブリームしかいないと思う。
私はラローチャのピアノ演奏よりも素晴らしいとさえ思っています。
途中で6弦をD音に下げたり上げたりして調弦しなければならないのですが、ブリームは調弦が曲の流れを損なうのを嫌い、出した結論が曲の切れ目で音を出して調弦せず、糸巻きを音を出さずに回してE音→D音、D音→E音に上げ下げするというもの。これは驚きでした。しかも早業で。
次にビゼーの組曲イ調ですが、会場全体にギターの音が鳴り響くような素晴らしい音です。楽器はまず間違いなく1973年製のロマニリョスだと思います。
最後の曲であるバークリーの一楽章のソナタですが、このライブ演奏では最高の出来です。





破綻の一切ない完璧な演奏で、楽器の鳴りも十分、そして何よりもブリームの演奏中の集中力が伝わってくる最高に素晴らしい演奏です。
ブリームはこの曲をレコードに録音しませんでしたが、これだけ完成度の高いレベルまで仕上げたのにもったないです。
作曲者のバークリーは先に述べた、レノックス・バークリー(ソナチネや主題と変奏曲などが有名)とは別人です。
ファーストネームを何て呼ぶのかわかりませんが、Michael Berkelyという作曲家の曲で、現代音楽の部類です。
ただ純粋な現代音楽ではなく、無調をベースにしながらも調整音楽風のフレーズが数多く挿入される曲で、かなり長い曲です。
この曲はリズムの変動に特色のある曲で、速いペースの中で譜面どおりのリズムを刻むのは非常に難しいです。
しかしブリームは演奏は譜面に極めて忠実です。クラシックギタリストの中にはリズムが不正確な人が多いのですが、ブリームの譜読みは正確で聴いているとその能力の高さに圧倒されてしまう。
特に次の箇所など速いテンポの中でリズムも複雑となりゴルペも出てくるので演奏するのは至難だ。



そして最後は度肝を抜かれるような終わり方。この終わり方が最高にかっこいい。



この一楽章のソナタのギター演奏を聴けば、他ジャンルの名演奏家にも必ず一目置かれると思います。
徹底した無調音楽ではなく、ユーモア感を感じる明るいフレーズや躍動間を感じるリズムの連続するフレーズが出てきたり、かなり中途半端な感じのする曲でもありますが、とても楽しめる曲です。大学時代はこのテープを何度も聴いていました。
この一楽章のソナタ、ブリームの演奏以外に今から10年ほど前の東京国際ギターコンクールの本選で、ある日本人の方が自由曲で弾いていたのを聴いたことがあります。
でもこの曲を録音したり、演奏会で演奏するギタリストは殆どいないと思います。
それはブリームがレコードに録音しなかったため、一般に広まらなかったためだと思いますが、こういう現代の曲を今のギタリストはどんどん弾いて欲しいですね。
こういう曲は1960年代から1970年代に数多く作曲されたので、埋もれている譜面はたくさんあると思います。
最近の若いギタリストはプログラムにバリオスのおなじみの曲や、ピアソラや映画音楽などのポピュラーものの編曲をのせる傾向なのでつまらないですね。
ジョン・ウィリアムスの80年代以降の活動の影響を受けているのかもしれませんが、こういう選曲ばかりしているとクラシックの作曲家はギターに目を向けなくなってしまうと思います。クラシックギターはポピュラー楽器というイメージが先に付きまとうからです。
ブリームが映画音楽やビートルズなどの編曲に手を出さなかったのはさすがだと思う。
ピアノなどの器楽の巨匠の録音を調べればわかりますが、本物のクラシック音楽家は聴衆に対して安易な迎合はしないですね。彼らは公には決してポピュラー曲を演奏していません。ポピュラー曲はその道のプロに任せておけばいい、自分は自分のテリトリーで最大限の仕事をするだけだという、けじめとプライドがあるのだと思います。
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