緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

ベートーヴェン ピアノソナタのライブ演奏を聴きに行く

2013-09-21 22:24:45 | ピアノ
こんにちは。
三連休の初日は夏に逆戻りしたような暑さでした。
昨日の真夜中、三連休なんだから久しぶりに演奏会を聴きに行こうと思い立ち、インターネットで検索していました。
今年に入ってからベートーヴェンのピアノソナタ全曲の鑑賞に取り組み、かなりの数の演奏家の録音を聴いてきましたが、やはり生演奏を聴いてみたいという気持ちがありました。
インターネットで検索して、この三連休に行われるピアノの演奏会を検索してみたところ、何と幸運にもベートーヴェンのピアノソナタだけの演奏会が今日(21日)開催されることがわかり、是非聴いてみようと決めました。
その演奏会とは、アプリコ・ベートーヴェン・プロジェクト 仲道郁代ピアノ・リサイタルというものでした。
しかも演奏曲目の中に私の好きな第32番(Op.111)が入っているため、本格的な演奏会に違いないという期待もありました。
今日の午後、会場の東京都大田区蒲田にあるアプリコ・ホールに開演の50分前に着き、当日券を買いましたが、残りの席数がごくわずかしかなく、あともう少し到着が遅かったら来たはいいけど演奏を聴けないで終わってしまったかもしれません。
そのくらい満席状態でした。
A席でしたが2,000円と良心的な価格でした。



ホールは幅はやや狭いが奥行きが広く、後ろに行くほど傾斜が高くなり、私は一番後ろから2番目の端の席だったのですが、舞台のピアノからかなり位置が高く距離が長いのに驚きました。こんなに離れているとピアノの音が聴こえないのでは、と少し心配になりました。
曲目は次のとおりです。

・ピアノソナタ第8番 ハ短調作品13「悲愴」
・ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調作品27-2「月光」
・ピアノソナタ第26番 変ホ長調作品81a「告別」
・ピアノソナタ第32番 ハ短調作品111

開演のブザー鳴り現れた演奏者の仲道郁代さんは私にとって初めて聴くピアニストです。
日本のピアニストは余り知らないのですが、仲道郁代さんは私が20代の頃に買った音楽雑誌で紹介されていたこともあり、名前だけは覚えていました。
いきなり演奏に入ると思ったら、演奏の前に仲道さん自身が曲の解説をしてくれました。
これはいい趣向だと思います。
曲を聴く前にその曲のポイントとなる解釈を事前に知っておくのと知らないで聴くのでは大きな差が出ると思います。
特に演奏会は1回きりの演奏なので、聴いた演奏をより深く記憶にとどめておく為にもいいことだと思いました。
第1曲目の「悲愴」の前に、ベートーヴェンにとってハ短調の曲が特別な意味があると解説して下さったが、今日演奏された悲愴や第32番はハ短調であり、この調性はベートーヴェンの過酷な運命を感じ取ることのできる曲に見られるとのことでした。言われてみると確かにそうだと思った。
さて演奏が始まって先に述べた、音が聴こえるだろうかという杞憂は払拭された。
ピアノから一番遠く離れた席に座っているのに、音が鮮明に聴こえたのはびっくりしました。弱音から強音まで前の方の席と何ら遜色がないと思いました。
このホールはとても響きが良く、ピアノ向きのホールだと思いました。また演奏者のタッチがしっかりしていたからに違いありません。
ピアノのライブ演奏は私にとって初めてだと思いますが、演奏者である仲道さんの打鍵はとてもしなやかで無駄な力が入っておらず、力みのない自然な音楽の流れにまず魅了された。
また技巧が確実でハイレベル。これにも驚きました。日本人の器楽奏者はミスが多く、たいしたことはないという先入観はこの演奏を聴いて完全に否定されました。
またホールに響き渡る弱音から高音まで音の深みが素晴らしく、女性でありながら芯のあるタッチを聴くことができた。
2曲目の「月光」は、仲道さんの解説によるとキリストが十字架を背負って、ゴルゴタの丘をのぼって行く時のイメージにより作曲されたとのことで、これは初めて聞く解釈でした。
この「月光」の演奏解釈は色々ありますが、このイメージはちょっと私にはピンときませんでしたが、これからこの解釈について研究してみようという気になった。
帰りに古本屋でベートーヴェン研究の分厚い古本を1,000円で買ったので、三連休の残りに読んでみようと思う。
今日の演奏で最も良かったのはこの「月光」でした。
第1楽章は少しはやめのテンポでしたが、大げさなテンポの揺れや音の強弱のない、正統な解釈だと感じました。
とくに下の譜面の箇所はよくあるようなクレッシェンド→デクレッシェンドをせず、やや音が大きかったものの譜面の指定どおりPで通して弾いていたのはさすがだと思った。



第3楽章は素晴らしかったです。
正確な技巧、ベートーヴェンが30代になったばかりの頃に抱えていたであろう、前途への希望や不安と、若さゆえの苦悩や葛藤の気持ちを十分に表現していたと思う。
楽章と楽章の間に時間を置かず、すぐに弾き始めるところなど作曲者の指定に忠実だと思いました。
必要以上の音の保持も無く、完璧とも言える超絶技巧で弾き切り、最後の和音の後の直後で聴衆から熱狂の声が聞こえたほどの演奏でした。
3曲目の「告別」の演奏もこの演奏会では最高の出来で、技巧を要する難しい部分も淀みなく、時折見せたアクセントある音も十分惹きつけられるものでした。
4曲目の第32番は私がベートーヴェンのピアノソナタの中で最も好きな曲なのですが、仲道さんの解説の中の、「何故、苦しい運命を背負わなければならなかったのか」というベートーヴェンの激しい苦悩の叫びを表す第1楽章と、その苦悩を乗り越えたにもかかわらず、まだ「何故」という自問が繰り返し心に現れるベートヴェンの気持ちを表現した第2楽章の解釈は、私がこの曲に対する思いとも共有できるものでした。
演奏はやや疲れが出たのか、また第2楽章アリエッタの前半の変奏の繰り返しが、クラシック曲の鑑賞に慣れていない聴き手にとってややつらくて客席から雑音が続いたせいなのか、少し集中できなかったような演奏に感じた。
しかしハイレベルな演奏であることは間違いなく、私にとってはCDでの録音ばかりの演奏とは次元の違う生演奏の音の素晴らしさを堪能させてくれたおかげで、演奏会の後は晴れ晴れとした気持ちになれた。
演奏会の後で、本にサインをしてもらい仲道さんと一言二言会話ができたことにも満足でき、久しぶりにいい演奏会の余韻に浸って帰路につくことができた。
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