世界の中心で吉熊が叫ぶ

体長15センチの「吉熊くん」と同居する独身OLの日常生活

夏色の秘密

2006年07月12日 00時24分59秒 | Weblog
夏が苦手だ。
クーラーの無い場所なんて、居たくない。

しかし、小学校入学から高校卒業まで、クーラーがない教室で授業を受けていたのも事実である。今考えると信じられない。しかも、下敷でパタパタ扇ぐことも禁じられていた。

家庭にもクーラーが1台存在していたのだが、我が家の出納係の母が「もったいない!」と言うものだから、年に数回しかつけなかった。
今の私の生活は、通勤時間や退社時間、駅から自宅や会社までの道のりでしか外気に触れない。
自分で生活費を支払っているのだから、母の目を気にしないでクーラーもバリバリ「強」に設定している。

しかし、なぜだか良心が咎めるんである。

いまだに母はクーラーをつけたがらない。
よく分からないのだが、「クーラー=贅沢品」と古い考えに縛られているのだと思う。

週末、1日中涼しい室内でゴロゴロしている私に、
電話で「いや~暑いねー」と話しかけてくる母。
「そうだね。暑いね。」
いかにも溶けてしまう手前みたいな声を出す私。
恐らく、私がクーラーを使用していることを母は知っているのだろうが、つい、いつも私は演技してしまう。

夏という季節は、秘密が多い。
しかも、秘密がけっこう似合う。
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昼休みの情事

2006年07月12日 00時20分55秒 | Weblog
昼休み、歯を磨こうと、普段あまり使われていないトイレに向かった。
喫煙所に隣接しているので、私はいつもここで歯磨きをしているんである。

ドアを開けた途端、泣いている女子一名発見。

泣き顔なのに無理に笑顔を作り、鏡越しの私に「お疲れ様です」と言う。

「お疲れ様です」っていうことは社内の人間ね。
ああ、フォロー面談に来ている新卒か。
で?
何で泣いているのかい?
人事部のヒトにいじめられたの?

聞けずに歯磨きをしていると彼女は
「すいません。びっくりしてしまいますよね。」
と言った。

「ううん。平気だよ。大丈夫だよ。」
歯磨きの動きを止めて私は言った。

「お店で辛いことは別にないんです。
ただ、人事部の方に話を聞いていただいたら、涙が。」
彼女は化粧直しをしながら、そう言った。

お店時代か…。
もう何年も昔のことだし、今更思い出しても仕方がないことだ。
販売という華やかさの陰に、私にも耐えがたいことがあった。
しかし、なるべく思い出さないようにしている。
きりがないから。
それに、どの部署に行っても、トイレの壁を蹴りたくなることは起こり得ると、今になっては、なんとなく分かるから。

彼女も耐えに耐えて3ヶ月を送り、久々に人事部のヒトに会って緊張の糸が切れて、涙が溢れたのだろう。

その涙に濡れた健気な笑顔に
「頑張れ!」
とは言えなかった。

彼女は充分頑張っていると思ったから。

人事部の偉いヒトの物真似をしたら、彼女は爆笑してくれた。
私には人を励ますチカラはないけど、こうして笑わすことはできる。
「化粧、完璧だよ。誰も泣いたこと気付かないよ!じゃあね!」

お互い笑顔でバイバイをした。
新卒研修に向かう彼女の背中を見届けた。

喫煙所にて、煙草に火をつけながら思う。

お互い名乗らなかった…。
「水色のスーツを着た、どっかの部署の変なオバサン」
私は彼女に、そう思われているかもしれない…。
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