晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

井上靖 『あすなろ物語』

2020-08-02 | 日本人作家 あ
今年初めか去年くらいから唐突にはじまった「井上靖ブーム」は現在も絶賛進行中でございまして、書棚に井上靖さんの本が増えてくるのを眺めてひとりニヤニヤしております。

さて『あすなろ物語』。

もはや井上靖さんといえば、という代表作ですね。「あすなろという木は(明日はヒノキになろう)と願うけど永遠にヒノキにはなれないから(あすなろう)」という文は、この作品を読む前からどこかしらに引用されていたり、誰かの好きな言葉であったりと、耳にした、目にしたことはありました。

梶鮎太という少年は転勤の多い軍医の両親とは住んでおらず、伊豆で祖母と、そしてなぜか土蔵に住んでいます。ある日のこと、祖母の身内で冴子という女性といっしょに住むことになります。この冴子という人、このあとすぐ、田舎ではけっこうセンセーショナルな事件を起こすのですが、まあ人格形成期においての鮎太少年にとって、とても強い影響を受けます。ちなみに先述の「あすなろは明日はヒノキになろうとするけどなれない」と教えてくれたのは冴子です。

その後、鮎太は静岡県西部の中学校(旧制)に進学します。「開校以来の秀才」「神童」などと呼ばれるほど勉強ができたのですが、病弱のため故郷の伊豆に近い学校に転校します。そこでは禅寺に下宿することになるのですが、雪枝という住職の娘とのコミュニケーションが、これまた青年期の鮎太にとって強い影響を受けることに。

鮎太は、北国の城下町にある高等学校を卒業し、九州の大学に進学します。その理由というのが、いちおう「無試験で入学できるから」というのが表向き、じっさいは、好きになってしまった信子という旧家の未亡人の出身が博多だから、というもの。
でも結局、信子は東京に引っ越すことになるので鮎太にしてみたら「なんやねん」ってなもんですが、人生なんてそんなもんです。

夢も希望も無い大学生の鮎太は、友人や知人を(あすなろ)に例えます。夢や目標がある人は(明日はヒノキになろう)ですが、そんな話を信子にしたら「あなたは(あすなろ)ですらないじゃない」と言われます。これにはけっこうショック。

そんなこんなで、鮎太は大坂の新聞社に就職します。徴兵はあったのですが、病弱のため除隊。さてこの記者時代、ライバルと呼べる存在がいたりしますが、またしても鮎太に影響を与えたのは、バラックで喫茶店を営む内儀さんと、オシゲという不良少女。

なんていいますか、男性が成長していく間、女性という存在はとても大事だと思います。どういう女性と出会って、影響を受けたかで、その男性の「カラー」ができる、といいますか。昔、歌手の松山千春さんがなにかのテレビ番組で「男は白いパレットとキャンバスで、そこにさまざまな色を加えてくれるのが女なんだな」と語っていて、なるほどと思いました。
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