晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

藤沢周平 『海鳴り』

2013-05-31 | 日本人作家 は
これで、藤沢周平の作品は2作目。別に避けていたわけではないんですけど、
だいぶ前に知人から「藤沢周平って暗い」と聞いて、それを間に受けて、と
いいますか、まあ単なる「読まず嫌い」だったんですが、ついに(大げさ)
「蝉しぐれ」を読んで、物語の奥深さに感銘を受けて、あまり時間をおかずに
他の作品も読みたい、という気に。

結局のところ、「暗い」という感想は、奥深さだったんだな、とひとり合点。

それはさておき、この『海鳴り』は、江戸の「小野屋」という紙屋のあるじ、
新兵衛が主人公。新兵衛は、紙の仲買いからこの世界に入って、ある程度の
金が貯まって、紙問屋をはじめます。とはいっても、ただ店を構えて「はじめ
ます」というわけにはいかず、同業の仲間(組合)に入るためには、仲間内
の誰かが辞めるのを順番待ちしなければならず、金を積んだり、組合の有力者
に後ろ盾になってもらったりと、新兵衛としては、一代で紙問屋になれたこと
は自分を褒めてあげたいところ。

ですが、仕事に邁進し家庭を顧みなかったことが、さらに家の女中を囲ってた
ことのもろもろが、妻との不和、そして病弱で奉公に出さないまま大きくなって
後継にするにはあまりに頼りない長男と、家庭内のことを考えるだけでうんざり。

さて、話は、組合の集まりのシーンからはじまります。集まりも終わって、帰ろう
とする途中、丸子屋という大店の主の代理で出席していた妻のおこうが、道端に
うずくまって、風体の悪そうな男達に囲まれてるところを見つけます。
そういえば、さっきの集まりで無理やり酒を飲まされていたっけ、と思い出し、
新兵衛はおこうを助けることに。男たちは、着物から見えていた財布を狙っていた
様子で、新兵衛が女の知り合いとみるや、逃げます。

ふらふらのおこうを放っておくわけにもいかず、どこかで休ませなければと思い、
近くの連れ込み宿に向かい、2階の部屋を借りて、おこうを寝かせます。
歳は40歳くらいですがそうは見えず若くて綺麗、一瞬手を出しかけた新兵衛ですが、
そこは我慢。ようやくおこうが目を覚まし、あなたが襲われかけていたところを
助けたんですよ、と説明しますが、連れ込み宿なんかに2人で入って、誰かに
見られでもしたらまずいと、新兵衛は先に帰ります。

ところが、この夜の出来事を、よりによって組合で評判の悪い塙屋のあるじ、彦助
が知っていて、おこうに口止め料をせびっているというのです・・・

一方、紙問屋の組合内でもなにやら変な動きが。この当時、江戸で流通していた
紙は、大半が武蔵国(今の埼玉)で生産される大和紙で、ある大店の問屋の提案
によれば、今の紙漉屋から仲買いという流通システムをやめて、江戸の紙問屋が
販売の権利を一手に握ろうというもの。

ただし、これで恩恵を受けるのは、組合の中でも世話役、つまり大店の連中だけで、
新兵衛の小野屋のような小さい問屋は、恩恵どころか潰れることも。

これには仲買いや地元の紙漉屋も、江戸の問屋の勝手にはさせないと怒ります。
新兵衛は懇意にしてる仲買いに、自分としては仲買いや紙漉きの立場を考えたい
が、新参者の自分は世話役に反対意見は出せないと謝ります。
ところがどういうことか、親兵衛が、江戸の問屋が紙の販売権を決めるという新
システムに反対の急先鋒という噂が立っていることを知り、やがて、小野屋の商売
に横槍が・・・

一代で築いた紙問屋の行方は。家庭内の冷え切った空気の中、おこうとの関係は
どうなっていくのか。

こうやってざっとあらすじだけ書くと、暗い内容のように思えますが、人生の機微
といいますか、じつに奥深い。
物語の構成、カット割りがまた素晴らしく、新兵衛が抱えるさまざまな悩みが複雑に
入り組んでいるようでわかりやすく描かれています。

一応、物語のラストは「ハッピーエンド」ということになってはいるのですが、
これをどう捉えるかは読んだ人次第ということで。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする