晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

山本周五郎 『五瓣の椿』

2014-11-28 | 日本人作家 や
さて、長い間入院していたわけですが、「御宿かわせみ」といった短編
のシリーズものは随分読みました。
が、たくさん読んだので、短編の話ひとつひとつを思い出すのが・・・

というわけで、長編をいくつか。それも全部、山本周五郎。

まあ、未読な本は部屋の本棚にいくつかあったんですが、こちとら入院してて
家に帰れず、親に頼んで持ってきてもらったのですが、どれが未読か既読かなんて
ゴチャゴチャしてて分からず、とりあえず「山本周五郎を持ってきてください」と
お願い。

そんな一冊。

この作品は数年前にNHKでドラマやりましたよね。うっすら覚えてます。

江戸、本所の亀戸天神にほど近い白川端というところにある「むさし屋」
の寮(別荘)が火災、中から3人の焼死体が発見されます。
「むさし屋」は日本橋の薬種屋と油屋で、そこそこの大店。

見つかった遺体は、むさし屋の旦那、喜兵衛とその奥さん、そして娘の
おしのとみられています。

さて、この火事のちょっと前ですが、むさし屋の本店から、喜兵衛と
おしのが白川端の寮にやって来ます。しかも喜兵衛は重病で戸板に
載せられて。
じつは喜兵衛と奥さんは別居中、喜兵衛はむさし屋の本店で仕事があり、
娘のおしのは病気の父の看病のため本店に、奥さんだけが白川端の寮に
女中と住んでいました。

具合が悪くなり、自分の命も短いと悟った喜兵衛は、寮に住んでる奥さんに
話があると、娘のおしのに運んでもらうのです。

そして、白川端の寮で親子3人がひさしぶりに揃った夜、火事に・・・

それからしばらく経って、むさし屋の手代、徳次郎が手紙をもらいます。
その手紙の差出人の”女性”のもとへ行って、何か話し、徳次郎が
亡くなった旦那から言われていたおしのへ残した金をその”女性”へと
渡し・・・

そこから、江戸で、殺人事件が連続して起きます。被害者はいずれも男性。
死体のそばには決まって椿の花びらが一枚・・・

この連続殺人を捜査する八丁堀の与力は犯人を見つけ出せるのか・・・
「五人殺すまで待っててほしい」とはどういうことか・・・

なんとも悲しい話です。
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山本一力 『はぐれ牡丹』

2014-05-27 | 日本人作家 や
ちょっと前ですけど、なんの気なしに夜中テレビを見ていたら、山本一力さんが
出ていて、へえ、深夜の民放のバラエティに出るんだと思って、なんでも、最近の
”こじゃれた”洋食が気に入らないという話で、昔ながらのオムライスを食わせろ
と怒っていました。

ということを思い出しまして、買って来たのが『はぐれ牡丹』。

深川の長屋に住む鉄幹、一乃の夫婦。鉄幹は近所の寺子屋の先生をしています。
一乃は、じつはこんな長屋住まいなどする女ではなく、日本橋両替商の大店
「本多屋」の娘なのです。ひょんなことからぐたりは出会い結婚となったの
ですが、一乃の父親は猛反対、娘を勘当します。

が、一乃が幹太郎という男の子を産むと、孫を見たいと気がかりな父は、お抱えの
占い師、白龍を近所に住まわせ、占いで本多屋に帰ってこさせようと企みます。

ところが一乃は深川での暮らしが性に合ってるらしく、鉄幹の給金が少ないという
ことで、天秤棒を担いで、野菜の担ぎ売りをしています。

ある日のこと、野菜を仕入れにいくと、農家のお婆さんが腰を痛めたということで、
竹林のタケノコの収穫を一乃は手伝うことになり、そこで、一分金を拾うのです。

庶民にとっては一分金など目にする機会は少ないのですが、そこは両替商の娘、
この一分金はどこかおかしいと見抜いて、実家に持っていくことに。

鑑定の結果、これは贋金ということが判明します。贋金作りは死罪。だれが作った
のか・・・

さて、深川での話に戻り、鉄幹一家の近所にお加寿という産婆がいまして、そこで
おかねが出産しますが、夫の清吉は数日前から帰ってきません。さらにその夜、
お加寿の手伝いをしていたおあきが突然誘拐されるのです。さらに家の中は荒らされて
いました。

残された本が一冊、鉄幹の手元にありますが、草書で書かれていて読めません。
さらに気がかりなことが。清吉は、出産費用として、一分金をお加寿に渡していた
というのです。

実家に持っていき、本に何が書かれていたか、さらに一分金は本物なのか、見定めて
もらうことに。本には、清吉はどうやら渡世人に命令されて、大判の偽造を手伝いを
させられているようです。さらに、清吉が渡した一分金は本物でした。

賭場を仕切る寅吉一家と、謎の松前藩の商人が贋金作りに関わっているようですが、
しかし大判というのは製造枚数が少なく、一般に流通していません。そこに5千枚もの
贋大判を作るというのですから、何がどうなっているのか。

さらにおあきの誘拐はこれにどう絡んでくるのか。

そこで、一乃はピンときて、なんと寅吉の家に一人で乗り込むのですが・・・

山本一力作品おなじみの深川の裏店の人たちの互助精神で、この謎の事件は解決する
わけでありますが、松前藩がロシアと密貿易をしていたことや、幕府と松前藩は微妙な
関係だったことなどの歴史の一幕も学べて、”ためになる”一冊です。






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山崎豊子 『華麗なる一族』

2014-03-03 | 日本人作家 や
山崎豊子の作品は長編が多いので、本屋に行くと上中下や1~5が全部
揃ってなかったりして、困ってしまいます。

だからといって予約して取り寄せてもらうのもなんか面倒だし、揃ってれば
買うよ、ぐらいなのですが、しかし買ったはいいとして、今度は読む気分的
な問題が出てきます。

この人の作品は、なんというか、読んだ後にグッタリしてしまう(前に「沈まぬ
太陽」を読んだ後に頭が”ぐわんぐわん”しました)ので、読みはじめようにも
けっこうな気合が必要なのです。

万俵銀行頭取の万俵大介とその家族の物語、彼の銀行頭取としての経済小説とし
ての側面、両方ががっちりタッグを組んでの激しいストーリー展開。

もともと地方の地主から財閥にまで発展した万俵家。阪神銀行は都市銀の中では
業界ランク10位、不動産や流通、鉄鋼などのグループを形成。さらに、使えるもの
はなんでも使うといわんばかりに、閨閥作りにはげみます。

長男の鉄平は銀行を継ぐ意思はなく東大工学部からマサチューセッツ工科大へ進学、
万俵特殊鋼に入社し、現在は専務。妻は国会議員で大臣の娘。

長女の一子は、大蔵省のキャリア官僚、美馬中と結婚。

次男の銀平は、一応は父のあとを継ぐかたちで万俵銀行に入社。しかし、幼い頃に
垣間見た(見てしまった)ものがトラウマなのか、性格がひん曲がってしまいます。

銀平が垣間見たものとは家庭の問題なのですが、大介の妻は公卿華族出身の昔ふうに
いえば「お姫さま」で、これも閨閥作りのための結婚で、お姫さま育ちの寧子は家事
全般なにも出来ず、その代わりに子供たちの世話係として招かれたのが、アメリカ帰り
の相子という女性。はじめこそ相子は子供たちの家庭教師だったのですが、持ち前の
美貌と本人の野心が”英雄色を好む”大介と関係を持つまでに。なんと大介は調子に
乗って寧子と相子を同じベッドに連れ込むという(文中では「妻妾同衾」と表現しています)
まあなんとも破廉恥な行為に及び、これを幼き銀平は見てしまったのです。

相子は、万俵家のさらなる発展のため、銀平、妹の二子と三子に相応しいお見合い相手を
探す役目をおおせつかります。

とまあ、ざっとこんな家庭環境なのですが、もう一方の話の流れは、阪神特殊鋼の鉄平が
高炉を作って自社で製鉄をしたいために父に融資をお願いするところから始まります。
38歳になった鉄平はますます祖父に似てきて、それが大介にとっては気に入りません。
ひょっとして鉄平は祖父と寧子のあいだの子なのではとの疑いはさらに強く持つように
なってくるようになり、阪神特殊鋼の融資の話もすんなりとは了承しません。

ところが、この阪神特殊鋼が別の銀行に融資をお願いに行ったことが、のちに大介と鉄平
とにあいだにとんでもない亀裂を・・・

中央省庁では銀行再編の動きが高まっていて、業界ランク下位の阪神銀行などは、上位行
に飲み込まれてしまいます。しかし、自分の代で阪神銀行を無くすわけにはいかない大介
は、「小が大を食う」銀行合併を模索することに。

ここの部分の銀行再編劇は、第一銀行と三菱銀行の合併から白紙までを描いた高杉良の
「大逆転!」を読むと、さらにディープなことが分かって面白いかと。

冒頭での、伊勢のホテルで行われる万俵家の新年会の豪華なシーンからのラストシーン
の対比が、あたかも舞台を見ているようで、緞帳が下りて来て客席から立ち上がって
拍手したくなるような気持ち。

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山本一力 『峠越え』

2014-01-14 | 日本人作家 や
山本一力の時代小説には、たびたびアウトローの大物が登場します。
まあアウトローといってもロー(法)じたいがコロコロ変わって曖昧
な時代だったので、より現代風にいえば「反社会勢力」ですか。

『峠越え』では、今戸の芳三郎、達磨の猪之吉など、賭場を仕切る類
ではなく、女衒(女性を買い付け遊郭などに売るスカウト業)と、テキヤ
が出てきます。

深川に住む女衒の新三郎は、いきなり兄貴分に呼び出され、なにごとかと
元締めの土岐蔵のもとへ。
つい最近連れてきた4人が全員病気持ちだったというのです。

また新しく4人を用意できなければ、弁償として大金を払うか、それもでき
なければ、江戸湾に沈められることに・・・

新三郎は二月の期間で4人を探してくると土岐蔵と約束し、東海道へ。

江ノ島の手前で、新三郎は男たちに襲われそうになっている女性を助けます。
その女性とは挨拶もそこそこに別れるのですが、その夜、新三郎が出かけた
江ノ島の賭場で、なんと女壷振りとして現れたのです。

名前をおりゅう。はじめは負けていた新三郎でしたが、おりゅうの壷振りと
相性が良かったというか勝ち続けます。

賭場もお開きになって、新三郎とおりゅうは会うことに。たちまち惹かれあう
ふたり。そこで新三郎は江ノ島に来た理由を明かします。
するとおりゅうが、江ノ島弁天の御開帳を江戸で開催するプロデュースをして
みないかと誘います。その売り上げの一部を返済して女衒業から足を洗えばいい
ではないか、と。

さっそく江戸に戻った新三郎は土岐蔵のもとに行って、江ノ島弁天の御開帳を
回向院でやるプロデュースを説明。成功したら女衒から足を洗う。失敗すれば
おりゅうは遊郭に、新三郎は縄でぐるぐる巻きにされて江戸湾に・・・

そんな命がけではじめた御開帳ですが、なんといよいよ明日という日に大嵐に
なってしまい・・・

さて、タイトルの『峠越え』なのですが、御開帳をやることになったはいいけど
さまざまなトラブルに見舞われ、それでも乗り越えてゆくという意味での「峠」
もあるのですが、もうひとつの意味も。

なんやかやで御開帳が終わって、新三郎とおりゅうは土岐蔵に呼び出されます。
すると、江戸のてきや業を仕切る”四天王”と呼ばれる4人との集まりに顔を
出してくれと言われ、その席で、てきや四天王と土岐蔵の5人が久能山参り
に行くので、そのツアーコンダクターをやってほしい、と頼まれるのです。
久能山とは駿府、つまり静岡にあり、江戸からは箱根の関所を越えなければなり
ません。もうひとつの「峠」とは、このこと。

ジジイ5人の旅なのでワガママは言うわ体の不調を訴えるわ、新三郎とおりゅうに
無理難題が・・・

この話のキーワードは、人との縁。凡人は縁を生かせず気づかず、大人は袖触れ合う
縁も大事にします。駅のホームや電車内で袖触れ合うだけで殺傷事件になってしまう
現代社会に訴えかけます。







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山本一力 『銀しゃり』

2013-08-13 | 日本人作家 や
2週間も更新をサボってしまいましてスミマセン。
読書っていうのも、けっこう気力を使うもので、こう連日暑いと、
寝る前に数ページ読んで「ああもうダメだ」といった感じ。

そんなこんなで時間はかかりましたが、どうにか読み終えた山本一力
『銀しゃり』。タイトルからもわかるように、鮨職人の話。

新吉は、江戸の京橋にある名店「吉野家」で修行し、はれて独立、
深川に「三ツ木鮨」をオープンさせます。
材料にこだわって他店よりも値段が高め、しかも深川の材木商たち
は前からの付き合いもあって、開店当初の売り上げは芳しくありま
せん。

しかしそんな中、近所に住む旗本、小西秋之助と知り合うことになり、
屋敷に植えてある柿を分けてもらい、柿を酢飯に混ぜた「柿鮨」を作っ
たところこれが当たります。

小西には、過去に蕎麦屋に金を貸して逃げられたという過去があり、
はじめこそ新吉に対しても心のどこかで「また裏切られるのでは」という
思いがあったのですが、真面目な新吉の商いぶりに、心安く接する
ように。

ちょうどこの頃、江戸では「棄捐令」という、武士が年貢米を担保に
札差から金を借りていたのですが、その借金をすべて帳消しにすると
いう出来事があり、それまで借金で苦しんでいた武家たちは喜んだの
ですが、これによって札差は豪遊を控えます。
ところが、この「豪遊」こそが江戸の経済の末端を支えてたので、棄捐令
が出てから景気が悪くなります。当然、怒った札差たちは、武家に貸し渋り
をはじめます。武家の中には、強引に金を借りようとゴロツキを雇って、
札差の方も負けじと用心棒を雇うことに。

小西秋之助の肩書きは「勘定方祐筆」、つまり小西が仕えている稲川家の
会計で、札差との折衝にあたります。

自分たちが嫌われていることをわかってない上司、とにかく借りてこいと
命令。武士の体面もあったものではありません。
そんな気苦労の中、実直な新吉との交流が楽しみになります。

さて、新吉ですが、杉作という男の子の母親、おあきと出会います。
おあきの夫はどこかに消えて帰ってこず、父親は病気で寝たきり、貧しい
暮らしをしています。
近所で三ツ木鮨の評判を聞いたおあきは、なけなしの金で鮨を買います。
内情を聞いた新吉は、はじめは同情しますが、やがて・・・

新吉の親友で魚の棒手振(行商)、順平との話の中で「御直買」という
人たちが登場します。
江戸城では1000人の武士が”出社”していて、さらに城内在住の将軍家、
大奥などの毎日の賄いを用意するのも大変で、そこで「御直買」が日本橋
の魚市場に出向いて、大量に魚を仕入れるのです。
ですが、不漁の日などは仲買人が買った魚を「御用だ」といって横取り
するなど、評判は悪かったようです。

この作品で興味深かったのが、小西秋之助と新吉が手助けをしようとしますが
仇となって帰ってくるところ。甘やかすことと人情との線引きは微妙で難しい
ですね。
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山本一力 『まとい大名』

2013-05-16 | 日本人作家 や
とうとう、未読本が20冊になってしまいました。早く読まなければ、と
思いつつ、今日も本屋で3冊購入。ダメですね。

それはさておき、山本一力さんの作品で特徴的なのが、江戸時代の職人
(商人でもいいですけど)にフォーカスした、いわば「時代職業小説」。
直木賞受賞作の「あかね空」も、上方から江戸に移り住んだ豆腐屋一家の
話で、なんていうんでしょうか、金を稼ぐことが第一義ではない、利に
聡いよりも、不器用だけれど誠実なほうがよっぽど尊い、といったような、
まあこれも前回のブログにも書いたのですが、「楽(らく)」するよりも
「楽しい」ほうが有意義だよね、ということですね。

さて『まとい大名』ですが、タイトルにもあるように、火消しの話です。
「あたしゃあんたに 火消しのまとい ふられふられて 熱くなる」という
都々逸がありますが、当時の消火活動は水や消火剤をかけて鎮火させるの
ではなく、まだ燃えてない建物をぶっ壊して、燃え拡がる範囲を食い止める
という方法でした。で、まといの役割とは、その壊す家の屋根にまといを
持って登り、ここを潰します、と目標になるのです。火の勢いや風の流れ
などを読んで壊す対象の家を決める(しかも人様の家)わけですから、重要な
任務です。

享保五(1720)年に、江戸の町火消しは、大川(現在の隅田川)の西側は
「いろは四十七組」に区分けされ、東側の本所、深川エリアにも十六組の区分け
が制定されました。

講談にもなった「め組の辰五郎」、ラッツ&スターの「め組のひと」の「め組」
とは、つまりこの「いろは四十七組」のひとつで、区域は、芝増上寺の辺り。
増上寺は徳川家の菩提寺であり、自分たちは将軍家を火からお守りしている、と
強い自負があって、相当腕っ節の強い気の荒い集団だったそうです。

主人公は、深川佐賀町にある火消し宿「大川亭」のかしらである徳太郎、銑太郎
の親子。大川亭の区域は「三之組」で、佐賀町の周辺二十二町を担当。
当時の南町奉行はかの有名な大岡越前で、在職時には町火消しの区分け制定、
各地域に火の見やぐらを立てるなど、江戸の消火活動にも尽力しました。
そこで深川では、なんと高さ18メートルという、江戸一帯を見渡せるような
火の見やぐらを作ろうという話に。

かしらの徳太郎という人は、佐賀町の住民だけではなく他の区域の火消したち
からも信が厚く、息子の銑太郎はそんな父親をヒーローのように尊敬します。

ある日のこと、平野町という一帯から火の手が。この町には検校屋敷(盲目の
職業)が多くあって、この検校というのは、幕府から与えられた役職で、高利
貸しなどもやっていて、あまり庶民からは好かれてなかったようです。
ですが、火消しに好き嫌いは関係ありません。大川亭の火消したちは平野町に
駆けつけます。が、先に着いてた火消しと何やら揉めてる様子。
検校は、屋敷を壊すなと火消しに言うのです。検校とトラブルになると後々
厄介なことになるのを承知で、徳太郎は「自分が責任を取る」と屋敷を壊します。

が、屋敷裏の納屋に引火、ものすごい炎があがります。なんと納屋には大量の菜種
油がしまってあったのです。それは知らなかったとはいえ、この納屋までは取り壊
さなくても大丈夫だと判断したのは徳太郎。
徳太郎は、頭から水をかぶり、燃えさかる納屋の中へ・・・

この一件はのちに伝説になるほどで、徳太郎の葬儀には千人を超える弔問が。
五歳で父を失くした銑太郎は気丈に振る舞います。

そして、仙太郎は大川亭の次期かしらになるべく鍛えられて、やがて元服し、
一人前の火消しとなります。

大川亭や「いろは四十七組」といった町火消しのほかにも、大名が独自で持つ
「大名火消し」というシステムもあって、庶民に協力的な大名もいれば、一切
手を貸さない大名もいたり、そんな話も盛り込んで、興味深いです。

いくら消火のためとはいえ、家を壊すということはそこに住む人の生活を奪うこと
にほかならず、火消しは感謝もされますが、恨みを買うことも。

電気もガスも無かった時代、火というのは生活に不可欠な存在であり、火事は
とうぜん憎いものではありますが、一方で感謝を怠ることもありません。

火消しという職業の勇ましさだけではなく、彼らの心の葛藤も描いていて、それを
銑太郎も身にしみて学ぶことになります。

徳太郎、銑太郎の親子をはじめ、彼らの奥さん、大川亭や他の町火消しの面々、深川の
肝煎や名士たち、久世家という大名、そして大川越前など、こういう人たちを
「格好いい」っていうんですね。
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山本一力 『たすけ鍼』

2013-04-04 | 日本人作家 や
最近、本を読む時間があまりなくて、それでも買い物ついでに
本屋に寄って数冊買ってしまい、「未読本」がたまる一方。

読みやすい本からサクサクと読んで未読本を減らしていこう、
ということで、こういう時にありがたいのが山本一力さんの作品。

『たすけ鍼』の主人公は、深川に住む鍼灸師の染谷(せんこく)。
彼のお灸と鍼にかかれば、風邪でも腰痛でもあくる日には治ってる
といった名人で、”ツボ師”なんて呼ばれています。

そんな染谷の治療院の隣に、昭年(しょうねん)という、こちらは
医者で、今でいえば内科医のような、病状を看て適切な薬を処方し
ます。

染谷と昭年はともに還暦過ぎ、ふたりは若い頃から仲が良く、今でも
家族ぐるみの付き合いで、さらに患者の取り合いなどはせず、この
症状だったら鍼より薬のほうがいいから隣の昭年のところに行きなさい、
薬よりお灸で治りそうだから染谷のところへ行きなさい、といった感じ。

いちおう短編形式になっていて、大店に女中奉公に行った染谷の知り合い
の娘がいきなり暇を出された話、金貸しの検校(盲目の人の肩書き)の話
からはじまり、3話目が、「野田屋」という醤油屋の話なのですが、この
野田屋の若旦那が染谷に父を看て欲しいと頼んできます。そこで染谷と
昭年が店に行きますが、番頭に追い払われます。

一方、染谷は深川の米問屋「野島屋」に行って主人の息子の治療を終えて
帰る途中、匕首を持った三人の男に襲いかかられます。
この時、染谷は一人ではなく、野島屋の手代で柔道の覚えのある草次郎も
いっしょで、三人の男は染谷と草次郎に叩きのめされます。

そのうちの一人が落としていった匕首をよく見ると、龍の銀細工が。これ
は、野田屋の番頭が持っていたキセルにも同じような銀細工があったと
思い出す染谷・・・

ここから、野田屋の一件はさておき、野島屋の話になります。はじめは
染谷のことを信用していなかった当主の仁左衛門でしたが、彼の鍼灸の
腕、病気を初見で言い当てる力に敬服し、鍼灸院の寺子屋を開くスポン
サーになると言い出します。

なんだかんだで染谷の寺子屋は開かれますが、前述の野田屋の話は「
あの件に関してはいい考えがある」と匂わせて、シリーズの続編へ。

今まで続編の書かれた作品は、正義の味方、弱者の味方が多いのですが、
だからといって痛快さというのとはまた違って、読み終わった時に地道
に働くことや人とのつながりの尊さがじんわりと胸に染み入ってくる、
そんな感じです。



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吉田修一 『悪人』

2013-03-12 | 日本人作家 や
国際映画祭であれだけ話題になったというのに、まだ原作を読んで
ないからという理由で映画を見るのをガマンして、とはいってもけっ
こう時間はあきましたが、ようやく読みました。

まあ、あれだけ宣伝をされると、いやでもチラリと内容は聞こえて
しまうわけで、なんでも、主人公?の金髪の男が逃げていて、それを
匿う女性?そのくらいの前知識は持っていました。

物語の舞台は九州北部、福岡と佐賀と長崎。佐賀と福岡を結ぶ国道に
ある三瀬峠で、福岡市在住の保険外交員、石橋佳乃の死体が発見され
ます。

久留米の理容店の娘で、彼女がどうして福岡で働くことになったのか、
そして、殺される直前までの行動が、警察の調書ばりに、心理描写など
ものすごく事細かに描かれています。

保険会社の寮に住む同僚2人とギョウザを食べに行って、その帰り、
佳乃は男と待ち合わせしているといって2人とは別行動に。

長崎に住む土木作業員の祐一は、出会い系で佳乃と連絡を取り合って
会い、そしてこの夜、福岡市内で再び会うことになっていました。
車を飛ばして、福岡に着いた祐一。待ち合わせ場所の公園沿いの道
に停めて待つと、向こうから佳乃が。クラクションを鳴らす祐一。

殺された佳乃の生前の交友関係から、祐一のもとに警察の聞き込みが。
しかし、いっしょに暮らす祖母は、その日の夜は車で出かけていない、
と言うのです。
警察の話では、もう犯人の目星はついている、とのこと。後日ニュース
で知るのですが、ある大学生が行方不明になっているのです。

佳乃は、その大学生と付き合ってるんだかそうでないんだか、とにかく
脈アリみたいなことを同僚に話していて、その彼が行方不明・・・

さて、話は変わって、佐賀の紳士服量販店の女性店員、光代が登場します。
ある日、出会い系で気になる男性を見つけます。その男は長崎に住む
土木作業員の男。

光代は、休日に祐一と会うことに。佐賀まで車で来た祐一。ふたりは
ドライブへ。そこで祐一は衝撃の告白をするのです・・・

話のはじめの部分で、佳乃を殺した犯人は大学生ではなく祐一だと書いて
あるので「いったい犯人は・・・」と書く必要もないのですが、件の大学生
は、じつは逃亡する相当の理由があったのです。

先述しましたが、佳乃と祐一と光代のバックグラウンドの描写がハンパない
ほど事細かに描かれていて、もう「恐れ入りました」の一言。

そして、この3人の周囲の人たちの描き方も”仔細漏らさず”といいますか、
ああ、こうやってこの登場人物たちが”出来上がった”んだなあ、と思わさ
れます。

久しぶりに「よくこんなすごいの書けるなあ」と感心してしまいました。
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山本一力 『菜種晴れ』

2013-03-07 | 日本人作家 や
この作品は、千葉の勝山(現在の安房郡鋸南町)の菜種農家
に生まれた次女、二三(ふみ)が、5歳になって、江戸の深川
にある油問屋に養女になり、強くたくましく生きてゆく、とい
った、女性一代記的な内容です。

女性一代記「的」と書いたのは、二三が30歳になって話が終わる
からで、そういえば先日読んだ「だいこん」も、江戸屋の女将の
話も、生まれてから途中までの半生の作品が多く、若干の物足り
なさ感はありますが、いずれの主人公も魅力的です。

房州の勝山にある菜種農家に女の子が誕生します。1月23日に生ま
れたので、はじめは名前を「一二三(ひふみ)」にしようとします
が、菜種を扱っているので何よりも火は縁起悪いということで、一
を抜かして「二三」にします。

兄の亮太、姉のみさきと、そして飼い犬の”くろ”といっしょに畑や
海で遊び、健康的ですくすくと育ちます。
そして二三が5歳になり、江戸から油問屋「勝山屋」の主人、新兵衛が
家にやって来ます。しかし、兄は複雑な心境、姉は不機嫌。

地元でとれた新鮮な魚介で母が作る天ぷらは絶品で、二三も母から
教わって天ぷらを揚げて、それを新兵衛が食べて大絶賛。

ところで、なぜ亮太とみさきが不機嫌だったのかというと、じつは
二三が江戸に養女にもらわれていくということを兄は知っていて、姉
は、二三だけが江戸に遊びに連れて行ってもらえることにふくれてい
たのです。

5歳の女の子にいきなり「明日からうちの子じゃないよ」というのも
酷な話で、新兵衛は「江戸見物に行かないか」と誘います。

しかし、家族の様子が違うのを二三は感じ、そして、じつは江戸に
養女に行くことを知りますが、「ここで私がごねてオジャンになって
はいけない」と気丈にふるまいます。

さて、二三にとって”新しい家”である勝山屋に来て、ここでも気丈に
ふるまいますが、朝ごはんを食べたあと、庭に植えられた菜の花と、
勝山屋で買われている犬を見て、勝山のことを思い出し、ひとり泣きます。

新しい母のみふくは30歳を過ぎても子どもができませんでしたが、娘の
母親になれたことが嬉しく、「費えはかまいません」といって雛人形を
誂えます。
優しいみふくと新兵衛、そして女中のおみののおかげで、だんだんと不安
は消えていきます。

ある日、外に遊びに出た二三は、天ぷらの屋台があることに驚きます。
そして興味を持って、買って食べてみて、母の作った天ぷらとの味の
違いに愕然とします(母の作ったほうが数倍美味しい)。

そこで、新兵衛とみふくに、おみのに手伝ってもらいながら二三は
母に教わった天ぷらを揚げて、あまりの美味しさに新しい両親は大喜び。

この子の料理の腕をもっと上げさせたいと新兵衛は、加治郎という職人
に料理を教えに来てもらい、そして躾は、元辰巳芸者の太郎に教わります。

そして、深川に来て10年、二三は15歳になります。

ここから、さまざまな試練が二三に襲いかかりますが、両親の愛情、姉
代わりになって可愛がってくれたおふみ、加治郎と太郎の教育のおかげで
人間的に素晴らしい女性になります。

そして、30歳になった二三は・・・

主人公の強い生き方に、勇気をもらえますね。そして、江戸における「油問屋」
の重要性といいますか、当時は電気なんてものはありませんでしたから
油は揚げ物だけではなく、夜の灯りとしての生活必需品であり、また当時は
当たり前ですが木造住宅で、なにより怖いのが火事ということで、江戸時代
の「人々と油」という歴史にも触れて、勉強になりました。
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山本一力 『八つ花ごよみ』

2013-02-24 | 日本人作家 や
この作品は短編集で、前に読んだ「いっぽん桜」と同じく、花の種類に
ちなんだ話になっています。

全編、登場人物が高齢で、たとえば、長く連れ添った妻が痴呆症になって
(江戸時代では痴呆はまだ原因不明の病とされていました)、うろたえる
夫や家族のもの、しかし愛情は失われずに妻と向き合う・・・といった話
(「路ばたのききょう」)だったり、老いらくの恋だったり、それまでの
山本一力さんの作品に多くみられた、登場人物のひたむきさに元気をもらう、
といった感じではなく、むしろ”重い”です。

ですが、人の情の大切さはジーンと伝わってきて、ちょっとホロリときたり
します。

この中で好きな話は「砂村の尾花」。東京都江東区にある砂町のあたり、今
では埋め立てでだいぶ海からは遠くなっていますが、当時が海の近くで、広大
な荒地がひろがっていて、そこに土地を買って、ススキを栽培して売っている
「柏屋」の話で、安易に売ればいいのではなく、愚直にそれまでの流儀を曲げず、
だからこそお客さんは柏屋のススキを選んでくれるのだという信念のもと商売を
続ける、といった、「仕事とは」「お金をいただくということ」の心構えを
ビシッと描いています。

あと、「御船橋のの紅花」は、さきほど挙げた”老いらくの恋”の話なのですが、
こちらも好きです。

山本一力さんの「だいこん」という作品で、「なまじっか才覚があるよりも、仕事が
遅くてもまじめな方がよっぽど尊い」みたいなセリフがあって、これはすべての
作品に通じる作者の伝えたいことですね。



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