シューベルトのピアノ・ソナタを、伊藤深雪のフォルテピアノで聴く。
1811年にプラハで制作されたもの、だといふ。
ピアノ・ソナタの第18番と第14番。
モダンピアノに較べれば、中高域の伸びが乏しいけれど、逆に中低域の木質系の音色は新鮮な響きがする。
時代的にはさかのぼりますが、モーツァルトの曲にはモダンピアノの方が似合ふけれど、華麗とはいへないシューベルトのピアノ・ソナタには、このアプローチも面白いと思ふ。
ヴィーンの街で、知人や友人のところを彷徨ふやうに滞在をし、ある意味、ファザーコンプレックスであっただらうフランツ・シューベルトの、少し統一感のないソナタを同時代の楽器で聴いてゐると、彼の人間としてのひだに少し近づくやうな気がする。
彼の生涯をたどった本に依れば、フランツ・シューベルトは、その短い生涯のなかで、一度も海を見たことがなかった、と記されてゐました。
短い年月だったとはいへ、さほど劇的な変化のなかったその31年の殆んどを、ヴィーンの街角と、周辺への旅行で過ごしてゐます。
さういふ意味でも、小市民的といはれる所以なのでせうが、街中の、居間の音楽と云へるのかもしれません。
はたして、その晩年には、大きな世界へ動き出さうとしてゐた矢先だったのかもしれませんが、地平線の見へる、海のある景色に遭遇したら、また、違った作風も生まれてゐたのかもしれません。
タイトルが、倉本 聡の作品(「君は海を見たか」、いいドラマでした。ついでに、「前略おふくろ様」も、傑作のドラマ、でした。さうでした、主人公さぶのおふくろ様は、蔵王のロッジで働いてゐる設定でした。)のやうになってしまひました…。
(写真は、ジャケット、より)