「シューベルトのオペラ/オペラ作曲家としての生涯と作品」(井形ちづる著/水曜社)といふ本を読みました。
テーマに惹かれて読みましたが、面白いものでした。
リートや器楽作曲家としてのシューベルトではなく、憑くやうにオペラを次々と作曲し、頓挫し、破棄していったシューベルトの一面が、著者のその作品の再評価、復活を願ふ気持ちと共に詳細な研究の結果が見事に表されてゐます。
小生も、特にオペラを好む訳でもなく、聴く(見る)としても、モーツァルトの著名な作品や、プッチーニの作品くらゐです。
おそらく、これから先も、シューベルトのオペラを見聴きすることは、あるひは、ないのかもしれません。
それでも、その膨大な作品群を見せつけられると、少し食指が動きます。
この本から、その作品名をお知らせします。
1.「鏡の騎士」D11(未完) 1811年~12年 3幕のジングシュピール
2.「悪魔の悦楽城」D84 1813年~14年 3幕のジングシュピール
3.「4年間の哨兵勤務」D190 1815年 1 幕のジングシュピール
4.「フェルナンド」D220 1815年 1 幕のジングシュピール
5.「ヴィッラ・ベックのクラウディーネ」D239
1815年 3幕のジングシュピール
6.「サラマンカの友人たち」D326 1815年 2幕のジングシュピール
7.「人質」D435(未完) 1816年 3幕のオペラ
8.「双子の兄弟」D647 1818年~19年 1 幕のジングシュピール
9.「アドラスト」D137(未完) 1819年と推定 ジングシュピール
10.「ラザロ、または復活の祭典」D689(未完)
1820年 3部のオラトリオ
11.「魔法のたて琴」D644 1820年 3部の魔法劇
12.「シャクンタラー」D701(未完) 1820年着手 3幕のオペラ
13.「魔法の鈴」D723 1821年と推定 オペラ・コミックの挿入曲
14.「アルフォンソとエストレッラ」D732
1821年~22年 3幕のオペラ
15.「共謀者たち」D787 1823年 1 幕のジングシュピール
16.「フェイラブラス」D796 1823年 3幕のオペラ
17.「ロザムンデ、キプロスの女王」D797
1823年 4幕のロマン劇
18.「グライヒェン伯爵」D918(未完)
1827年着手 2幕のオペラ
と、D番号を見ると、作曲活動の全域にわたって書かれてゐます。
けれど、悲しいかな、時代の背景もありながら(ウィーンの街は、ウェーバーやロッシーニのオペラに沸きかへってゐた)、政治的や興行的にうまく立ち回れなかったフランツ・シューベルトは、オペラの世界ではすっかり”負け組”になってしまひ、まるで徒労ともいへるやり方で、書いては投げ、の作曲活動を繰り返してゆきます。
この、取り憑かれたやうなオペラへの執念が何だったのか、この本の中ではいまひとつ踏み込んでゐませんが(マイナス要因として台本作家の能力不足、テーマの貧弱、センスのなさ、あるひは梅毒だったといふ病気の問題等は書かれてありますが)、それでも、「ロザムンデ」等の音楽を聴くにつけ、近い将来、評価が正当に変換される時がくるのかもしれない、と期待を持たせるものでした。