やまがた好日抄

低く暮らし、高く想ふ(byワーズワース)! 
山形の魅力や、日々の関心事を勝手気まま?に…。

リモース

2005-07-31 | 神丘 晨、の短篇
捜しだせるだらうか?
女は、病室から外を見てゐた。雪の季節が隣りだった。
夕食は、ほとんど残してゐた。

二十年も前に、えにしを無くした男の所在確認を友人に託してゐた。
大したことはないだらう、と思ってゐた胸のしこりは悪性で、転移もしてゐた。
摘出の手術は三日後だった。

朝まで続く夢の中に、男の姿が繰り返し現れた。

自分では、穏やかな生活を送ってゐたつもりだったが、
身体の中に、男との記憶も巣食ってゐた。
医師の言葉は信じてはゐたが、無性に男に会ひたいと思った。
声だけでも聞きたいと思った。
あなたの頼みだから、と友人は云ったが、無為に一週間が過ぎてゐた。

何も東京まで嫁にゆくことはない、と父親に反対され、全てを諦めた。

このまま手術の朝を迎へてしまったら、私はきっと後悔する。
女は、染まってゆく窓を見ながら、二十年前の男の笑顔を想ひ浮かべた。