女は、公園の駐車場にゐた。
待ち合はせの時刻より、一時間も早く来てゐた。
男から連絡があったのは、一昨日だった。四ヶ月ぶりの声だった。
「一寸、忙しかった。久し振りに飯でも」と男は云ひ、
「ええ」と女は曖昧に答へた。
即座に断はれなかった自分が嫌になって、急ぎの仕事を投げ出して事務所を出た。
「間に合ひますか?」といふスタッフの声が後を追った。
公園を囲ふ緑地に沙羅の花が咲いてゐた。
七月の強い日差しを浴びて、甲斐もなく変色して落花した花殻が根元を埋めてゐた。
ー何も、好んでこんな季節に咲くこともないのに。
女は、恨むやうな眼で花を見つめてゐた。
車のラジオが十一時を告げた。
女は、思ひだしたやうにギアをRに入れた。アクセルを強く踏むと、出口へ向かった。
入れ違ひざまに、驚く男の顔が見へた。