rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

エリートは何故グローバリズムが好きか

2017-06-01 17:08:38 | 社会

トランプ大統領がG7に出席して米国の国益のために各国首脳と丁々発止交渉を続けている一方で米国内ではトランプ降ろしのための画策が全力で進められています。反トランプ陣営にとっては国益などもうどうでも良いのでしょう。現在米国にとって脅威ではないロシア(グローバリズム陣営には脅威ですが)とのどうでもよいような疑惑をことさらあげつらってトランプの邪魔をし続けています。私は5月中旬に米国ボストンの2017年米国泌尿器科学会総会に出席してきましたが、その間米国で見聞した事も含めて「何故エリートはグローバリズムが好きか」(グローバリズムから脱却できないか)について考察したいと思います。ここで私の言うグローバリズムとは「世界を拝金資本主義という統一の価値観以外許さず、各国の自主的な規制よりも市場原理主義を全てに優先させる考え方」を言うのであって、国際的な広い視野で多極的な価値観を認め合って行く「インターナショナリズム」とは別です。

 

5月のボストンは気温10度前後、雨も振ってやや肌寒い感じでした。近くのニューヨークには20年前に1年住んでいたものの、ボストンは初めてで米国独立の元になった都市であり、100もの大学がある学問の街として落ち着いた雰囲気のある所でした。市内の移動は徒歩と地下鉄(1週間20ドルのリンクパスがどこの地下鉄の駅でもキャッシュで購入できて便利でした)で十分と思います。地下鉄はいろいろな人が乗っているので少し怖い感じもありますが(学会参加で背広着て乗っていたらハーバード大学のそばで黒人の若いのに「よお兄弟」と一度握手を求められた)ニューヨークも似たようなものなのでまあ大丈夫でしょう。

 

   ボストンの地下鉄(red line)と米国泌尿器科学会の会場

ホテルで暇な時はテレビを見ましたが、どこを見ても反トランプで「コーミー長官解雇」を問題視するニュースばかり。滞米中に北朝鮮が弾道ミサイルを発射しましたが、そのニュースなど30秒ほど形だけ報じて終わりで、後はサタデーナイトライブで喜劇役者がスパイサー報道官のパロディをやって傑作だといった下らないニュースを延々と何回も流す始末。パロディをやるのは良いとして他局の7時のニュース、9時のニュースで繰り返し紹介するような内容ではないのに視聴者を愚弄するのも好い加減にしたらどうだと思われます。オルタナのサイトでは「現在行われている報道機関の反トランプキャンペーン自体が一番の米国安全保障への危機である」といった識者の意見も紹介されています。

    スパイサー報道官のパロディとそれをニュースとして報道するテレビ

「コーエン教授は、政府には、行政府と議会によるアメリカ外国政策運営を妨害する諜報機関という四番目の権力の府があると言う。一例として、彼は“2016年、オバマ大統領が、ロシアのプーチン大統領と、シリアでの軍事協力の話をまとめたことを指摘している。少し前まで、トランプがロシア協力するはずだったのと同様に、彼は諜報情報をロシアと共有するつもりだと述べたのだ。国防省は諜報情報を共有するつもりはないと言った。そして数日後、アメリカ軍は合意に違反して、シリア軍兵士を殺害し、それで話は終わりになった。だから、我々の疑問は、現在、ワシントンで外交政策を決めているのは一体誰なのだろう?”」という指摘は全く当を得ています。

 

ボストンではBoston Scientificというまさにボストンに本社があるグローバル医療器械企業の主催する晩餐会に招待されて出席してきました。日本はAsia Pacific, Middle East, Africa部門の一部とされていて、総売上の18%程度だそうです。この地域のCEOを勤めているのはレバノン出身のOsama氏という30歳台の頭の良さそうな若手で、「数ヶ月前の出張では名前のせいで米国に入国できなかったのですよ」とトランプ政権への皮肉を込めて自己紹介してくれました。レバノンと言えばイスラエルとの確執(トランプや娘婿のクシュナー氏は親イスラエルだし)やヒズボラがシリア政府軍と協同してISと戦闘したりで国内は大変ではないかとも思われるのですが、その辺の話はスルー(多分故国には住んでないから)して「きっとこの若者も完全にグローバル企業のエリート社員であり、グローバリストなのだろうなあ」と感じました。

 

そこで本題の「エリートは何故グローバリズムが好きか」という問いですが、結論的に言うと「キリスト教的な奇麗事を言いながら我欲の追求ができるから」という事に尽きると思います。表面的な差別をなくし、実力本位で評価され、頑張った分だけ自分の物になる、うまくやれば無限に財産(権力)を増やせる、というのは実力のある者にとっては住み易い環境です。人間も動物も特定の能力の配分は正規分布を示している事は誰も否定しないと思います。義務教育における試験の成績が、母集団が大きくなる程正規分布を示してくることからも明らかです。社会が安定して成り立つにはあらゆる能力において正規分布を示している人達全てが程々に衣食住足りて生活してゆける環境にある事だということも誰も否定できないでしょう。一部の能力に優れた人が全ての富を独占する社会が安定的なものでないことは「真の知者」であれば理解できるはずです。だから人間社会は長年の試行錯誤の結果、国家と言う社会を造り、税を徴収して富を再配分することで社会の構成員が何とか皆暮らして行けるよう努力をしてきたのです。しかしグローバリズムは国家社会の枠組みを破壊し、税による富の再配分も拒否する方向で動いてきました。それに代わるセーフティネットの確立は「トリクルダウンセオリー」という現実には機能しない夢物語を語る事で済ませてきました。キリスト教文化においては富める者が貧しい者に施すことは善であり、富の独り占めは許されない(トマス・アクイナス 貪欲は大罪   ”金持ちになりたがる人たちは、誘惑とわなと、また人を滅びと破滅に投げ入れる、愚かで、有害な多くの欲とに陥ります。”新約聖書 テモテへの手紙 第一 6章 9節)はずなのですが、資本主義が盛んになるにつれてユダヤ人を中心にした金融業が栄え、マックスウエーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」以来天職に勤勉に励んだ結果。財をなして投資に資する事は社会にとっても善であるという思想が普及することで資本主義的行動が神の思想に反することではないと考えられるようになったのだと思います。その上神の思想に添うような「奇麗事」がグローバリズムには付いているので尚更抵抗感なくエリート達は受け入れることができるのだと思います。

 

ネオコンと呼ばれる人達が元々は社会主義者の左翼陣営から資本主義に鞍替えした人達であることは周知の事ですが、グローバリストと言われるエリート達は20世紀後半であれば左翼的な思想で世界統一を指向していた人達と考えられます。以前、「インテリは何故左翼が好きか」でも論考しましたが、本来左翼とは論理や理屈で社会が制御できると考える人達であって、グローバリズムエリート達と集団としてはかぶる人達であると考えられます。だからグローバリズムで世界が統一されることに抵抗感がないのだと思います。

 

先日訪れたボストンのハーバード大学で、同大学を中退して、いまや世界的大富豪であるFacebookのマーク・ザッカーバーグが卒業生にスピーチをしました。日本語訳全文がここで読めますが、なかなか感動的で良い事を述べてはいます。彼はグローバリストでありながら微妙にグローバリズムを批判するような言質も言いつつ、「自分の生き甲斐を探すのではなく、全ての人に生き甲斐を与える事を使命とするべきだ」というハーバードを卒業する将来の社会のエリート達に送る言葉を述べています。しかしグローバリズムをひっくり返して、多極化した世界に戻し、それぞれの小さな社会で各人が自分らしく生きられるようにとまでは言ってないですね。

 

   Harvard 大学  右はこれも名門のマサチューセッツ工科大学(MIT)で近所にある

「キリスト教的な奇麗事を言いながら我欲の追求ができる」というグローバリズムの本旨は実力のあるエリート達にとっては捨て難い魅力だと思います。大手メディアのプロデューサーやキャスターもエリートであり、グローバリズムを信奉して止まないからことさら反トランプに余念がないのだと思います。ボストンではUrology care foundationという医学に資する慈善的基金が主催するコンサートが開かれて、その司会を地元ボストンのCBSTVキャスターで父や兄弟がこれまた世界的に有名なMassachusetts General Hospital(MGHハーバード大学医学部の病院と言って良い)の泌尿器科医だというPaula Ebbenさんが勤めました。私は最低限の150ドルしか寄付しなかったので3階席の端っこでしたが、上限なく寄付できる人達は1階のテーブル席で食事をしながらコンサートを楽しむという趣向でした。John Williams特集でスターウオーズ等の知っている曲を良い演奏で聴けて満足だったのですが、まあグローバルエリートとは良いものだなと見せつけられた感じもありました。

 

  名門MGH  Paula Ebben嬢 Urology care foundationのコンサート

ということでグローバリズム的都市のボストンでグローバリズム的学会に参加した報告をかねて何故エリートはグローバリズムが好きかを考えてみました。


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