rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

書評 「数字で見るニッポンの医療」

2009-07-19 22:51:47 | 書評
書評 「数字で見るニッポンの医療」読売新聞医療情報部編(講談社現代新書―2008年)

普段日本のマスコミの偏った医療報道に苦言を呈している私ですが、この本は客観的な数字を元に日本の医療を解りやすく解説した良書と言えます。医師の私からみて変に欧米の医療を礼賛することなく、また日本の医師を精神論で批難するようなこともなく、私も普段からおかしいと感じているような事例にも具体的に正しく取り上げられていて「マスコミも良く勉強すればまともな報道ができるではないか。」と思わせる内容です。

マスコミも省庁と同様縦割り社会であり、医療のことを知らない社会部の記者が偏った報道をしても事情を良く解っている医療担当の記者が訂正できないということは聞いています。だから医療者はマスコミに対する時は「マスコミを上手く使うようにしなさい。」と言われます。こちらが初めから敵対してかかったり警戒しすぎたりすると却って悪いように報道されてしまうのであり、マスコミが知りたい所を良く説明しつつこちらの知らせたい内容を報道してもらうように仕向ける工夫が必要だと言います。

第一章では日本の医療の全般的な数字が紹介されている。つまり日本の医療費は安いのか、手術件数と手術死亡率は関係あるのかなど論じられている。日本の医療が効率的であるけれど診療費が安いのであって諸外国より薬にかかる医療費が多いといった指摘はその通りだと思う。私の事例の紹介ですが、先日腎外傷で出血がひどいため、夜中に腎動脈塞栓術を行いました。時間外に出てきた放射線科医や泌尿器科医の手当ては一人3000円足らずですが、一本十万円以上する塞栓用コイルを20本も使用したので治療費は車一台分近くになりました。医療費が高いといってもそれは医者がもらう賃金ではないということが良く解ると思います。

本にもどります。心臓手術の症例が少ない病院の手術死亡率は多い病院の2倍というのは真実ですが、死亡率自体が1.6%が3.8%になるだけであって田舎の病院でも96%の人が助かるのであれば医療レベルは十分に高いと言えるのではないでしょうか。30%が60%に跳ね上がるならば手術できる病院を制限するべきですが、交通事情など田舎の病院の方がハンディもあるのですから数字だけで批難するのは片手落ちであるとこの件では本書を批判しておきます。

その後身近な医療費、がんと生活習慣病、心の病気などの話題が続きます。これらの内容はその通りだと思います。日本の癌医療は遅れているなどと言いますが、緩和医療や「死に向き合う患者さんの心のケア」といった面では問題はあるけれど日本の「癌治療」そのものは諸外国と比べて全く遜色ない。日本で癌の死亡率が減らないのは一つの癌を治しても同じ人が死ぬまでに3つ4つの癌にかかるからで米国ではそうなる前に心臓や脳血管障害で死亡しているだけの違いです。本書で紹介されている「外国で承認されている画期的な新薬といっても延命効果が2-3ヶ月延びるだけである」といった解説は国民全体に知らしめるべき真実だと思います。

7章の「医師の姿」も普段私が主張している通りですし、8章の「検査大国」も理学所見よりCTという行き過ぎたデータ尊重主義の姿を紹介していて共感します。終章にかけてメタボとコレステロールの話題を取り上げていますが、「コレステロールを下げた所で1000人に薬を飲ませて1年で一人心筋梗塞が減る程度なら国民をあげて大騒ぎするほどのことか」という問いかけに私大いに賛成します。

日本人は薬好きであり検査データ好きですが、この本を読んで正しい医療データを知って欲しいと思いました。

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