rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

映画 グリーンブック感想

2021-06-11 21:55:05 | 映画

グリーンブック  2018年米 監督はピーター・ファレリー。主演はヴィゴ・モーテンセン。共演はマハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニら。第91回アカデミー賞では作品賞・助演男優賞など三部門を受賞した。

『グリーンブック』(Green Book)は、ジャマイカ系アメリカ人のクラシック及びジャズピアニストであるドン"ドクター"シャーリーと、シャーリーの運転手兼ボディガードを務めたイタリア系アメリカ人の警備員トニー・ヴァレロンガによって1962年に実際に行われたアメリカ最南部を回るコンサートツアーをモデルにした作品。題名のグリーンブックとは1960年頃に黒人のドライバーが南部を旅行する際に黒人でも利用できる施設を網羅したガイドブックの事。基本的には王様然とした黒人ピアニストのシャーリーがイタリア系白人運転手のトニーと繰り広げる珍道中を描くロードムービーですが、上流社会で音楽家としては認められるシャーリーが食事やトイレといった日常生活では南部においては「黒人」として差別される。貧しい生活をしている白人トニーはシャーリーへの差別や攻撃を職務として守りながら次第に友情が芽生えてくる、という内容。あくまでコメディタッチで作られているので「ほっこり」する場面が多く、緊張感なく鑑賞でき、シャーリーの奏でる音楽も良い雰囲気を醸し出します。

映画 グリーンブックのタイトル画像    題名の基になったガイドブック

 

アメリカの黒人差別は特別

日本人は欧米では全て黒人が差別されていると思いがちですが、ヨーロッパは白人同士でも民族対立が激しく、人種・宗教・言語の違いで延々と殺し合いをしてきた歴史があるので、特別黒人だけが差別されている訳ではありません。しかも貴族と平民の違いも明確であり、職業などでも差別があります。米国は移民社会であり、原住民以外は基本外来者なので本来差別はないはずですが、唯一移民でないのが「奴隷」として連れてこられたアフリカ系黒人達で、しかも少しでも黒人の血が混ざっていると「黒人」として扱われる特別ルールがあります。テニスの大坂なおみ選手はハイチと日本のハーフで、日本国籍があれば日本人として誰でも認識していますが、米国では本人も「自分は黒人」と認識しているようです。日本人はいろいろな顔つき体つきの人がいるので、インド人、トンガ人、モンゴル人、朝鮮人、はたまた白人?みたいな純粋日本人が沢山いるので、相手がハーフであっても子供時代からあまり違和感を感じないで付き合ってきました。私自身時々中国語で話しかけられる(国際学会ではいつも)ので思いっきり中国系の顔なのだと思っています。

この映画でもイタリア系のトニーは同じイタリア系移民と話す時はイタリア語を使います。これはラティノ系の移民たちがスペイン語で会話するのが普通で、それぞれの出自に応じた文化社会を米国の中で築いているのを私も米国留学時代感じました。では黒人達は?というとスラング的な米国語以外、出自に応じた言語も文化もありません。この映画では金持ちのシャーリーはアフリカの酋長じみた装飾の部屋に住んでいるのですが、彼なりの出自についてのアイデンティティの主張だったのでしょう。

シャーリーの自宅 アフリカの酋長?を思わせる装飾

南部の外遊先では、ホテルやレストランのオーナーが「黒人は使えない」という規則を盾にシャーリーが施設を利用することを拒むのですが、個人的な本音としては「別に良いのでは」と思っている節を醸し出します。日本にも男性のみのゴルフ場があったり、土俵に女性は上がるな、という仕来りがあったりしますが、必然でない文化は変わってゆくべきなのだろうとこの映画を見て感じますし、必然でない「文化」とされるものを変えるのもまた勇気が要る事だと思いました。全体として定番的な展開ではありますが、映画としては一見の価値がある、楽しめる良い映画だと思いました。


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9 コメント

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こんにちは (goozmakoto)
2021-06-13 15:24:52
本当の意味での人種差別問題のない、日本に比べると欧米の人種差別の根深さ、複雑さを教えてくれるいい映画ですね。
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大坂さんのこと (sekko)
2021-06-13 19:06:18
記事をいろいろ参考にさせていただいています。

この記事を読んで、他では書けないことをコメントしたくなりました。
私は大坂さんが21歳で日本国籍を選ぶとしたことで日本人は大満足だったと思います。もし彼女が日本人の柔道とかレスリングとか重量級のチャンピォンクラスのアスリートと付き合っているというなら、日本人はもっと喜んだでしょう。でも彼女が黒人のラッパーとの熱愛を公にしたことが、日本人には気に入らなかったのではないかと思います。
欧米白人社会では一般に、白人と結婚した黒人女性は白人に受け入れられるけれど、黒人と結婚した白人女性は白人から差別的に見られます。それと同じような心理構造があるのではと思います。
でも、表立っては誰も言いませんよね。

(私の『グリーンブック』感想です。)
https://spinou.exblog.jp/30182056/
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KYには厳しい (rakitarou)
2021-06-14 07:05:44
誠様 コメントありがとうございます。日本は人種差別はないと思いますが、従う、従わないにかかわらず「同調圧力」を理解しない人への風当たりは強い、つまり空気読めない人には厳しいと思います。
その辺りを描いた時代劇などは外国の人は理解できないかもと思います。
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枠にはめたくないですね (rakitarou)
2021-06-14 07:12:04
sekkoさん、コメントありがとうございます。外国に長くおられると「外の世界との緊張」みたいなものを多く感じておられると思われ、sekkoさんのグリーンブック感想の多彩さに感心いたしました。
大坂さんについては、あまり詳しくないので多くのコメントはできませんが、若いながらあれだけ世界で活躍されている方を「日本人的な枠にはめて評価する」のは誤りだろうと思います。コメント歓迎です。これからもよろしくお願いします。
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6月19日の奴隷解放記念日(ジューンティーンス)が祝日に (宗純)
2021-06-18 09:24:16
日本の主要メディアでは最左翼の共産党機関紙赤旗と、大企業の管理職や中小企業主などアッパーミドル向けの最右翼の日本経済新聞だけが報じているのですから不思議。
ロイターやニューズウイーク、ウォールストリートジャーナルなど外国メディアは報じる。ところが、何故か日経と赤旗以外の他の大手国内メディアは報じない。
これ、ひょっとしたら隠れた大ニュースの可能性があります。
そもそも奴隷解放記念日がリンカーン大統領の解放宣言の3月1日ではない。その2年半後の南北戦争終了から2か月後に北軍の将軍が敗北した南部連合のテキサスに入って「奴隷を解放した」との不可解な記念日。既に地元テキサス州やニューヨーク州では祝日に指定されていたが今回は連邦の祝日に格上げされて、これでアメリカの祝日数が11になる。それでも日本に比べて祝祭日に日数は随分少ない。
我が国を含め歴史上奴隷制も人種差別も普通にあるが、
アメリカの奴隷制とか人種差別ですが、これは他とは全くの別ものですね。アメリカ以外の国と同じだろうと思うから大きな間違いを犯すのです
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米国の特別性 (rakitarou)
2021-06-18 22:23:35
奴隷解放記念日については私も知りませんでした。仰るようにローマもインドも他国の奴隷は階級であって同じ人が別の階級に変わる事もあり得るけど、米国だけは黒人はいつまでも黒人という特殊性がありますね。メディアが報じないのは日本人には説明しにくいからでしょうか(ステレオタイプな差別階級論や休日としての経済関連として2誌が報じた?)。社会現象や映画の背景を考える時にその辺は私を含む日本人には理解しにくい所かなと思います。
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南北戦争時の遺恨 (宗純)
2021-06-20 09:49:57
米民主党やリベラルメディアの牙城、カルフォルニア州在住の映画評論家町山智浩によると、今回のグリーンブックに関連して日本でもお馴染みのフライドチキンは黒人奴隷の料理だと解説していた。白人はホークとナイフで骨なし鶏肉を食べて、その残りが黒人の食糧になったためとの説。
その町山氏がグリーンブックの前に盛んに宣伝していたのが1975年の映画マンディンゴ。

黒人奴隷の値段は高級車1台分の値段なので、プラグマティズムのアメリカでは奴隷牧場が作られていたが、最高品種サラブレッドがマンディンゴ種なのです。筋書きではマンディンゴの女奴隷を所有していた牧場主は運よくマンディンゴの男を買い入れるが血統書を調べると兄妹、それでも反対を押し切って純血種を生ませるとか、あるいは白人牧場主が人間牧場の女奴隷を種付けして自分の子供たちを奴隷として売りに出すなど目も当てられないドロドロの展開
メーガン妃やマライヤ・キャリーのような黒くなくても黒人と見做すアメリカの非常識は世界中に何処にも無い奴隷牧場の存在が大きいでしょう。

しかもアメリカの場合には60万人が死んだ内戦の遺恨が今でも続いているらしいのですから恐ろしい。当時の人口比は北部の人口は約 2200万、南部の人口は約900万だが内わけは白人550万,黒人奴隷350万だった。
戦力的に圧倒的に不利だった南軍が初めは勝利していた。北軍が不利だったので開戦から1年後に黒人奴隷の暴動を期待して行ったのがリンカーンの奴隷解放宣言。その2か月後にはホームステッド法で65ヘクタールの公有地(元々インデアンの土地)を無償で与えると、戦争で勝つためにはなりふり構わない
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映画マンディンゴ (宗純)
2021-06-20 10:37:10
公式な歴史教科書では南北戦争は奴隷解放の是非で戦争が始まったと誤解させるような記述になっているが、
南北戦争の開戦は1861年4月でリンカーン大統領の奴隷解放宣言の1年近くも前。これは明らかな歴史の偽造。書き換え。いわゆる歴史修正主義の一種です。
4年続いた総力戦の「南北戦争」が基礎的な国力で南部を上回る北軍側の勝利で決着して解放された奴隷が400万人だと記録されている。
ところが19世紀初め(1800年)のアメリカの奴隷は90万人。
何と、半世紀の短い時間で奴隷人口がアメリカでは爆発的に増えていたことになります。アフリカからの奴隷船では到底無理な数字で、これはマンディンゴなどの人間牧場での繁殖が考えられるのですから恐ろしい。女性が15歳なら十分子供が生めるので半世紀(50年)でも4~5倍に増えても不思議はない。
アメリカの奴隷ですが、実は黒人だけではなくて、原住民のインディアンが数十万人から数百万いたと言われているが、実数が不明。もちろん映画なんかには一切描かれない。
実はアメリカの奴隷労働以前のアメリカ大陸には、スペインなどがインカ帝国を滅ぼした後に、ユネスコの世界遺産になった「ポトシ銀山」などでは、インカ時代の賦役制度を利用したミタ制の奴隷労働で原住民のインデオを酷使したので人口が激減。黒人をアフリカから輸入して労働力不足の穴埋めに使う。
ミタ制度は原住民成人男子を対象にした労働力割当制度で、総数の7分の1が数ヶ月交代で駆り出され、有償で労働に従事させられた。
奴隷労働は無償で、鞭で叩いて働かしていたと勘違いしている人は多いが、有償の奴隷の方が真面目に働くのです。ポトシ銀山では休日でも働いたというから、奴隷主にとっては儲けが大きい。
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奴隷牧場と原罪 (rakitarou)
2021-06-21 07:20:46
宗純 さん 種々の情報を加えていただきありがとうございます。奴隷牧場については米国でもタブーとして学校教育に組み入れられてもいないのではと思います。
思うにキリスト教的原罪を背負うに最も相応しい国(どの国も過去をたどれば似たようなものとは思いますが、新しい歴史として検証可能のモデルとして)は米国ではないかと思いますね。
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