rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

ビットコインの隆盛とシムズ理論

2017-12-12 16:52:11 | 社会

仮想通貨であるビットコインが1BTC100万円につりあがったという報道を受けて、数日のうちに200万円まで上昇といった乱高下(下は少しですが)をしています。そもそも国家としての後ろ盾がなく、ブロックチェーンという一見堅牢な構造に守られただけのデジタル上の価値単位であるビットコインが何故このように注目されているかというのは自分が財テクに興味がなくても非常に面白く思います。経済には全く不案内ではありますが、素人なりに何故仮想通貨(千種類くらいあるという)が今注目されているのかを考えてみました。

 

リーマンショック以降のここ数年の世界経済の潮流は、先進国の経済停滞を何とかすることを目標にとにかく流通する貨幣を増やす事をしてきました。米国のQEや日本の黒田バズーカと言われるもの、EUも中央銀行が同様に量的緩和を行ってきました。これは所謂シカゴ学派といわれる人達の提唱するリフレ理論に基づいたもので、下図のように本来は実体経済が栄えると結果として自然に株価が上昇するところを、株価を上げてやれば実体経済も上がるはずである(原因と結果が逆になっても成り立つのではという夢想とか期待)に基づいた理論でした。しかし結果は「流動性のワナ」にはまった結果、投資や債券購入に回らない大量の貨幣が、仮想経済の中を循環するのみで、株などの投機的経済を扱う人達のみの中で蓄積されて貧富の差が開き、実体経済は活性化されないという惨めな結論になったことは誰も否定できないと思います。実体経済が活性化されず商品の行き来が増えないので貨幣をどんなに増やしてもインフレーションにならず、日銀のインフレターゲットの目標達成も延々と先延ばしされ、最近では誰もターゲットの達成を口にしなくなってきました。

 

そこで2011年にノーベル経済学賞を取った米国プリンストン大学のクリストファー・シムズ教授が2016年8月に出したシムズ理論というのが注目を集めています。これはFTPL(fiscal theory of the price level財政出動させて物価を調節しよう理論)と呼ばれていて、日本でも内閣参与の浜田宏一氏などが早速取り入れて安倍総理に提言しているようです(麻生財務大臣は財務省から止めてくれと言われてこれには反対を表明していますが)。

 

このシムズ理論というのは際限なく財政出動をして政府の債務を増やしてゆくと国債の返済が税収を超えて、国家財政が破綻して国家が保証する貨幣の価値が下がる(懸念が生ずる)ので(ハイパー)インフレが起こるという理論です。だから「どんどん国債を発行しなさい」「最後はハイパーインフレが起こって100万円が10円の価値にまで下がるので沢山発行した国債もちゃらになります。」「財政再建のために増税をする必要はありません。」という理論です。この理論の基になっているのはリカードウ・バーロウの中立命題と呼ばれるもので、「国債の発行はいつか税金で返すのだから増税と結果的には同じことである。」という否定しがたい真実に基づいています。これを増税でなく貨幣価値を下げるインフレによって棒引きにする、結果的には貨幣を持っている国民が皆で損をするということで「国家の借金をちゃらにする理論」ということです。

 

このシムズ理論というのは実際には現在日本で行われている国債の大量発行とそれを日銀が買い取っている(2016年末で国債の40%を日銀が保有しているーアベノミクスで景気が良くなっている部分はこの財政出動によると思われます)構図そのままのように見えます。2017年末には520兆円の国債を日銀が保有する予定と言われています。政府が50%以上の株を持っている日銀が結果的に「破綻した日本国」を保有することになってもあまり問題はなさそうに思いますが、何事も無く借金を棒引きにして日本銀行がつぶれない保証はなく、日銀がつぶれると日銀券(円)も紙切れになると考えるのが普通と思います。

 

最初に仮想通貨は「国家の後ろ盾がなく、ブロックチェーンが後ろ盾である」と書きましたが、実はこの特徴こそが、現在仮想通貨を蓄財の手段とする人が増えている原因ではないかと思います。金(Gold)も実態としての蓄財手段にはなりますが、仮想通貨と異なり決済に使うことができません。この細分可能性が通貨としての利便性を保証する鍵でもあります。現在ビットコインの大部分は一部の資産家の所有であると言われ、決済に用いられていることは可能であっても殆ど無いのが実態であると言われています。マイニングを行っているのも中国の専門の企業が行っていて、いずれは貨幣経済を銀行から切り離すことも計画の中にあるとも言われています。各国やEUなどの集合体の都合で貨幣が作られている限り貨幣の安定性というものの担保はシムズ理論を待たなくとも限界があると考えられます。現在は国家の後ろ盾がある法定貨幣が基本で仮想通貨は不安定と言われますが、その価値観が逆転する時も来るかもしれません。仮想通貨というふわふわした感じを連想する訳語ではなく、Crypto Currencyを暗号通貨と訳す方がブロックチェーンの後ろ盾という実体に合っているという説もあります。仮想通貨獲得に走る資産家達は法定通貨の不安定化という未来まで読んでいるということでしょうか。

(参考 アメリカに食いつぶされる日本経済 副島隆彦 著 2017年刊 徳間書店)

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2 コメント

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勉強になりました (山童)
2017-12-13 13:00:18
株値を上げれば実態経済も上がるはず…何故にそんな実証しようもない事を簡単に決めるのか理解できませんが。
経済学も所詮は人文科学で、
文系というのはどこまで行っても、実証の積み重ねと再現性による理系のような確固たるものがないと。つまりは推論でしかない。それを
国の行く末に当て嵌められてもなぁ…
それが読んでの実感です。
もう国の借金は1000兆円を越えていますね?
毎日30億円の返済をしても、元金返済「だけ」で1世紀かかります計算となります。そして利子は計算してません。こうした額の金で動いているので、国債をチャラにするような発想が出るのも仕方ないのですが。
ただ食糧自給率を考えているのですかね?
何らかのクラッシュが来たときに世界的な不作と重なれば、明らかに餓死者が出ますよ。
EUとの協定で車の関税を下げてもらう代わりに、乳製品の関税を下げてゆく取り決めした。
上記のような発想する学者や官僚や政治家が。

で、直撃を受けるのは北海道の畜産農家です。
肥料の関係から北海道の農家は畜産を兼ねるのが普通です。離農が加速する。
しかし農地はいちど耕さず野原にしてしまうと、飢餓の時に慌てて耕しても、休耕していた年数以上に耕し続けないと、元の収穫量には絶対に戻りません!
そして十勝平野だけで300万人を完全に養える生産量であり、北海道の農家の離農が加速すると、日本の食糧自給率40%は20%を切ります。
このような事を書きましたのは、数字の計算だけでは何ともならない事が「自然」であり、
喰う寝る飲む泄すは自然法則の下に現在も人は置かれている事を忘れてないか? です。
飢餓が来たときにタイヤ食って生きられませんよ。そう考えるなら車輸出の為に、北海道の畜産農家を切り捨てて良いはずはないです。
そうした事を平然と考える連中が、国債をチャラにするような事を政府に提案するのでしょう。そのように記事を読ませていただき考えました。
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食料自給は国防と戦略の要 (rakitarou)
2017-12-13 14:05:29
おっしゃるように食料は国防に必須で、場合によって国家戦略用の物資としても使えます。欧州、米国はその観点から常に農業を考え、欧州版TPPも完全拒否であったと聞いています。
それに引き換え、一度反対と言っておきながらTPP推進派に回る連中というのは全く信用がおけず、また国防についての基礎理念(兵器を買えば良いなどというのは幼稚園児の発想)さえ疑われます。
地産地消こそが混迷の21世紀を生き抜くための基本思想であり、他の大陸がどうなろうとしぶとく生き残る礎になると確信しています。
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