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あるマーケティング研究者の思考と行動

人はなぜ<上京>するのか

2012-04-07 10:02:36 | Weblog
明治・大正の時代から現在に至るまで,日本人にとって「東京」という都市は特別な存在であり続けた。本書は,有名な知識人から市井の人々までを視野に入れながら,彼らにとっての「上京」とはどういうものであったかを膨大な文献や統計等の資料を通じて描き出そうとしている。

人はなぜ<上京>するのか
(日経プレミアシリーズ)
難波功士
日本経済新聞出版社

本書を読み,明治維新が上京者による革命であったことはいうまでもないが,戦後日本のメディアやポップカルチャーもまた,少なからず上京者たちによって形成されたことを認識した。しかし,その構造は最近希薄化してきた。「地方」の若者の間で地元への愛着が強まりつつある。

東京がトーキョー化し,日本中に遍在していると最後に著者は指摘する。では今後どうなるのか?「上洛」ということばがあまり使われなくなり,「上阪」に至っては完全に姿を消した(その存在をぼくは本書で初めて知った)。上京ということばも早晩陳腐化するのだろうか?

一方でトーキョーがグローバル化するというシナリオもある。著者の難波功士氏が愛してやまない大阪が今後再活性化するのは,グローバルな大都市として自立することによるのだろうか?「大阪都」構想はそれを目指しているが,著者はもっと複眼的に考えているようである。

「勉強になる」だけでなく,読んでいて楽しい本。特に1970年以降の記述は自分史と重なる部分が多く,つい熱中して電車を乗り過ごすことが何回かあった。そういう意味ではぼくより若い世代,特に東京で生まれ育った若者たちが本書を読んでどう感じるかにも興味がある。