Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

プロ野球の「熱狂」に包まれて

2016-11-04 16:47:03 | Weblog
今年を締めくくるにはまだ早いが、自分的には大きな事件を書いておこう。1つには、編著者となった『プロ野球「熱狂」の経営科学』(東京大学出版会)という本を8月に上梓したこと。共著者はマーケティング、心理学、経営学等、多様な分野から集まっていただいた。

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プロ野球「熱狂」の経営科学: ファン心理とスポーツビジネス
水野誠、三浦麻子、稲水伸行
東京大学出版会


書名のごとく、プロ野球の「熱狂」を支えるファンの心理や行動、それを生み出すチーム編成や球団経営などさまざまな話題が扱われている。質問紙調査、心理実験、二次データの分析、シミュレーションなど、アプローチもさまざまだ。学術書のカテゴリに属する本である。

その構成は以下のとおり:

序章 プロ野球の「熱狂」を科学する(水野 誠・三浦麻子・稲水伸行)

第I部 価値を見きわめる:マーケティングの視点
第1章 プロ野球ファンを解き明かす―データによる「熱狂」のマーケティング・リサーチ(水野 誠)
第2章 人はなぜその球団を応援するのか―「遊び」の理論から見たプロ野球球団への選好(水野 誠)
第3章 選手とチームへの共感と自己適合性―ブランド・ロイヤルティ戦略(石田大典)

第II部 ファンを獲得する:心理学の視点
第4章 阪神ファンと広島ファン―熱狂するファンの社会心理学(三浦麻子・稲増一憲・草川舞子)
第5章 社会的営みとしての球団愛―プロ野球ファンの集団力学(中西大輔)

第III部 球団を運営する:マネジメントの視点
第6章 プロ野球選手のたどる道―統計からみる選手人生(戸石七生)
第7章 常勝チームはつくれるか?―チーム・デモグラフィー・モデル(稲水伸行・坂平文博)
第8章 日本のプロ野球球団経営の現状―貸借対照表から見える変化(中村亮介)

私が担当した章では、巨人・阪神・広島のファンを比較している。ところが、執筆時には期待はすれど予測しなかった事態が起きた。広島カープが25年ぶりのリーグ優勝したのだ。その結果、カープファンの熱狂(象徴的には「カープ女子」)に関する取材を受けることになった。

私は現在ニューヨークで在外研究中だが、たまたま10月に一時帰国する予定があったこともあり、そのほとんどに何らかの形で応じることになった。

新聞・・・毎日新聞大阪本社版朝刊 10/05 「論点 カープ25年ぶりリーグV」見出しは「育てる感覚 選手と一体」。何と大野豊さんの横に載るという名誉に浴した!
さらに9/18付の神戸新聞に書評が、10/20付の中国新聞に紹介記事が載った。

テレビ・・・NHK総合 特報首都圏 10/21 PM 7:32-8:00 「首都圏も熱い!カープ人気の秘密」 このなかでほんの数十秒、インタビューシーンが登場する。しかし、書影が映ったこと、大学の建物が映ったことはありがたかった。

ラジオ・・・TOKYO FM TIME LINE 10/27 PM7:00-7:54「小田嶋隆●25年ぶりのセリーグ優勝、広島カープにみる熱狂が生むビジネスの理想図」 事前収録された数分のトークが流れた。このときは、スタッフの方からNYまでお電話いただいた。

雑誌・・・某シンクタンクの機関誌から原稿依頼。某ビジネス誌の取材(いずれも現時点では、その後どうなったかは不明・・・)。『週刊ベースボール』(10/24)に書評掲載。

マス4媒体から取材を受けるなどという経験は初めてだ。面白い経験だったし、勉強にもなった。何とか答えたとはいえ、内心答えに窮した質問がいくつかある。それはやはりビジネスへの含意に関連するものだ。正直いえば、それは「今後の研究課題」ということになる。

ウェブ上では、shorebird氏のブログで、心理学の観点から詳細な書評がなされている。Twitter を検索するといくつか本書に言及したツイートが見つかるが、価格への不満を述べている人が多い。5400円は確かに高い(泣)。

しかし、カープの25年ぶりの優勝がもたらした歓喜と熱狂に関心がある方、それをビジネスや地域起こしに転用できないかと考える方には、値段には目をつぶってぜひお読みいただきたいと思う。著者の球団選好に伴うバイアスもまた、笑って読み流していただきたい。

なお、確認したわけではないが、上述の取材は Business Journal の連載に書いた「広島カープファンを急増させたメカニズム…プロ野球の「熱狂」から学ぶべきこと」がきっかけになっていると思う。そういえばこの連載、その後更新されていない(汗)。