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あるマーケティング研究者の思考と行動

野田佳彦『民主の敵』

2011-08-31 17:13:04 | Weblog
直前の「予想」を裏切って,野田佳彦氏が民主党の代表選挙で選ばれ,内閣総理大臣に指名された。鳩山氏,菅氏,あるいは前原氏などに比べて地味な人物だが,そもそもどのような考え方の持ち主なのか。2009年の7月,すなわち政権交代となった総選挙の直前に出版された著書を読んで見た。

民主の敵―政権交代に大義あり
(新潮新書)
野田佳彦
新潮社

野田氏は大学時代,田中「金権政治」を批判して自民党を離党した河野洋平氏らによる新自由クラブの選挙を手伝っている。また,田中角栄の金脈を追及した立花隆にあこがれてジャーナリストを目指した時期もある。野田氏はその後松下政経塾の1期生になり,政治家の道を進むことになる。

彼は自衛官の家庭に生まれ,いわゆる地盤も看板もないところから政治家を始めている。本書で「金権政治」とともにさかんに批判されるのが「二世議員」だ。野田氏がそれを原点に活動してきたのなら,今回の代表戦で小沢氏と鳩山氏の連合軍と対決したことは感慨深かったのではないだろうか。

野田氏は小学生の頃,当時多かった左翼的な教師から自衛官の息子ということで虐められたという。そうした教師が属していたであろう日教組のトップを自らの政権の幹事長に据えることになったのも,皮肉な巡り合わせである。もちろん,それについても野田氏は「ノーサイド」というかもしれない。

本書で論じられている政策課題は,国会議員の定数削減,官僚の天下り禁止,特殊法人や特別会計の改革,など。いずれも民主党政権が実現できないでいる公約ばかりだ。いま野田氏は増税による財政再建を重視しているようだが,こうした改革への意志はどうなったのか聞いてみたい。

野田氏は本書で「財政出動か財政規律かという前に、財政の完全透明化をしなければならないと思います」と書いている。事業仕分けなどを通じ,また財務相として財政の中身を完全透明化した結果,もはや増税しか道はないと判断したということなのか・・・そのことも聞いてみたい。

本書の後半では,より前向きなビジョンとして宇宙開発や海洋開発が語られている。そこで参考にされるのが松下幸之助の「新国土創成論」(1976年)。野田氏と同い歳のぼくもおぼろげながら覚えている。一言でいえば山を削って海を埋め立て,国土を広げようというアイデアだ。

現実には,新政権は東日本大震災からの復興が当面の最大の課題になる。そのための政治的休戦に適任という理由で,野田氏は選ばれたように思える。だから野田氏自身のビジョンはしばらく封印される。その間十分寝かせることで,味わい深い酒が仕上がればそれに越したことはない。