Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

間接クチコミの重要性~JIMS部会

2010-11-20 09:54:01 | Weblog
昨夜の JIMS 部会には,最近『大ヒットの方程式』を上梓された,鳥取大学の石井晃先生をお招きし,「ヒットの数理モデル」についてお話しいただいた。石井先生は物性物理の専門家だが,数々のヒット音楽をプロデュースしてきた吉田就彦さんとの縁で,ヒット現象の数理解析にも取り組まれてきた。

石井モデルは,マーケティング・サイエンス(MS)の立場からは,普及モデルの古典 Bass モデルに「間接コミュニケーション」を加えたものとみなせる。Bass モデルでは採用者から非採用者へのクチコミが扱われているが,石井モデルではそれが第三者に伝播する可能性が考慮される。

さらにいえば,採用者→非採用者のクチコミの流れだけでなく,非採用者のもたらすクチコミもモデルに組み込まれている。ヒットが生じるのは,まだそれを採用していなくても話題にするほど注目される場合だといえる。これらの要素は,従来の普及モデル研究では見逃されてきたことだと思う。

石井先生が主に取り上げるのは映画であり,クチコミはブログから測定される。映画の場合,クチコミは封切り前にすでに盛り上がる。その時点で誰も映画を見たものはいないが,広告やパブリシティといった外力が働く。封切り後は直接/間接のコミュニケーションがクチコミの盛衰を左右する。

間接コミュニケーション,非採用者のクチコミを考慮することで当然モデルは複雑化し,パラメタが増える。そのことで予測が多少面倒になるとしても,普及プロセスの実態がより深く理解される意義は大きい。石井モデルが刺激になって,普及研究がより厚みを増していくことが期待される。

映画の観客動員数は,MS では Eliashbergらが精力的に研究してきた(日本では荒木先生など)。映画の普及パタンには独自の特徴があるように思われ,石井モデルを他の財の普及にあてはめるとどうなるのかも興味深い。タレントのライフサイクルの予測に拡張できないか・・・という話題が二次会で出た。

大ヒットの方程式
ソーシャルメディアのクチコミ効果を数式化する
吉田 就彦,石井 晃,新垣 久史
ディスカヴァー・トゥエンティワン

研究会の後半では,ぼくも共著者の一人である「Twitterによる企業と顧客の対話」が報告された。実はまだ分析の途上であり,来週の JIMS 研究大会までにもっと充実させる必要がある。ということで,その内容の紹介は延期したい。