Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

信頼と協力@消費者間相互作用研究会

2008-06-27 23:57:16 | Weblog
昨夜は消費者間相互作用研究会。偶然ではあるが「信頼」と「協力」という,社会的相互作用を考える上で非常に重要な概念がテーマになった。

まず小笠原さんがインターネットへの信頼度に関する意識調査の分析結果を報告。国際比較調査の結果では,日本は諸外国に比べ,インターネットへの信頼度が極端に低い。そこにはさまざまな歴史的・文化的背景があるに違いないが,社会心理学の理論的枠組みでどう解明するかが一つの課題となる。日本人のネットユーザを対象とした調査に対して SEM による分析が行われた。

1つ頑健な結果として浮かび上がったのが,一般的なメディア信頼度が新聞とネットへの信頼度と強い相関を持つということだ(ただしテレビへの信頼度は独立している!)。一方,日本では諸外国に比べ,新聞への信頼度は高いがネットへの信頼度は低い。こうした非対称性が生まれるのはなぜか… 個人的にはそのあたりが今後,国際比較調査などから解明されるとうれしい。

次に鈴木さんが,繰り返し囚人のジレンマゲームのプレイヤーの脳内でどのような変化が起きるのかを fMRI を使って計測した研究を報告。厳密な統制実験を行い,条件の異なる被験者間で脳内血流の有意差を調べ,特定の認知活動や意思決定が脳のどの部位で行われたかを特定していく。それによって,意思決定の特定のモジュールを,より一般的な脳活動にマッピングできる。

ぼくの理解した範囲では,鈴木さんたちの実験で解明されたこと(の一部)は次のようなことだ。囚人のジレンマーゲームが期限を明示されずに繰り返されるとき,大部分の時期には協力を行い,終わり近くなると裏切りに転じるのが合理的である(個人の利得を最大化する)。だが,被験者は実際には裏切られると裏切り返すという Tit for Tat 戦略をとる。このとき脳内では理性を抑制する部位と感情にかかわる部位が活性化する。

人間の意思決定に理性的な部分と感情的な部分があることは,すでに多くの研究が仮説としているが,それを生理学的に裏づける点にこの種の研究の貢献がある。二次会では「ニューロマーケティング」の可能性について議論になった。現実の学術研究と産業界の期待には当然ながら大きなギャップがある。そこから起きる失望が地道な研究に逆風とならないよう注意を要する。

今回,サーベイデータの分析と脳科学的な実験という,両極端に見える方法論の研究報告を聞いたが,人間行動の研究として,これらが車の両輪になる時代が来ていると思う。たとえば以下の本に示された Kahneman たちの「幸福」研究がそうであるように,脳神経科学的な実験とパネルへの日記式調査,そして国際比較のための定型的質問紙調査などが並行して進められている。そして,それらの結果を統合する骨太の理論が最後に必要となる…。

Well-Being: The Foundations of Hedonic Psychology

Russell Sage Foundation

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…にしてもこの研究会,最近マーケティング研究者の参加が少ないことは寂しい限りだ。ぼくの研究上の関心が,マーケティング「学」界でいかに孤立しているかを表しているかもしれない。信頼と協力はむしろ「遠縁の」研究者たちとの間に成り立つということか…。