ロックに現を抜かし、寝ても覚めてもロックという「陸でなし」(笑)がジャズに踏み込むには何らかの
きっかけが必要だ。ローリング・ストーンズのドラマーであるチャーリー・ワッツが、大のジャズ・ファンで
あることはストーンズ・ファンでなくても知っている方も多いだろう。特にチャーリー・パーカーには
思い入れがあるようで、91年には「FROM ONE CHARLIE」というアルバムを出した。
86年にはチャーリー・ワッツ・オーケストラ名義で、ビッグ・バンド・スタイルのジャズを披露したことが
あったが、91年のプロジェクトはチャーリーの嗜好に一番近い感じのスタイルで、敬愛する
チャーリー・パーカーの生涯を題材に、クインテットでアルバムを作成した。
ワッツがパーカーのファンであることを知っていたので、それならとパーカーのダイアル盤を買った
ことがあり、それを気に入ったのだが、演奏内容の賛否はともかくワッツの愛情溢れる「FROM ONE
CHARLIE」を聴いて、どこまで理解できるかわからないが私もより深くパーカーを聴かねばと
思ったものだ。掲載写真右は、アルバムに添付された絵本のワン・シーン。因みにワッツは翌年、
ストリングスをフューチャーしたライブ盤「A TRIBUTE TO CHARLIE PARKER WITH STRINGS」を
リリースした。
そんなジャズ好きのチャーリー・ワッツのファン、いやストーンズ者に立ち塞がったのが掲載写真左の
ザ・ピープル・バンドの「THE PEOPLE BAND」である。チャーリーが絡んでいるレコードであるというのは
何年もストーンズ・ファンをやっていると自ずと知ることになるのだが、レコードを見る機会がないし
(あっても手が出ない値段であるのは明白)これを聴いたことがある人の紹介文にも出くわさない。
チャーリー・ワッツが演奏しているのかどうかも、今ひとつ確認できない状況であったのだが、
04年に曲を追加してCD化(掲載写真右)され、やっと聴くことができた。
68年10月1日にロンドンのオリンピック・スタジオで録音された、このレコーディングはチャーリーのお膳立てで
セッティングされた。この時期のストーンズはアルバム「BEGGARS BANQUET」の録音を終え、
ミック・ジャガーは映画撮影、ビル・ワイマンは他のバンドのプロデュースと課外活動状態で、チャーリーも
束の間の自由時間を好きなジャズのレコーディングのプロデュースをすることで楽しんだというところだろう。
チャーリーは演奏には参加していない。
アルバムは完全なフリー・ジャズだが、音の隙間が多いので所謂「行間を楽しむ」ことが可能な
フリー・ジャズである。メンバーのクレジットを見るとリン・ドブスンの名前がある。1曲だけの参加だが
後にソフト・マシーンに加入する人で、短期間しか在籍していないにも関わらずドブスンが参加した時代の
映像は、「ALIVE IN PARIS 1970」というタイトルでDVD化された。また、エルトン・ディーンが不在の
ワイアット・ラトリッジ・ホッパー・ドブスンというマシーン史上極めて珍しい布陣での演奏も「LIVE 1970」で
聴くことができる。
キルバーン&ザ・ハイローズのオリジナル・メンバーであるラッセル・ハーディの名前もある。
CDのライナーによると、チャーリー・ワッツだけでなくイアン・デューリーも、この時のレコーディングを
コントロール・ルームで見ていたようだ。
CDのジャケットを見たとき、オリジナルのLPと全く違うことに少々違和感を覚えたが、CDに使われた
デザインの方が当初バンドが選んだデザインだったのに、レコード会社が勝手に別の象の絵に変えてしまい
バンド側はそれを気に入っていなかったという文を読んで、「CDのジャケットで良し。」と納得した。
このアルバム「PEOPLE BAND」は、チャーリー・ワッツ絡みということで興味を持った。
それが、ソフト・マシーンやキルバーン&ザ・ハイローズまで繋がるのだから、ロック者はやめられない。(笑)