HARRY’S ROCK AND ROLL VILLAGE

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佐野元春 / ナポレオンフィッシュと泳ぐ日

2005-05-22 20:19:57 | 日本のロック・ポップス
89年発表。当時の佐野元春には元来のファンは勿論、
そうでもない人も巻き込むようなアーティスト・パワーが
あった。オリコンの1位に幾ばくの意味合いがあるかと
言えば、個人的にはどうでもいいのだが、世間に対する
少々大仰な私の見解としては、このアルバムが1位に
ならなかったのは、日本のロック・ポップス史の恥である。

「SOMEDAY」の大ヒットの後、ベスト盤を置き土産に
ニューヨークに行き、戻ってくると同時に発表した
アルバム「ビジターズ」は新作を待ち望んだ「SOMEDAY」以降の
リスナーの後押しも大きく手伝って1位になった。当時の流れを
敏感に察知した最新型の佐野元春に、私は大拍手を送りたい
気分であったが、にわかファンの多くアルバムを棚に仕舞い込んだ。

このアルバムはロンドンでブリンズレー・シュウォーツや
ボブ・アンドリュース、ピート・トーマスらパブ・ロックを語る上で
避けて通れない面子をバックに録音された。ハートランドとは
違うビートとスタジオの質感、そのビートに乗る大量の歌詞。
詩の朗読にも積極的だった、元春の集大成とも言える出来の
アルバムである。50年代からのロックンロールを愛し、
洋楽が周りに当たり前のようにあれば、選択肢としてあった様々な
スタイルがあり、それが最初の完成をみたアルバムと
私は捉えている。

太陽の下、真に新しいもの、オリジナルなものなんて
そうざらにあるものでなく、しかも時代は90年代を迎えようと
していた。何者かのフォロワーであったかもしれない
かつての元春も、自分のようなスタイルを持つ後人の姿を
どのくらい見ただろう。事実、若手が自分の作品を世に送り出す
手助けをしてきたが、いずれも元春を超えるにはいたらなかった。
途中でやめたり、自ら進路を絶つのはそこにどのくらいかの
葛藤があったとしても継続することに比べれば簡単な事だと思う。

現在の元春は、メジャー契約のないアーティストである。
しかし、様々なメディアへの関わりや、レーベル設立といったことを
早くから行なってきただけに、メジャー契約故の
つまらない制約がない分、自由な作品がつくれる位置にいる。
今のメジャー・カンパニーのシステムなら契約する価値など
ないのだろう。最も元春はデビュー以来、様々なシステムと
対決してきたのだが。

このアルバムは曲はもちろん歌詞が素晴らしい。
もし聴く機会があれば、歌詞にじっくり接して欲しい。
佐野元春は、浅井健一の詩世界に理解を示し、グルーヴァーズは
「NEW AGE」をカバーした。ロックンロールの歴史は
こうして続いていく。素敵じゃないか・・・。

コメント (2)
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