明日は仁左衛門一世一代の「女殺油地獄」の与兵衛を観に行く。歌舞伎で観るのは初見。したがって仁左衛門の与兵衛も最初で最後となるはず。しっかりと目に焼き付けてくるつもりだ。
「女殺油地獄」を初めて観たのは今年の国立小劇場の2月文楽公演の第三部。記事アップをしていなかったが、明日の予習のために書いてみよう。
【女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)】近松門左衛門=作
まずWikipediaの「女殺油地獄」の項はこちら
最後の「逮夜」の場(お吉の葬儀の前夜に与兵衛の悪事がばれて捕まる)だけがなくてほぼ通し公演だったと思い出す。明日の歌舞伎でも同様の流れのようだ。
<主な人形役割>
河内屋与兵衛=桐竹勘十郎、豊島屋女房お吉=桐竹紋寿
河内屋お沢=吉田玉英、河内屋徳兵衛=吉田玉也
河内屋太兵衛=吉田玉女、河内屋おかち=豊松清十郎
天王寺屋小菊=吉田勘弥、山本森右衛門=吉田玉志
<徳庵堤の段>野澤喜一朗、役ごとの大夫
お吉=竹本南都大夫、与兵衛=竹本三輪大夫
小菊=豊竹呂茂大夫、山本森右衛門=竹本津国大夫、ほか
<河内屋内の段>
中:竹本相子大夫、竹澤団吾
奥:豊竹呂勢大夫、鶴澤清治
<豊島屋油店の段> 豊竹咲大夫、鶴澤燕三
近松最晩年期の作品で人形浄瑠璃で初演、歌舞伎にもなったが評判がよくなくて上演が絶えていたのを明治に入ってから再評価されてまず歌舞伎で復活、その後文楽でもとなったという。Wikipediaの説明で「評判が芳しくなかった理由は未詳だが、近松作品の特徴である“恋のもつれ”が無く、更に主人公・与兵衛が救いのない不良で観客の同感を寄せにくいキャラクターであったからと思われる」とある。なんとなく観る前には隣家の人妻に少しは恋慕の情もあった上での凶行ではないかなどというイメージがあったのだが、序盤から見事に打ち砕かれた。
与兵衛は母親の再婚相手を馬鹿にし、継父が遠慮をするのをいいことにつけ上がり、放蕩三昧。廓通いで馴染んだ小菊が田舎客と野崎参りに行くと嫌がらせに途中で待ち伏せて喧嘩をふっかけるという実に「小さい男」なのだ。こてんぱんにやっつけられて泥を投げたら伯父の主で高槻家家中の小栗八弥の衣服を汚し、無礼討ちにされそうになって震え上がる始末。伯父は責任をとって職を辞してしまうし、彼の家にとっては問題児以外の何者でもない。兄の太兵衛が義父に勘当をすすめるのも無理はない。
この芝居で一番胸を打つのはそんな与兵衛でも母親のお沢と継父の徳兵衛、異父妹のおかちが真人間になってもらいたいと心から思い、かばい、実を尽くすところだ。お沢の息子を思うクドキには目頭が熱くなる。
しかし、勘十郎の与兵衛はあきれるほど我侭だし弱い者には平気で暴力を振るうし強者にはびくつく小心な悪者。小気味よさのかけらもなくただの薄っぺらなしょうもない若者ぶりが際立つ。
隣家のお吉は良い人過ぎたのが与兵衛につけこまれるという不幸を招いたとしか思えない。
豊島屋油店の段は、人形ならではの見事な緩急のついた展開だった。下手に出て見せてなんとかお金を借りようとして無理とわかると豹変する与兵衛。そこから先は店中を追い掛け回し逃げ回り油桶も転がし投げつけて・・・・・・どうやって油を滑るのかとワクワクしていたら、勘十郎たちが与兵衛人形をツルリスッテンダーッと手すりの上上手から下手へとをものすごいスピードで動かすのだ。いやぁ、ものすごい迫力!
殺意を感じて外に逃げる直前に脇差で刺されてからのお吉の必死の抵抗も物凄い。しかし苦しんだ末についに息絶えると紋寿たち人形遣いはいなくなり、残されたお吉の人形はまさに魂の抜けがら。この死んだ後の凄絶な空虚感は人形ならではのもの。
我に返ってだんだん恐くなりながらも、しっかり銀の包みを奪って逃げていく幕切れ・・・・・・。
なかなか凄いドラマなのだ。ただ、そんなにドヨーンとした気分に支配された記憶はない。ただただ与兵衛に呆れてしまったという印象が強い。
文楽の舞台として十分堪能したという感じなので、しばらくして上演されたら観るのは嫌じゃないなぁ。
さて、明日はどんな感じになるだろうか?
写真は公式サイトの過去の公演情報よりチラシの画像。
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