ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

13/01/05 前進座劇場ファイナル公演「三人吉三巴白浪」を堪能!

2013-01-13 23:59:58 | 観劇

私は前進座友の会にも入っている。月刊『前進座』で吉祥寺の前進座劇場が閉場となることを知った時は驚いた。お隣の吉祥寺南病院の施設拡充のための敷地譲渡要請を断ってきていたが、昨年の3.11を経て地域の医療機関充実のためならと引き受けたという。現在も劇団事務所と稽古場の確保をすすめているとのこと。
その前進座劇場ファイナル公演となったのがこの正月公演の「三人吉三巴白浪」で、1/9の千穐楽で閉場となる。演目もいいし、しっかりと記憶しておきたかったので職場の女性の先輩をお誘いして観に行った。続く全国公演の熊本市民劇場第363回例会の公演案内の「あらすじ」がわかりやすい。
「森源次兵衛は、主家より預かった名刀庚申丸を盗まれて切腹、家は取り潰しとなる。それがもとで、息子の吉三郎は、ぐれて盗人お坊吉三を名乗っている。その後、庚申丸が百両の金に姿をかえ何人かの手を渡るうち、百両をめぐって名うての盗賊お嬢吉三、お坊吉三、和尚吉三が大川端で出会い、義兄弟の血盃をかわす。しかし、悪事を重ねた三人には、さまざまな因縁がからんでいた。追い詰められた三人吉三は、本郷火の見櫓辺りで大立ち回りを繰りひろげ―。」

Wikipediaの「三人吉三」の項はこちら
以下、このブログで書いている「三人吉三」の記事。
勘九郎箱のコクーン歌舞伎「三人吉三」DVD鑑賞の感想はこちら
2007年コクーン歌舞伎「三人吉三」
2010年4月歌舞伎座の御名残大歌舞伎の「三人吉三巴白浪」

【前進座劇場ファイナル公演「三人吉三巴白浪」】
今回の主な配役は以下の通り。
和尚吉三=藤川矢之輔 お嬢吉三=河原崎國太郎
お坊吉三=嵐芳三郎 土左衛門傳吉=松浦豊和
手代十三郎=早瀬栄之丞 傳吉娘おとせ=忠村臣弥
八百屋久兵衛=山崎辰三郎
金貸し太郎右衛門=中嶋宏太郎(堂守源次坊)
研師与九兵衛=姉川新之輔(捕手頭長沼六郎)
釜屋武兵衛=松涛喜八郎(夜鷹婆ァおはぜ)

矢之輔、國太郎、芳三郎の三人吉三が予想以上にニンに合っていて感嘆至極。この3人の当り狂言として上演を繰り返していくとよい。
お嬢吉三は女装して育てられた商家の男が誘拐されて裏社会に生きるようになったわけで綺麗な女方が演じても今一つだ。國太郎は古風な女方なのがお嬢にはふさわしく、女を演じた時の声と男としての本性を顕した時の声の切換えも自然なのが実によい。芳三郎は国立劇場での襲名披露公演も観ているが、影のある二枚目が似合うようになってきたのが頼もしい。矢之輔の兄貴分の和尚は座頭としての貫録十分だった。

そして、話の運びがいつもの歌舞伎といろいろ違っていて気になって、家にある新潮文庫の『黙阿弥名作選(二)』と照合したら、きちんと黙阿弥の原作をなぞっていた。
たとえば、お嬢吉三と傳吉娘おとせが連れ立ちになって話をしている最中、おとせは懐から十三郎の財布を落とす。それで財布にあるのが小粒ではない大枚の包みだということがお嬢にわかるというのがリアルだ。
もう一箇所は、お坊が和尚の父親とは知らずに傳吉を殺してしまい、そこに落して下手人の証拠になったのが「目貫」(めぬき=刀の柄につける装飾金具)というのにちょっとびっくりした。普通の歌舞伎では「小柄」だ。それも原作と照合したら「吉の字菱のかたしの目貫」になっていた。

大詰めで雪の中、捕り方に囲まれての立ち回り。最前列での観劇だったので雪をふらせる装置も初めて見ることができてしまった。四角のメッシュロールが動いてチラチラと降らせるのが見えた。
コクーン歌舞伎は三人吉三が折り重なって死んでいったが、今回は三人が絵面に極まっての幕切れ。その後、矢之輔による閉場の口上となった。確かに閉場は惜しまれるが、地域社会のために身を処した劇団の決断には拍手を送りたい。今回公演で改名をした3人=中嶋宏太郎、早瀬栄之丞、忠村臣弥の紹介もあり、彼らの好演も特筆ものだった。さらに若手による前進座Next公演などの取り組みも宣伝していたが、その意欲は大いに買いたいと思う。
前進座は、原作をきちんと踏まえた上演をするところが好ましい。さらに歌舞伎の様式性に流れてしまいやすいところを、江戸の庶民の暮らしぶりをこだわってリアルにみせてくれる。そういうところに劇団結成の精神が生きていることがよくわかり、前進座歌舞伎の存在意義を感じた。
下の写真は終演後、舞台の後方からと前方から劇場内を撮影したもの。花道には雪布が敷いたままになっている。私は結局3回しか観に来れなかった。狭い敷地に劇場空間をしっかりとるために、入り口は階段を降りて登らないといけない構造になっていて、バリアフリーの観点からはもう厳しいともいえ、歴史的役割を果たしたということだろうと思う。「前進座劇場」にはお疲れ様と言いたい。




次回5月の国立劇場公演も楽しみだ。「御浜御殿綱豊卿」での嵐圭司は知盛の拵えだったし、「一本刀土俵入」では國太郎のお蔦もいいと思う。10月は観たかった「赤ひげ」の東京公演もある。今年はしっかり前進座公演も観に行って応援したい。