納涼歌舞伎を3部とも全部観るのは今年が初めてかもしれない。一部二部を続けて3階B席で観た。明日の千穐楽で三部を観る前にせめて1本だけでもアップしておこう。
【磯異人館(いそいじんかん)】
後半の「越前一乗谷」が長い舞踊なので居眠り防止にイヤホンガイドを借りたら大正解。幕末の薩摩についてここまで富国策をとっているとは知らなくていろいろなことをなぁるほどと聞きながらドラマを楽しんだ。「明治百年」記念の懸賞演劇脚本の当選作で二十年ぶりの再演。初演では勘九郎が主演で父子で演じることになった。
配役は以下の通り。
岡野精之介=勘太郎 琉璃=七之助
五代才助=猿弥 岡野周三郎=松也
折田要蔵=家橘 折田要蔵の息子・金吾=橘太郎
松岡十太夫=橋之助 松岡十太夫の娘・加代=芝のぶ
ハリソン=亀蔵
あらすじは公式サイトから前半をほぼ引用。
「薩摩藩士がイギリス人を殺傷し、薩英戦争にまで発展した生麦事件から四年。責任を負って切腹した岡野新助の息子精之介は、イギリス人技師を招いた産業科学工場の集成館で薩摩切子づくりに励む温厚な職人。弟の周三郎は集成館の警護役をつとめる血気盛んな武士。精之介は藩で外務を担当する五代才助からヨーロッパへの留学を勧められ夢を膨らませている。そして琉球国の王女で集成館総裁の松岡十太夫の養女となっている琉璃と互いに魅かれ合っている。琉璃は薩摩藩の人質同然の身で、イギリス人技師のハリソンからの求婚を拒否することができない」
弟周三郎は作事奉行の折田要蔵父子に不当に警護役を免職され脱藩。精之介は瑠璃への思いもあきらめ、パリの万博に出品する薩摩切子の作品づくりに没頭。桜島噴火の燃える火の色をガラスの色に出すことをとうとう成功させるが、留学は辞退しようとする。瑠璃はロンドンで求める薩摩切子に精之介を想うことで耐える決意を示し、ガラスの本場ベネチア・ボヘミアを観にいく夢をかなえてほしいと説得。瑠璃の思いにこたえて精之介もパリ行きの船に乗り込む決意を固める。
そこへ周三郎が戻ってきて才助が匿うことを約束してくれるのだが、周三郎をかぎつけた折田要蔵父子に見つかってしまう。弟を斬り捨てようとする要蔵を精之介が斬るが、自らも深手を負ってしまう。周三郎も息子の方を斬るが、その責めを自分が負う咄嗟の判断をくだす精之介。駆けつけた才助と瑠璃に弟を船に乗せて逃がすことを頼んで送り出す。
場面が変わって集成館の表に出てきた精之介。錦江湾を汽笛を鳴らして出て行く船を見送り、皆への思いを祈り上げながら桜島を背に見事に立腹を切るのだった。
納涼歌舞伎第一の演目は、若手の魅力全開の舞台だった。勘太郎がとにかくイイ。素朴で誠実で実直な青年の役柄に勘太郎の人柄が重なって、そのひたむきさが胸を打つ。七之助の琉璃の琉球紅型の王女の姿も硬質な美しさが際立っている。この兄弟の恋人どうしという配役は「三人吉三」の薄幸の兄妹といい、独特のせつなさがあるのがいい。最後の立腹を切る場面がまた見せ場になっている。勘三郎の弁天小僧が立腹を切る場面も一度見たが、勘太郎の今回の方がよかった。気合の入れ方とか刀の捌き方とかとにかく見入ってしまった。自殺の場面なのに所作として見せてしまうというのがまた歌舞伎なのかなぁと思ったのだが。
松也の周三郎も若く血気盛んな美しい若者で魅力的で、勘太郎との兄弟の気持ちの通い合う感じがまた嬉しい。周三郎に思いを寄せる加代の芝のぶが寄り添うと本当に綺麗で可愛い似合いのカップルになる。
猿弥の五代才助がまた情けに厚く、これからの時代を背負っていく若手リーダーの器の大きさを感じさせる。
家橘と橘太郎の敵役父子も憎憎しい感じがよく出ていて、悲劇を引き起こす説得力あり。また赤毛物的鬘とメイクでイギリス人の変な日本語っぽい台詞回しで好演していた亀蔵と山左衛門もすごい存在感だった。
若手役者のパワーを引き出すには、こういう明治維新前後の時代が激動しているドラマというのはまさにもってこいの作品なのだとあらためて思う。しっかりと目頭を熱くさせられた。
写真は『目で観る歌舞伎』の表紙の「磯異人館」を撮影したもの。「磯異人館」とは集成館のイギリス人技師のための住居が磯地区にあったことによる。
8/19一部②「越前一乗谷」の感想はこちら