Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

東京オペラプロデュース「フォルテュニオ」日本初演 批評(No.1803)

2011-03-13 21:19:34 | 批評

「リヨン国立歌劇場音楽監督時代のガーディナー」に比肩するか凌駕するサウンドを聴かせてくれた 飯坂純指揮東京オペラプロデュース メサジェ「フォルテュニオ」


 「期待のオペラ」であった 東京オペラプロデュース メサジェ「フォルテュニオ」公演。指揮者=飯坂純 の前回公演 ジャブリエ「エトワール」 があまりにも素晴らしかったからである。(オペラはピアノ曲ほど得意でない)私高本としては万全の用意をして、聴きに伺った。「歴史的録音」と言われた ガーディナー指揮リヨン国立オペラのCDを、ヴォーカルスコアを読みながら聴いた。これで「印象批評」にはならないで済む!
 ・・・と本日中野ZEROホールに着くまでは信じて疑わなかった。「日本初演オペラ」を聴くのに、ここまで準備して批評する評論家が少ないことはここに指摘しておこう。「デイリー」時代にいろいろと経験させて頂いたおかげである(爆
 ちなみに、東京オペラプロデュース「エトワール」舞台上演日本初演時ももちろん同じ準備をして聴きに伺っております。


 会場に入って、まず信じられなかったことが「公演時間」。随分長いのだ。「あぁ、ガーディナー盤は随分短縮していたのか?」と不思議な感触がした。ガーディナーは「原典版楽譜重視指揮者」の1人だ! とこの瞬間まで疑っていなかったからだ。「エトワール」では曲順を変えていたが、どうやら「フランスオペラハウスの伝統曲順」だった様子。「オペラの短縮上演」に関しては私高本はよくわからんことが多い。例えば、モーツァルト「コジファントゥッテ」。新モーツァルト全集の通りに上演した公演聴いたこと無いからなあ > 51才にもなるのに(爆

 プログラムノートを読むと愕然の情報が掲載されていた。私高本が聴いたCDは「4幕」構成、本日上演されるのは「4幕5場」構成。どうも

私高本が全く知らない「第3幕第2場」が挿入(← この言葉は変だが、偽らざる感情)された版で上演されるらしい!


 こんな体験は、東京オペラプロデュースのおかげで「日本初演オペラ」を数多く聴かせて頂いている私高本でも初体験である。身を引き締めて聴いた。


 「フランスオペレッタ」は実は名作の宝庫。そもそも「オペレッタの起源 = パリのオッフェンバック」だからだろうか? 「フランスのエスプリ」のようなシリーズが出る度に買い足したCDで、その豊穣なレパートリーを事前に知っていた。
 今回公演は「オペレッタのメンバー」ではない! EMIから大量に発売された「フランスオペレッタCD」を見れば理解して頂けるだろう。今日の豪華キャスティングは以下の通り。

  1. ジャクリーヌ = 岩崎由美恵(!)
  2. フォルテュニオ = 上原正敏
  3. アンドレ = 工藤博(急病による急遽の代打連日出演!)
  4. クラヴァロシュ = 三浦克次
  5. ランドリー = 西塚巧
  6. マドロン(マドリーヌ) = 大隅智佳子(!!)

 これは「オペレッタ布陣」ではない。特に女声2名の重量級布陣は何? 「マドロンはメゾソプラノの役柄」だよね???
つい先日のN響「アイーダ」でもソプラノで起用されていた大隅が演じるの?????  それから、西塚はこんな役柄で起用するの??????
 ・・・って感じだ。両者ともに期待を遙かに超える名演を聴かせてくれたことに感謝!


 いろんな疑念は、開演の 飯坂純の棒と共に消え去った。「これ、8型のオケ?」と思える充実した響き。時折第1ヴァイオリンの音程が開いてしまう以外には、これだけ「アーティーキュレーションを作曲家指示通りにしながらデューナーミクの巾広い演奏」はなかなか聴けない。近日で言えば、新国立劇場のワーグナー「トリスタンとイゾルデ」公演の 大野和士指揮東フィルに匹敵する。あちらは16型正規。こちらは変形8型。これだけの逸材が日本にいるのですね > 飯坂
 東京ユニバーサル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏水準は「新国立劇場の平均を遙かに超える」に聞こえた。弦5部も素晴らしい。ホルン1番とクラリネット1番も美しい。他のパートも素晴らしいがホルンやクラリネットほどの目立つ旋律が無かっただけだろう。特に充実していたのが「ヴィオラ~チェロ~コントラバス」の低弦。(推測だが)おそらくチェロパートが極めて良かったのだと思う > 東フィル や 東響 と比較しても。


 プロンプターも置かず、しかも「指揮者からの直接の声の指示も皆無」で『日本初演オペラ』が素晴らしい演奏水準で上演された。開演前の 松尾史子代表の言葉に拠ると、「金曜日の大地震で(この日の)ゲネプロは中断された」と理解できるのだが、公演を聴く(&観る)限り信じられないほど細部まで行き亘った公演。

特に、岩崎の情感表現は声も素晴らしかった。ガーディナー盤のアリオ=ルガズ 並みかそれ以上


だったと感じる。
 「恋のさや当て」を演じた 上原、工藤、三浦 は3名とも声も演技も卓越。上原は(おそらく実年齢は岩崎よりも相当上なのに)若々しい未熟な男、を演じた演技力に脱帽。「老け役」よりも圧倒的に難しいんだよね > 特に「男の若作り」
 そして、特記しなければならないのが、

チョイ役 = マドロン = 大隅智佳子 の圧唱


岩崎との2重唱で大隅の声がかぶりかけて、あわてて飯坂が抑えた瞬間は印象が強かった。


 この公演の唯一の心残りは、「聴衆の人数が少なかった」こと。これほどの名演が「東日本大震災」の影響で(チケットが売れているにも関わらず)実際に耳にして頂いた方が少なかったことだ。(評論家から安易には言えないことだが)もし可能なことならば、同じ演出家&同じ指揮者&同じオーケストラ で出来る限り近い再演を希望する。演出は池田理代子。そう「ベルばら」の作家。流れの良い、嫌みが全くない演出だった。さらに1言だけ付け加えると、島田道生の振付も素晴らしかった。特に第3幕の舞踏シーン。あでやかであざやか!
 この素晴らしい公演は、東京オペラプロデュース でなければ実現しなかったと思う。「エトワール」に続く快挙、というよりも「エトワール」を超えた名演だ!!!


 最後に1言。演奏家にはいろいろなタイプがいる。その中で

全ての「稿」を調べて「最善を尽くすタイプ」は意外に極めて少ない


である。
 飯坂純、下野竜也、カンブルラン、少し前でサヴァリッシュ。このくらいしか思い出せない。大概の人は「最も信じる稿」だけに集中する。その方が時間を食わないから。あぁ、佐伯周子も飯坂側の仲間だった > 指揮はしないが(爆


 東京オペラプロデュース次回公演は 今年の 7/9~10 のメノッティ「ブリッカー街の聖女」(原語英語上演)。キャスティングが発表されていないが、これは期待してしまうよな~!

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