Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

岡原慎也ピアノリサイタル批評(No.1721)

2009-12-15 23:03:17 | 批評
 「デイリークラシカルミュージック」から「ピアノミュージックジャパン」に衣替えしてから初めての「岡原慎也リサイタル批評」になる。歌曲伴奏は幾度となく聴いているのだが、「ソロリサイタル」を聴くのは5年以上ぶりになった。東京公演が無いので、大阪のイシハラホールにまで足を運んだ。



シューベルトとベートーヴェンの「名曲中の名曲」だけを名演で綴る岡原慎也


 「7年ぶりのソロCD発売記念」と銘打たれた岡原慎也ピアノリサイタル。曲目は以下のラインナップ。

  1. ベートーヴェン : ピアノソナタ第8番ハ短調作品13 「悲愴」

  2. ベートーヴェン : ピアノソナタ第14番嬰ハ短調作品27/2 「月光」

  3. シューベルト : ピアノソナタ第21番変ロ長調D960


である。全3曲が「名曲中の名曲」である。
 イシハラホールの演奏会は「私高本が最も関西で頻度高く聴いているホール」なのだが、入っていきなり驚愕した!

縦の通路にも横の通路にも、いっぱいいっぱいに「補助椅子」が置かれていた


からである。補助席が出されていなければ、危うく私高本は座れないところであった。「関西での岡原慎也人気」が伺われる。


 演奏については

ベートーヴェンとシューベルトの「意図通り」に、「音楽が今ここで産まれた!」かのように演奏する


で貫かれていた。例えば、シューベルトピアノソナタ第21番変ロ長調「遺作」。第1楽章の「Molto moderato」が速過ぎず遅過ぎず、第1主題は「リート」では無く「重唱 または 合唱」のように延々と綴られる。時々ピアニッシモで鳴る「低音のトリル」は「時間が止まる」かのように響く。そして、多くのピアニストと学者を巻き込んだ「D960第1楽章繰り返し問題」の箇所に辿り着く。岡原慎也は「シューベルトの意図通り」に「1番カッコ」に入る。mf と pp が繰り返され、pp からクレッシェンドして「低音のトリル」に至る。「シューベルト通りのダイナミクス」が到来し、フォルティッシモツァートのトリルが全てを覆う。4分休符のゲネラルパウゼが沈黙する。素晴らしい聴衆で、何1つ物音がしない静寂がホールを包む!
 呈示部が繰り返され「2番カッコ」に進む。たった1小節! それが何と新鮮に響くことか!!!


 誤解を恐れず批評しよう。「ウィーン派」と呼ばれるピアニストの1群が居る。ハイドン → モーツァルト → ベートーヴェン → シューベルト の少なくとも誰か1人は得意にしている。生年順に B=スコダ、デムス、グルダ、ブレンデル などが代表。彼らの演奏を金科玉条に「お手本」にしているピアニスト軍団が日本に限らず、世界を席巻している。シューベルトD960 に関して、前述4名の「ウィーン派ピアニスト」を述べれば、B=スコダを除く3名が「D960の第1楽章呈示部の繰り返しはしない」が『ウィーンの伝統』である。「シューベルトの意図通り」と「ブレンデルの物真似」のどちらが良いのだろうか?ちなみに「ブレンデルの初録音」の前に「グルダのオーストリア国営放送録音」が収録され放送された、との様子である。互いに反発しながらも、相互に影響が大きいことがわかる。


 当日の岡原慎也の演奏に戻る。第1楽章の展開部が終わり、また「ピアニッシモのトリル」が再来する。静寂が全てを包む。再現部で第1主題が短調に変わる瞬間が来る。左手が「慟哭」を打つ。一瞬だ!
 長い楽章もコーダに至る。「ピアニッシモのトリル」が再来し、静けさが全てを覆うかのように終わった。時間が止まっていたかに私高本には感じられた。
 第2楽章は「ピアノ伴奏付きリートのピアノソロ編曲」かのように鳴り始めた。3度下の音は弱め。「シューベルトの交響曲」を聴いているようだ。管楽器が「歌」い、弦楽器が伴奏に廻っているかのよう。

岡原慎也は「シューベルトの楽譜通り」を貫く


 「1番カッコの繰り返し」もシューベルトの意図通りであるばかりでなく、アーティキュレーションもダイナミクスもシューベルトの書いた通り。ちなみに「ペダリング」もだ!!


 シューベルトばかりが「作曲家の意図通り」なのではない。ベートーヴェンも同じだ。ダイナミクスの巾広さは(これまで私高本は、清水和音や横山幸雄の「ベートーヴェンソナタ全曲演奏会」は聴いているが)全曲演奏会を東京で行ったピアニストもソナタ全曲演奏会は弾いていないピアニストも含めて

「月光ソナタ」をベートーヴェンが書いた通りのテンポで弾いた! 感触が最高 = 岡原慎也


である。1言だけ加えさせてもらえれば、前回岡原慎也を京都で聴いた時にも聴いたことの無い「第3楽章の Presto の疾走感」が最高だった。第2主題がこれほど爽快に聞こえたことはかつてなかった。 > ブレンデルの東京公演でさえ!


 アンコールは4曲。

  1. シューベルト : スケルツォ 変ロ長調 D593/1

  2. シューベルト : アレグレット ハ短調 D915

  3. ベートーヴェン : ソナチネより「ロマンス」

  4. シューベルト : 即興曲 変ホ長調 D899/3


 岡原慎也は「ソリストとしてはシューベルト&ベートーヴェンに殉じる」意図は明解に伝わった。是非全ての曲を聴かせてほしい。
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