ぱたの関心空間

関心空間と徒然なるままに。

祝の島@京都シネマ

2010-08-20 22:38:06 | 映画感想
簡単なせつめー。

「祝島」
映画のタイトルは「ほうりのしま」だけど、島の名前は「いわいしま」という。
行政的には山口県熊毛郡上関町になる。地勢的に言うと、瀬戸内海、大分と愛媛と山口に囲まれた海域に位置する、人口500人、周囲7キロ強の島だ。
島の対岸、田ノ浦というところに上関原子力発電所の計画が立ち上がったのは1982年。それから30年近くの間、島の人々が中心となり原発反対の運動を続けてる。
「ほうりのしま」と言われるのは、かつてこの島には、航海安全を祈願し、豊穣の海への感謝を捧げる神官(ほうり)がいた事に由来する。今でも4年に一度、大分の国東にある伊美別宮八幡から御神体と神職を迎え三十三の神楽を奉納する祭りがおこなわれる。

そんな島のドキュメンタリー

靖国やらコーヴやらでドキュメンタリーがどうちゃらこうちゃらっつー話をしていたけれども、この映画は完全に原発反対派の立場から撮影されております。
と、言っても映画のほとんどは祝島に住む人たちの日常を丹念に追いかけるという構成。原発反対運動の話はおまけみたいな感じ(。。。というと言いすぎか?)

放射性廃棄物の最終的な処分が出来ずにいる上に、事故の危険性から逃れられないでいる(まぁ、電力会社は「安全」と主張するけれども、信用できないわけですよ、こう不祥事が続いちゃぁね)今、原発建設に賛成する理由なんて利権以外にありえない。
#地域の活性化とか雇用の創出とか、利権を対外的に聞こえ良く偽装した言葉ですよね?

アピールしたいのは、それに対し反対活動を続ける島の人たちの誇り高さだ。

うんにゃ、誇り高さっつったって、映画に映っているのは過疎の島に住む、ただのじっちゃんばっちゃんなんだけどもね。
映し出されるのは島ゆえに豊饒の海の恩恵を受け、島ゆえに狭い耕作地を大事に作物を育てる普通の生活。1千年余りに渡って守り伝えてきた何の変哲もないくらしを楽しげに明るく過ごす普通の人たち。
でも、だからこそその環境を破壊する原発建設に猛烈に反対する。
「誇り高い」なんて雰囲気、島の人たちには微塵もないんだけど、自然の恵みを受け、千数百年のあいだ、命をつないで平凡な暮らしを守ってきた普通の人々の、強烈な自負を感じるのだ。
カッコつけている誇りの高さじゃなく、生活者の持っている地に足のついた誇りの高さが格好いいのだ。

映画の中ではじっちゃんばっちゃん達が、よりそいながら濃厚なコミュニティを持っているように映るけれども、「原発が一番いけないのは人々を引き裂いた事だ」という言葉が出てくる。
「島の9割が反対」と紹介されていたと思うけど、裏を返せば1割の賛成(若しくは非表明)の人がいるわけだ。決して一枚岩ではないのだ。実際、町全体(上関町は祝島だけじゃないので)だと、賛成派が多いようで、議会では原発建設の議決が賛成多数で可決される様子が映し出される。

この分裂で島の祭りも十数年中止されていたのだという。
問題なく、おだやかに仲良く生活していた人々を分裂させ、いがみ合いさえさせてしまう、そんな権利が誰にあろうものか。

辛いのは建設予定地の埋め立てが始まるってーんで、実力での阻止に向かうシーン。
島の人たちは作業員に対して言葉を尽くして抗議する。それに対して淡々と「作業しますのでどいてください、妨害は違法行為です」みたいに無表情に対処する作業員。
この情景のなんと空虚な事か。

無駄とは言わない。実際にこの抗議活動により、日1日分は建設がのびている事は間違いないんだから。
しかし、島の人たちの悲痛な叫びはしかるべき場所に届いているのか?彼らの叫びを聞いているのは無表情な雇われ作業員だけだ。彼らはやれと言われた任務をする事しか許されていないのであり、島のおじぃおばぁが何と訴えても、それによって任務を放棄する自由は与えられちゃぁいない。
悲痛な訴えを届けるべき、聞かせるべき相手は、この抗議活動をしている海上にはいないのである。

いつだってそうなんだよね。
抗議の座り込みでコンクリートの上に寝っ転がっていても、最後には任務に忠実な機動隊(?)に排除されるにちまいない。それまでに中国電力のお偉方が来て対話を持ちかける事なんて、万に一つもありえない。
沖縄の基地撤退を訴える人々の前にいるのはアメリカ大統領でも日本国首相でもなく、そんな決定に何の権限もないただの海兵隊員だし、東ティモールの人々が必死に抵抗しても聞く耳持たずに惨殺するのはスハルトではなく、変な薬を飲まされたインドネシア兵士だったりする。
あたりまえの生活、安全な環境、普通の平和。そんな当然の事を訴える時に、その声に真摯に応えるべき人は、だいたいそこにはいないのだ。そんな抗議活動の間もその輩は、豪華な邸宅で次の金儲けの計画を立てているのだから。最前線で裸になって血を流すのはいつだって何の力も持っていない庶民なのだよ。
いやんなっちゃうねー。

儂らが本当に守らなくてはいけないものはなんなのか。
それを守るために、いらん欲望が人類から消え失せる事があるならば、世の中に蔓延る問題の多くは解決しそうなんだがな。

まぁ、要らん欲望をもつのが人間でしょ?なんて、そんな事言ってくれるなよ(>_<)

祝の島@京都シネマの画像

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