パンダ イン・マイ・ライフ

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音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

無名の虎

2013-01-01 | book
新聞書評から、仁志耕一郎の時代小説『無名の虎』を読んだ。2012年11月刊行。仁志は、1955年生まれというから少し年上の同世代だ。巻末の略歴によると富山県生まれで、40代半ばで小説家を目指す。小説家を目指して13年。江戸川乱歩賞に落ちること10回。やみくもに長編4作、短編1作を応募した年もあったという。2012年に小説現代長編新人賞。本作で、朝日時代小説大賞と、おめでた続きだ。

武田信玄の時代、甲斐の国で、利き腕を失い、戦いでの出世を諦めた雨宮軍兵衛の生き様を描く。
30歳の軍兵衛は、武士の面子の中で、治水に命をかける。男が戦場に出向く間に女性を力を得て、水龍と戦う。
妻と出会いも、義父と息子を洪水で失う軍兵衛。失意の彼を何が立ち上がらせたのか。
サラリーマンでいうと、花形職場を左遷され、黒子の職に生きるリーマンの話。武功を上げ、出生をしていく同僚に自暴自棄になる時もある。槍を捨て、未経験の治水という大事業に挑む。慣れない分野に戸惑いながら、天の力に無力感を感じながら、国の守りに生き様を見出していく。軍兵衛の姿に、今の自分を映し、力をもらうサラリーマン読者も多いことだろう。ただ、頻繁に出てくる地名にその位置がなかなか理解しづらいのが難か。しばらくは巻頭の地図が手放せない。

挿入される甲斐の虎・信玄との会話もいい。現実逃避をして、職を去ることのできるものはいい。人生、勝ち負けではない。役目を全うすることだ。耳の痛い言葉だ。

新年を迎えるにふさわしい作品。読後のすがすがしさ、そして力みなぎる一編。




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