パンダ イン・マイ・ライフ

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音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

海の見える理髪店

2020-11-01 | book
海の見える理髪店

結婚を間近かに控えた一人の若者が、髪を整えに、ある町の海の見える理髪店を訪れる。初老の主人。1時間の散髪の時間の出来事。
「海の見える理髪店」は、単行本35ページの短編。心の機微を描くストーリーテラーの荻原浩の作。1956年生まれで、1997年に小説デビュー。本作は、2012年12月に月刊文芸誌に掲載された。単行本は、他の2015年までに発表された5作品とともに、2016年3月刊行。2016年直木賞。

ここに店を構えて15年。主人は、若者の前で、散髪をしながら自らの半生を語り出す。
床屋の3代目として東京に生まれる。中学2年生で終戦。20歳で店を担う。昭和30年代の床屋の隆盛。結婚。昭和40年代の長髪流行による没落と離婚。有名俳優の常連。V字復活。48歳で銀座へ2号店。翌年2度目の結婚。出産。そして、事件。離婚。出所から今の店の開店。独白の合間に、髪切り、顔ぞり、シャンプー、マッサージの一連の工程が挿入される。

そして、若者の頭の傷。理髪店の庭に置いてある古いブランコ。

35ページの短編だが、奥深い。人生の流転。何度読んでも胸にしみる感慨。いい作品に出会えた。

他の5作品。

「いつか来た道」2015年10月
26歳で家を出て16年。父が亡くなり13年、姉は中学の時、私が10歳の時に亡くなる。弟も私も遠い街で暮す。弟から母が車いす生活になったと告げられる。久しぶりに画家の母の暮らす実家を訪れた私。抑圧された26年間と、独り暮らしの16年の歳月。思い出の残る家。42歳のわたし。そして認知症が入った母。母と娘。

「遠くから来た手紙」2014年1月
中3の頃に付き合った彼。同窓会でその彼と再開し、30歳過ぎて結婚。一人娘が生まれて3年。東京のマンションには夫の母が頻繁に立ち寄る。家庭を顧みない夫に愛想を尽かせて、東京から静岡の実家の農家に娘と2人で帰ってきた。実家には弟ができ婚で2階に2人で住み、農家を手伝っていた。その2階に今でもある机。その中には中3の正月明けに引っ越していった彼との文通の手紙が入っていた。そして、仏壇の中にあった亡き祖母の手紙。

「空は今日もスカイ」2012年3月
小3の茜は、両親が離婚し、母親と伯父の家にいる。都会から田舎へ。友だちもいない。夏休み。海を見に行こうと、旅に出る。途中の神社で出会った小学生のフォレストと海の見える場所まで来た。テントで一夜を過ごすビッグマンの家。

「時のない時計」2014年12月
2か月前、89歳で亡くなったサラリーマンの父の形見の腕時計。40年前の代物で動かない。兄夫婦と同居の母親がいいモノ好みの父親が買ったのでいいものだろうと形見分け。直しに入った時計店。高齢の店主。手慣れた手つきで修理をし始める。
店には様々な時計があった。店主は語り始める。結婚記念の鳩時計、娘が生まれた記念のディズニー時計。いなくなった妻のパタパタ時計。娘が亡くなった時のアニメの時計。父親の形見の懐中時計。時がそこで止まっている。
わたしは広告代理店の営業マン。妻と未婚の娘がいる。定年まで3年というときに突然意に沿わない異動を命じられ、2か月前に辞表を出した。それから無職。時計にまつわる様々な思い出がよぎる。

「成人式」2015年12月
30歳を前に生まれた娘。その娘が15歳、高校入学の春に交通事故で無くなる。そして、5年。夫婦の歩んだ道のり。そこに成人式のカタログが送られてくる。45歳になる妻は、振袖を着て成人式に出ると言い出す。
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