パンダ イン・マイ・ライフ

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音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

密会 吉村 昭 55

2019-06-02 | 吉村 昭
「密会」昭和46年(1971)刊行
過去10年間に発表された短編を9作品。
男と女の機微を描きながらも、サスペンス性や、取材で培った民俗性、業界の実態を取り混ぜながら、構成の妙でぐいぐい読者を引っ張る。

「密会」昭和33年
大学教授を夫に持つ紀久子は、夫の教え子郁夫と関係を持つ。その密会の場で起きた自動車強盗事件。現場の模様を警察に告げるという郁夫に対してとった紀久子の行動は・・・。紀久子と郁夫の破滅の末路。サスペンスタッチの息詰まる作品。
「動く壁」昭和37年
警視庁警備部警衛課に属する逸見久男。28歳。総理大臣の身辺を警護するボディガードの日々を描く。その不安と影。そして久雄の死因とは。
「非情の系譜」昭和38年
50歳を過ぎた 葬儀屋の「私・武智」は火葬場で幼馴染の刺青師の白坂と30年ぶりに再会する。刺青師の日常と「私」の私生活。久々に交流が始まる。そんな中、白坂の中学3年生の娘が針を持ちたいと言い出す。
「電気機関車」昭和38年
父と継母との生活に違和感を感じていた「一郎」は、ある日、久々に父がスポーツランドへ行こうと誘う。それもあるアパートの一室に寄り、若い女とともにであった。
そして3人で向かうスポーツランド。その帰りに、女は交通事故に遭う。2人の女と父、そして「ぼく」の微妙な緊張感が溢れる作品。
「めりーごーらうんど」昭和41年
家庭生活に疎外感を感じていた圭吾41歳は、夜の散策を趣味としていた。その一つ羽田国際空港で出会った一人の女。家で待っているというその子に買ったメリーゴーラウンド。女のアパートに上がると、そこには異様な空気が流れていた。
写実性豊かな文章が最後のクライマックスを際立たせる。
「目撃者」昭和43年
不祥事で6年余りも東北の雪深い町に配転させられた新聞記者の久慈。偶然、列車事故に遭遇する。特ダネを狙うが。取材を通じてますます疎外感を募らせながら、良心の呵責に揺れ悩む久慈が選んだ選択とは。
「旅の記憶」昭和43年
圭一は、友人の島野の離婚した妻、峯子に付き添い実家の新潟に向かう。その途中の列車事故で、峯子と一夜を共にする。その2ヵ月後、圭一は結婚し、家庭を持つ。2年ぶりに島野を訪れた圭一は、子供を抱く峯子と出会う。
「ジジヨメ食った」昭和43年
45歳を過ぎた警察官の小西は、とある漁村の派出所に勤務している。そこで発見された女性の他殺白骨死体。20年前という時効寸前の事件を集落の暗部とともに描き出す。
「楕円の柩」昭和45年
竜夫は21歳。今の生活から這い上がろうと競輪学校を出て、初のレースに臨む。先輩選手の小早川の自殺や、事故で過去の栄光にしがみつきながらペダルをこぐ岸本。
競輪選手の孤独と光と影を描く。最後のレースの緊迫感溢れる文章が圧巻。

いずれも緊張感あふれる秀作である。再販を望む一人である。


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