市政をひらく安中市民の会・市民オンブズマン群馬

1995年に群馬県安中市で起きた51億円詐欺横領事件に敢然と取組む市民団体と保守王国群馬県のオンブズマン組織の活動記録

高崎市公平委員長で同市斎場指定管理者相談役の弁護士への懲戒請求で群馬弁護士会から不処分通知が到来

2018-08-23 23:14:00 | 高崎市の行政問題

■昨年2017年9月6日、当会に寄せられた情報に基づき調査した結果、「高崎市斎場(高崎市寺尾町1084番地57)の指定管理者に選定されている株式会社プリエッセのホームページに当初、同社取締役として長井友之弁護士の名前が掲載されており、その後、9月13日に突然、取締役から相談役に書き換えられたことが確認されました。このため、高崎市の公平委員が同市の指定管理者の法人の要職についていることは同市や弁護士会のコンプライアンスに照らして問題があるのではないかという市民の声を踏まえて、当会では念のため、事実関係を確認する必要があると考え、同弁護士が所属する群馬弁護士会に懲戒請求書を9月27日に提出しました。その後、群馬弁護士会綱紀委員会で本件について審理が続けられてきましたが、本日、当会事務局に群馬弁護士会から、長井弁護士の懲戒処分をしない旨の決定通知が届きました。

群馬弁護士会から送られてきた懲戒不処分決定通知書の入った封筒。

 この懲戒請求に係るこれまでの経緯は次のブログをご覧ください。
○2017年9月29日:高崎市公平委員会委員長で同市斎場指定管理者相談役を兼務する弁護士を群馬弁護士会に懲戒請求
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2424.html
○2017年10月26日:高崎市公平委員会委員長で同市斎場指定管理者相談役を兼務する弁護士が群馬弁護士会に懲戒請求弁明書
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2450.html
○2017年11月9日:高崎市公平委員会委員長で同市斎場指定管理者相談役の弁護士の弁明書への反論を群馬弁護士会に提出
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2457.html
〇2017年11月18日:高崎市公平委員長で同市斎場指定管理者相談役の弁護士懲戒請求でプリエッセが陳述書を群馬弁護士会に提出
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2468.html
〇2017年11月27日:高崎市公平委員長で同市斎場指定管理者相談役の弁護士懲戒請求でプリエッセ陳述書への反論書提出
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2480.html
〇2018年4月12日:高崎市公平委員長で同市斎場指定管理者相談役の弁護士懲戒請求で調査期日が5月7日に開催予定
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2611.html
○2018年6月2日:高崎市公平委員長で同市斎場指定管理者相談役の弁護士に対する懲戒請求で綱紀委から事由要旨の照会が到来
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2658.html
○2018年6月22日:高崎市公平委員長で同市斎場指定管理者相談役の弁護士に対する懲戒請求で本人から弁明書(2)が到来
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2675.html

 弁護士会から送られてきた懲戒請求の決定通知の内容は次の通りです。

*****懲戒請求決定通知*****PDF ⇒ 201808221_tuuchisho.pdf
                          平成30年8月22日
懲戒請求者 市民オンブズマン群馬
   代表 小 川   賢 殿

                     群馬弁護士会
                      会長 佐々木 弘 道

         懲戒請求事案の決定について(通知)

 本会は,下記事案につき,綱紀委員会の議決に基づき別紙のとおり対象弁護士を懲戒しない旨決定したので,綱紀委員会及び綱紀手続に関する会規第55条第2項の規定により,綱紀委員会議決書の謄本を添付して通知します。

          事案番号:平成29年(綱)第41号

 懲戒請求者は,この決定について不服があるときは,弁護士法第64条の規定により, 日本弁護士連合会に異議を申し出ることができます。
 なお,異議の申出は,この通知を受けた日の翌日から起算して3か月以内に,書面によってしなければなりません(郵便文は信書便で提出した場合,送付に要した日数は算入しません。郵便文は信書便に当たらない宅配便,メール便,ゆうパックなどの場合,送付に要した日数は算入されます。)。
 異議申出書の記載事項及び必要部数については,以下のウェブサイトを御覧ください。
 *懲戒請求事案に関する異議申出の方法について
  http://www.nichibenren.or.jp/jfba-info/autonomy/chokai/tyoukai_igi/html
  (又は,検索サイトで「懲戒異議申出」と検索してください。)
 インターネットを御利用にならない場合には,ウェブサイトと同内容の書面を郵送かファックスでお送りしますので,以下までお申し付けください。
 *異議申出書の提出先・問い合わせ先
  日本弁護士連合会(担当:審査部審査第二課)
  〒100-0013 東京都千代田区霞が関1-1-3
  電話03-3580-9841 (代)

*****決定書*****PDF ⇒ 201808222_ketteisho.pdf
平成29年(綱)第41号
            決 定 書

              群馬県前橋市文京町一丁目15-10
                  懲戒請求者  市民オンブズマン群馬
                     代表  小 川   賢

              群馬県高崎市請地町11番地62階
                たかさき法律事務所
                  対象弁護士  長 井 友 之
                      (登録番号22493)

本会は,上記懲戒請求事案につき,次のとおり決定する。

            主    文

         対象弁護士を懲戒しない。

            理    由

 上記対象弁護士に対する懲戒の請求について,綱紀委員会に事案の調査を求めたところ,同委員会が別紙のとおり議決したので,弁護士法第58条第4項の規定により,主文のとおり決定する。

  平成30年8月22日
              群馬弁護士会
                会長  佐々木 弘 道

*****議決書*****PDF ⇒ 2018082231_giketsusho_p15.pdf
2018082232_giketsusho_p610.pdf
<P1>
平成29年(綱)第41号
            議決書

              群馬県前橋市文京町一丁目15番20号
              懲戒請求者  市民オンブズマン群馬
                 代表  小  川     賢

              群馬県高崎市請地町11番地622階
              たかさき法律事務所
              対象弁護士  長  井  友  之
                    (登録番号22493)

            主    文

 対象弁護士につき、懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする。

            理    由

第1 事案の概要
   本件は、高崎市公平委員会の委員長を勤める対象弁護士が、高崎市斎場の指定管理者として共同企業体を組む葬祭業者の「取締役」若しくは「相談役」として同社の経営に関わる立場にあり、委員会運営の公正を保障し事務執行の適正を確保する趣旨から委員の兼業を禁止する地方自治法第180条の5第6項に抵触し、仮に同条項に直接抵触しないとしても、同条項や指定管理者の制度趣旨に違反し、また利益相反の懸念を生じさせる不明朗な関係に身を置くことが弁護士としての品位を失うべき非行に該当するとして、懲戒を求められてい

<P2>
る事案である。

第2 前提となる事実
1 対象弁護士は、所属事務所ホームページの自己の紹介欄に「主な公務・会務」として、「平成20年:高崎市等公平委員会委員長(現職)」と記載している。
2 株式会社プリエッセ(本店所在地・群馬県高崎市本町89番地、代表者・代表取締役竹内一晋、以下「プリエッセ」という。)は、株式会社環境保全センターと共同企業体を組み、高崎市が設置する高崎市斎場の指定管理者に選定されている。
3 プリエッセは、自社のホームベ)ジの役員欄に、平成29年9月13日まで対象弁護士を「取締役」と掲載し、同日から現在までは「相談役」として掲載している。
  なお、プリエッセの履歴全部事項証明書の役員欄には、対象弁護士の氏名は掲載されていない。

第3 懲戒請求事由の要旨
1 地方自治法第180条の5第6項違反
(1)地方自治法第180条の5第6項は、次のとおり定める。
   普通地方公共団体の委員会の委員又は委員は、当該普通地方公共団体に対しその職務に関し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人(当該普通地方公共団体が出資している法人で政令で定めるものを除く。)の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人になることができない。
(2)対象弁護士は、高崎市公平委員会の委員(委員長)であるにもかかわらず、高崎市の職務に関し請負をするプリエッセの「取締役」及び取締役に準ずべき地位である「相談役」に就任しているものであり、地方自治法第180条

<P3>
の5第6項に違反する行為を行っているものである。
2 地方法第1800条の5第6項及び指定管理者の制度趣旨違反
(1)プリエッセは、他の会社と共同企業体を組んで、高崎市が設置する高崎市斎場の指定管理者に指定されている。
(2)指定管理者に関しては、地方自治法第180条の5第6項と同様の兼業禁止規定は存在しないが、行政委員会の運営の公正性維持の見地からより厳格に法第180条の5第6項の規定の趣旨は準用(類推)されるべきである。
   また、高崎市においては、委員会の委員又は委員が指定管理者の役員に就任することを禁止する条例は存在しないが、現に多数の地方公共団体において、条例で指定管理者の役員に就任することを禁止している。
(3)対象弁護士は、高崎市公平委員会の委員(委員長)であり、弁護士として行政委員会の運営の公正性を維持すべき高度の義務を課せられているにかかわらず、高崎市斎場の指定管理者であるプリエッセの取締役及び取締役に準ずべき地位である「相談役」に就任しているものであり、地方自治法第180条の5第6項及び指定管理者制度の趣旨に違反するものである。
3 利益相反の禁止(弁護士法第25条、弁護士職務規程第27条、同第28条)違反
(1)対象弁護士は、高崎市公平委員会の委員(委員長)であるにもかかわらず、高崎市斎場の指定管理者であるプリエッセの取締役及び取締役に準ずべき地位である「相談役」に就任している。
(2)対象弁護士は、高崎市斎場をめぐり、高崎市とプリエッセとの問で問題が生じた場合、当然双方の立場で相談等を受けたりする可能性があるものであり、その場合には直ちに利益相反行為に抵触する。
4 結論
  対象弁護士の兼業は、弁護士法第56条1項に定めた法令又は日本弁護士連合会が定めた会則に違反し、所属弁護士会の秩序文は信用を害し、弁護士とし

<P4>
ての品位を失うべき非行に該当する。

第4 対象弁護士の弁明
1 前提となる事実に争いはない。
2 地方自治法第180条の5第6項違反の主張について
(1)対象弁護士はプリエッセの役員ではない。
   プリエッセが、対象弁護士を自社のホームページに取締役として掲載したのは、同社の誤解に基づく誤表記であり、その後訂正されている。(←当会注:自ら誤記を指摘しなかったことについての反省がない)
(2)仮に、対象弁護士がプリエッセの役員に「準ずべき者」に該当するとしても、プリエッセが参加している共同企業体は高崎市斎場の指定管理者であって、市に対して「請負をする者」には該当しない。
(3)したがって、対象弁護士が地方自治法第180条の5第6項に違反する事実はない。
3 地方自治法第180条の5第6項及び指定管理者の制度趣旨違反の主張について
(1)地方自治法及び高崎市の条例には、委員会の委員と指定管理者の取締役等との兼任を禁止する規定は存在しないため、問題となる余地がない。
   指定管理者に地方自治法第180条の5第6項を類推すべきとの主張は懲戒請求者の独自の見解に過ぎず、類推する根拠が存在しない。
(2)プリエッセは対象弁護士を「相談役」として自社のホームページに掲載しているが、文字どおり相談する相手という意味で掲載しているに過ぎない。
   対象弁護士は、高崎市斎場の指定管理者であるプリエッセの取締役もしくはこれに準ずべき者には該当しない。
4 利益相反の主張について
(1)地方公共団体の公平委員会とは、「職員の勤務条件に関する措置の要求及び職員に対する不利益処分を審査するとともにこれについて必要な措置を

<P5>
講ずる」ことを職務とする行政委員会であり(法第202条の2第2項)、地方公共団体とその職員との問の問題を解決することを職務としているので、あって、地方公共団体から、他国体との問題について相談を受ける立場にはない。
(2)対象弁護士は、高崎市公平委員会の委員又は委員長ではない他の弁護士と比較して、利益相反に陥る可能性が高いわけではない。

第5 証拠
1 懲戒請求者提出分
  なし
2 対象弁護士提出分
  乙第1号証  陳述書
3 職権調査分
  プリエッセのホームページ

第6 当委員会の判断
1 初めに、対象弁護士に、地方自治法第180条の5第6項(以下「本件兼業禁止規定」という。)に違反する事実が認められるか否かを検討する。
  本件兼業禁止規定は、「地方公共団体の委員会の委員又は委員は、当該普通地方公共団体に対しその職務に関し請負をする者・・・の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者・・・になることができない。」としているので、本件では、まず指定管理者が、本件兼業禁止規定の「請負をする者」に該当するか否かが問題となる。
  指定管理者制度(地方自治法第244条の2第3項等)は、地方自治法の一部改正(平成15年9月2日施行)により導入され、公の施設の管理者について、それまでの「地方公共団体が出資している法人、公共団体、公共的団体」と

<P6>
いった条件が撤廃され、管理権限を当該指定を受けた者(団体であれば法人の資格の有無に関係なく、民間事業者から市民団体まで対象となる。)に委任する制度である。
  指定管理者は、処分に該当する使用許可を行うことができることとされ、地方公共団体は、設置者としての責任を果たす立場から指定管理者を監督する立場へと役割を変えている。
  このため、私法上の「契約j によって外部委託するいわゆる業務委託や、条例を根拠として締結される具体的な委託契約に基づき管理が委託される従来の管理委託制度とは異なる。
  そして、契約の形態は、地方公共団体と指定管理者との間の「協定」による管理代行とされ、両者は取引関係に立つものではないから、指定管理者の指定は、本件兼業禁止規定における「請負」には該当しないと一般的に解釈されている。
  したがって、対象弁護士の「相談役」という役職が、本件兼業禁止規定の取締役等「に準ずべき者」に該当するか否かを判断するまでもなく、指定管理者の指定は、「請負」という要件に該当しないため、対象弁護士が指定管理者の「相談役」と公平委員会の委員を兼務することは、本件兼業禁止規定には抵触しない。
2 次に、対象弁護士が高崎市の公平委員会の委員とプリエッセの「相談役」を兼務することが本件兼業禁止規定に直接抵触しないとしても、同規定や指定管理者の制度趣旨に照らして許されない、といえるかについて検討する。
  指定管理者の指定は、本件兼業禁止規定にある「請負」には該当しないものの、指定により、指定管理者が利用者からの料金を自らの収入として収受できることや、条例により定められた枠組みの中で地方公共団体の承認を得て自ら料金を設定すること個々の使用許可を行うこと等の権限を行使できることなど、指定管理者が、地方公共団体より管理を代行することで一定の便益を享受

<P7>
する立場に立つことは否定できない。
  そうであるならば、委員会の委員若しくは委員が役職を兼務する私企業が、地方公共団体と請負関係にある企業か、指定管理者である企業かによって、その職務の執行に関する公正さを疑わせる可能性には差異はないとも解することができるとの意見もある。
  こうした見地から、懲戒請求者が指摘するように、地方公共団体のなかには、委員の職務執行の公正を確保するとともに、委員の職務執行の公正さに対する住民の疑惑や不信を招くような行為の防止を図り、もって委員会の公正な運営と行政に対する住民の信頼を確保することを目的として、指定管理者制度の場合にあっても、請負の場合と同様に、手続条例の中に兼業禁止規定を設けるところも徐々にあらわれている。
  しかし、請負を対象とする本件兼業禁止規定を超えて、条例をもって指定管理者制度を対象に委員の兼業禁止を定めることは、不正防止を徹底し住民の市政に対する信頼確保に資するものであることは否定できないものの、それは自律的な規制であって、規制を設けるか否かは、当該地方公共団体の議会における自主的な判断に委ねられているといわざるをえない。
  そして、高崎市においては、指定管理者制度の手続条例中に本件兼業禁止規定と同様な、委員の関係私企業からの隔離を要求する兼業禁止規定は設けられていない
  指定管理者に対する兼業禁止については、地方自治法には本件兼業禁止規定を準用するとの規定はなく、類推適用の可否については、いくつもの地方公共団体がわざわざ条例中に兼業禁止規定を制定していることからも、類推適用されることは困難と解することができる。
  対象弁護士が、高崎市の委員会の委員とプリエッセの「相談役」とを兼務していることをもって、本件兼業禁止規定の制度趣旨に違反する程度の違法性を有するとまではいえない。

<P8>
3 対象弁護士が、高崎市公平委員会の委員とプリエッセの「相談役」とを兼務することが、利益相反として許されないかについて検討する。
  懲戒請求者は、高崎市斎場をめぐり、高崎市とプリエッセとの問で問題が生じた場合、対象弁護士は、双方の立場で相談等を受けたりする可能性がある、と主張するが、プリエッセの「相談役」として相談等の職務を行うことは当然想定されるものの、対象弁護士が委員を務める公平委員会は、市職員の勤務条件に関する措置の要求及び職員に対する不利益処分を審査し、並びにこれについて必要な措置を講ずることを職務とする行政委員会であり(地方自治法第202条の2第2項)、委員としての「職務」が、高崎市斎場の管理業務に関連する可能性は極めて乏しいといわざるをえない。(←当会注:意見陳述の場で、当会は、例えば市職員とプリエッセとの間に贈収賄があった場合、市職員の処分について公平性が損なわれる懸念を指摘したが、そのことには全く触れられていない)
  指定管理者である業者との間で問題が生じた場合、高崎市が相談しようとするのは、市が契約する顧問弁護士あるいは発生した問題に精通する他の弁護士であるのが通常といえる。
  したがって、公平委員会の委員たる地位にあることによって、プリエッセに関連する問題について、対象弁護士が高崎市から相談を受けることは、まず考えられない。(←当会注:「まず」というのは、少しでも可能性を残すのであるから、グレーゾーンを払しょくして、李下に冠を正さず、の姿勢を担保すべきである)
  もちろん、仮に対象弁護士が、プリエッセと高崎市との聞の問題につき、高崎市から相談等を要請された場合には、プリエッセから相談を受ける身の弁護土である以上、公平委員会の委員であると否とにかかわらず利益相反の問題は生ずるのであって、相談等に応じることは、弁護士法第25条1号・2号、弁護士職務基本規程第27条1号・2号、同第28条2号・3号に抵触することになる。
  しかし、これは、弁護士が利害関係の対立する当事者の事件について職務を行うことができない、という規律によるのであって、対象弁護士が、高崎市の公平委員会の委員の地位あることそれ自体は、利益相反の問題を発生させるものではない。(←当会注:公平委員会の委員長という高崎市職員の勤労条件・不利益処分・懲戒処分を審査・判定し必要な措置をとる権限を持つのだから、高崎市から業務を任されている企業・法人の相談役≒顧問弁護士として関与することについて、常識的には違和感を持つはずだが、そうした視点は持たないらしい)

<P9>
4 以上のとおり、対象弁護士が高崎市公平委員会の委員とプリエッセの「相談役」を兼務していることは、弁護士法56条1項に定める品位を失うべき非行があったとはいえない。

 よって、主文のとおり議決する。

 平成30年8月21日

      群馬弁護士会綱紀委員会
           委員長  山 田 謙 治(自署)

<P10>
これは謄本である。
 平成30年8月22日
  群馬弁護士会
   会長  佐々木 弘 道(群馬弁護士会長印)
**********

■当会が懲戒請求で指摘した弁護士としてきちんとしなければならない点は全て問題ないとされてしまいました。また、高崎市の条例の不備、つまり、指定管理者制度の手続条例中に兼業禁止規定は設けられていないことについても、すべて懲戒請求を不問に付すための理由として、判断してしまいました。

 もっとも、弁護士会が自らのメンバーについて懲戒処分が妥当かどうか、裁くのですから、そもそも目線が対象弁護士側に集中してしまい、公平な判断は除くべくもありません。

 しかも高崎市をはじめ県内の自治体は顧問弁護士の需要が多く、自治体内の各種委員会などの宛て職の割り振りとしても、弁護士に声がかかる例が多々あり、利益相反に少しでも理解を示してしまうと、そういった「役どく」の機会を失ってしまうため、懲戒処分を課すことなど、想定外だったのでしょう。

 本来、弁護士が自治体と付き合う場合には、組織運営や対外契約、不祥事対応等の法的課題(各種コンプライアンス課題、労務問題、報道被害対策、訴訟対策等)を適正に解決するための指導・助言、交渉、契約書・規約作成及び紛争処理等の法的サービスの提供が主体のはずです。

 ところが、群馬県の場合、自治体は、権限を不正に行使すべく、法律やルールを捻じ曲げて事務事業を行っているため、住民との軋轢が頻繁に起きます。本来ならば、弁護士は自治体の顧問弁護士として、自治体によるそうした違法・不正・不当な行為を抑止するのが務めのはずですが、住民から訴えられると、行政の手先となり、法律を捻じ曲げ解釈し、法廷でそれを平然と陳述するのです。

 こうした弁護士らを要する群馬弁護士会が、まともな判断を下せるはずがありません。やはり。もうすこしまともな判断ができるかもしれない日弁連に異議申出をする必要がありそうです。

【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】

※参考情報1
**********ダイアモンド・オンライン2017.10.30
アディーレ業務停止で東京弁護士会が依頼人置き去りのずさん対応
 東京弁護士会は、アディーレがきちんと業務停止しているか確認するため、“指導”と称してわざわざ本部事務所を訪問した。だがその間、全国の依頼人は置き去りに……

東京弁護士会は、アディーレがきちんと業務停止しているか確認するため、“指導”と称してわざわざ本部事務所を訪問した。だがその間、全国の依頼人は置き去りに…… Photo by Yasuo Katatae
 法曹界が大混乱に陥っている。発端はアディーレ法律事務所に対する懲戒処分。10月11日、アディーレが所属する東京弁護士会は同事務所に2カ月間、創業者で代表の石丸幸人弁護士に3カ月間の業務停止を言い渡した。
 処分理由は、アディーレがホームページに掲出していた広告が、改正前不当景品類及び不当表示防止法(景表法)に違反していたことだ。具体的には、アディーレは消費者金融に支払い過ぎた利息の返還を求める「過払い金返還請求」について、1カ月間の着手金無料キャンペーンを行っていたが、実際にはキャンペーンは1カ月間ではなく数年にわたって行われていた。
 消費者庁は、この広告を消費者に誤解を与える有利誤認表示だと判断。それを受けて東京弁護士会が「弁護士法人として品位を失うべき非行」だとして、業務停止処分を下したというわけだ。
★置き去りの依頼人
 弁護士法人は1カ月以上の業務停止処分を受けた場合、受任していた案件は全て解約し、着手金も依頼人に返金しなければならない。
 アディーレといえば、2006年からの過払い金返還請求の盛り上がりに乗って急成長し、所属弁護士数185人、事務所も全国86カ所を数えるまでになった新興法律事務所。処分時点で全国に約10万人の依頼人を抱えていた。
 そんな大事務所を業務停止にすれば、依頼人の(着手金や係争中の訴訟に関する)問い合わせが東京弁護士会やアディーレへ殺到することは容易に想像できる。
 しかし、東京弁護士会は問い合わせ用電話番号を一つ開設しただけで、対応要員もわずか10人程度だった。依頼人からの電話はほとんどつながらなかった。
 混乱に拍車を掛けたのが、アディーレのホームページ閉鎖だった。ホームページは法律事務所の業務と見なされるため、東京弁護士会によって閉鎖させられていた。そのため、アディーレは依頼人に対する事情説明や着手金返還の案内文すら掲載できず、取り付け騒ぎのごとく焦った依頼人が一斉に事務所へ電話をかけるという事態が発生。処分翌日には約3万4000件の電話が鳴った。
 処分から9日後、東京弁護士会はようやく事の重大さを認識。ホームページ再開を認めたが焼け石に水。アディーレは、「返還する着手金は合計数十億円に上るが、時間はかかっても確実に返金する」(関係者)と不眠不休の作業を続けているものの、混乱が収束する気配はない。
 ある業界関係者は、一連のずさんな対応について、「東京弁護士会による新興勢力つぶし」と打ち明ける。もちろん、アディーレの景表法違反は許されるものではないが、依頼人を置き去りにした東京弁護士会の対応も褒められたものではない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)
**********

※参考情報2
**********ダイヤモンド・オンライン2017.12.7
「アディーレは弁護士ムラの掟を踏みにじった」懲戒処分の舞台裏
 10月に業務停止処分が下ったアディーレ法律事務所。元代表の石丸幸人弁護士は、弁護士業界では一、二を争う“嫌われ者”。「言ってはいけないことを言い、やってはいけないことをやった」とささやかれるが、一体何があったのだろうか?(フリージャーナリスト 秋山謙一郎)
★弁護士業界の鼻つまみ者
アディーレ懲戒の背景とは
 誰か、“その男”に弁護士としてのモラルを教えてやる者はいなかったのか。もし、いたならば、男は、「法律屋」に成り下がることはなかったかもしれない――。

消費者庁から景品表示法違反で措置命令を受けたことが、弁護士会による懲戒処分につながった。「違反の程度に比べて懲戒処分の内容が重すぎる、アディーレ憎しで処分したのでは」との憶測も飛び交うが...
 10月、弁護士法人「アディーレ法律事務所」が度重なる景品表示法違反で東京弁護士会(以下、東弁)により2ヵ月の業務停止処分を受けた。元代表の石丸幸人弁護士(45)も、個人として業務停止3ヵ月の処分を受けている。いわゆる「アディーレ事件」だ。
 消費者庁から景品表示法違反で措置命令を受けたことが、弁護士会による懲戒処分につながった。「違反の程度に比べて懲戒処分の内容が重すぎる、アディーレ憎しで処分したのでは」との憶測も飛び交うが...
 アディーレは2004年の設立以来、ずっと拡大路線を取り続け、弁護士・司法書士を含め総勢300人規模の「大規模法律事務所」として知られる。当然、顧客数もかなりの数に上っていたと見られる。
 業務停止処分期間中、弁護士は業務をしてはならない。困った顧客たちから、東弁に電話が殺到した。小規模事務所が大半の弁護士業界にあって、アディーレのような大手に業務停止処分が下ったのは初めてのこと。東弁は顧客からの問い合わせが殺到することを想定して、「10本の電話回線を新設して、午前9時から午後5時まで、1日40人態勢で弁護士が相談に応じた。20日くらいで、延べ800人の弁護士を投入した。これは弁護士会始まって以来のことです」(東弁)。
 アディーレは弁護士業界では“鼻つまみ者”として有名だった。2000年の広告解禁、そして06年頃から急増した過払い返還訴訟といった時代の流れにうまく乗り、主に「クレサラ」(クレジット・サラ金の略、過払い返還も含まれる)分野で大躍進し、金儲けに成功したからだ。債務者の資金繰り相談にじっくり乗るスタイルの、「古き良きクレサラ弁護士」たちからすれば、まさに目の敵のような存在である。
 関西の単位会(都道府県)で弁護士会副会長を務めた弁護士は、法律家らしからぬ満面の笑みを浮かべながら次のように語った。
 「今回の東弁の一連の動き、そして、その処分の厳しさに鑑みるに、『弁護士界から出て行ってくれ』ということだろう。弁護士には言ってはいけないこと、してはいけないことがある。石丸という人物はそれを言い、した。その報いだな」
 実際には、弁護士の懲戒は弁護士7人に加えて、判事、検事、そして有識者合わせて6人、合計13人からなる「懲戒委員会」で審査される。いくらアディーレが弁護士会界隈で嫌われていたとしても、「弁護士の意向だけが反映される体制にはなっていない」(東弁)。
 しかし今、アディーレの懲戒に関して、前出の弁護士と同じように考えている弁護士は数多い。それほどに、アディーレへの怒りが溜まりきっていたのだ。弁護士の「言ってはいけないこと、してはいけないこと」とは何か。話は09年の東弁の会長選に遡る。
★いきなりの東弁会長立候補で
マスコミが飛びついた
 09年の東弁会長選、石丸はこれに立候補した。当時、司法修習期56期、36歳と若かったから、耳目を引いたものだ。
 急成長を遂げる弁護士法人のトップを務めるやり手弁護士――石丸のハンサムな見た目も相俟って、マスコミはこぞって彼を取り上げた。だが、東弁に属する弁護士たちはもちろん、全国の弁護士たちも、これを苦々しく思っていたという。「会長選を自分の事務所の宣伝に使いやがって…」。
 前出の元関西の弁護士会副会長経験のある弁護士は言う。
 「通常、単位会の会長は弁護士経験25年くらいのベテランが請われて立候補するものだ。その多くは中堅からベテランの初めの時期に、副会長を経験している。そこにちょっと儲けている若手の、行儀知らずの弁護士の立候補となると、真面目な弁護士は気分悪いよね」
 この会長選立候補以降、弁護士間のみならず、裁判所では実務を切り回す裁判所事務官の間で「申し訳ないがアディーレの先生(弁護士)の作った書面は法律専門家のそれに達していない」、「アディーレの先生方は、まるで素人のような質問をしてくる」との評判が立つようになっていった。
 こうした話は、当然、裁判所事務官を通して、判事や、地元の弁護士の間にも伝わっていく。
 弁護士と、判事や検事は、司法修習期を軸として縦横のつながりが強い。また、判事、検事も退官後の弁護士登録を考えると、決して弁護士を邪険に扱うことはできないという。だから、弁護士に嫌われれば裁判所でも嫌われる、ということが起きるのだ。
 ちなみに、弁護士の世界でいう年齢とは「実年齢」ではなく「司法修習期」を指す。その内情は、やはり「同期」を大切にする官僚の世界を彷彿とさせるものがある。
 また、出身大学も重要だ。弁護士界では、司法試験合格者を多数輩出している東京大学を筆頭に、私大では早稲田、中央といった大学の法学部出身者が「幅を利かす」(地方の国立大学出身の弁護士)という。
 司法制度改革による日本版ロースクール「法科大学院」制度の設立後も、これらの大学の系統を引く法科大学院出身者が多数を占めている。現行司法試験(いわゆる新司法試験)よりも難関といわれた旧司法試験合格組といえども、横浜国立大第二経営学部出身という石丸の経歴は傍流扱いだ。
★30代で年収5000万円!
閉鎖社会“弁護士ムラ”で総スカン
 時に“弁護士ムラ”と揶揄される閉鎖社会でもある弁護士の世界でうまく立ち回るには、各弁護士会にある「人権委員会」「刑事委員会」といった「委員会活動」と呼ばれる勉強会にマメに顔を出し、そこで先輩・同期・後輩の縦横の人脈に気を配ってしかるべき、とされる。
 その是非はさておき、石丸はそうした他の弁護士との人間関係においても、気配りをほとんどしなかったという。加えて、東弁会長選への立候補後に発刊した自著『成功は1冊のファイルで手に入れる』(石丸幸人著・あさ出版)には、あろうことか、“東京弁護士会会長候補”と著者プロフィールに記載した。
 この書籍で石丸は、「度重なる飲酒運転で執行猶予付きの有罪判決を受けた」と告白している。もっとも、これだけであれば過去の犯罪歴を真摯に反省し、逆境を乗り越えて「弁護士として成功した」と、まだ周囲の見る目も好意的なものだったかもしれない。
 ところが石丸は、この自著に「年収は30代にして5000万円を超えた」と書いた。これに多くの弁護士は眉をひそめた。挙句、こんなことまで書いた。
《私は、弁護士という資格を活用してビジネスを起こしたいと思ってから、今後参入すべきマーケットがどこにあるか、考え続けていました》(『成功は1冊のファイルで手に入れる』107P)
《(略)私は今後の市場成長性や、市場占有率が寡占状態ではないという理由から、債務整理の分野でビジネスを起こしました》(同)
 1999年以降、司法サービスの拡充を図るべく行われた一連の司法改革で、弁護士報酬の自由化、広告の解禁が行われた。この広告解禁で、弁護士は顧客に自らをアピールすべく、「専門性」「得意分野」を打ち出すようになる。
 年齢問わず、オールドスタイルの弁護士の間では、弁護士の専門とは法律全般であり、その中でも細分化された法律、とりわけ石丸が特化した債務整理や離婚、相続といった分野は、「専門性と打ち出すことも恥ずかしいもの」という考え方がいまだに支配的だ。
 法律に詳しくない顧客側に立ってみれば、こうした弁護士ムラの論理は決してわかりやすくない。「離婚が得意」「相続専門」と謳っている事務所の方が、依頼しやすいだろう。しかし、そんな顧客の視点よりも自分たちの論理が優先されるのだから、弁護士業界は相当に古い体質といえる。そこに徹底して“ビジネスの論理”を持ち込んだ石丸が、孤立していったのは当然の帰結だった。
★弁護士会の存在を否定した
アディーレの“傍若無人”
 石丸の東弁会長選への立候補から6年後、15年の東弁副会長選。この選挙では当時34歳、司法修習64期のアディーレ所属弁護士が立候補した。結局落選したものの、この一件は全国の弁護士たち、とりわけオールドスタイルの真面目な弁護士たちに衝撃を与えた。
 まず彼の公約である。「弁護士会を任意加入団体へ」「会費半減」を打ち出した。平たく言えば、弁護士会が持つ絶大な権限とカネに踏み込んだのだ。
 そもそも弁護士会が強制加入団体となったのは戦後のことである。戦前の暗い時代、対立する検察や裁判所側が「監督権」を用いて弁護士の動きを封じ込めたことへの反省から、戦後は日本弁護士連合会(日弁連)に弁護士の監督権を委ね、「弁護士自治」を徹底したという経緯がある。
 これを真っ向から否定することは、日弁連をはじめとする弁護士会への否定に繋がる。さらに関係者を驚かせたのは、このアディーレ所属弁護士が掲げた公約に305票もの票が集まったことだ。歴代の副会長最下位当選者は522票、トップ当選者でも909票である。「泡沫候補扱いだった」(東京弁護士会所属弁護士)にしては、善戦したといえよう。冒頭で紹介した元関西の弁護士会副会長経験弁護士が語る。
 「弁護士会を否定する弁護士は弁護士に非ず――法律家としての分をわきまえず、弁護士をビジネスと考えるアディーレへの風当たりは、この副会長選をきっかけにますます強くなった。それも今回の処分に繋がった遠因ではないか」
 皮肉なことに、アディーレの急成長を支えたのは、司法制度改革で解禁された広告と報酬自由化であった。
 「彼らは派手に広告を打ち、顧客を大勢集めていたが、その究極の目的は何だったか。依頼者のためではなく、自己のカネ儲けだけだろう。それは『法律家』ではなく『法律屋』だ。今回の処分は『法律屋』はいらないという、弁護士会としての“時代のケジメ”をつけたということだ」
 弁護士は公務員ではない。だが「公的な」「公のこと」に携わる職業である。ごく一般のビジネスのように、派手な広告宣伝を行い、高い収入を得ることそのものを目的としてはならない、また、そのように映る行動は厳に戒めなければならない、というのがオールドスタイルの弁護士たちの言い分である。そして彼らは、今回のアディーレへの処分は、一連の司法制度改革以降増えたと言われる、“カネ儲け”に走る「法律屋」弁護士たちへの、弁護士会としてのメッセージである、と考えているのだ。
 前述したように、懲戒委員会は弁護士の意向のみが反映される組織にはなっていないため、アディーレ嫌いの弁護士たちの考えがダイレクトには反映されるわけではない。にもかかわらず、このように信じている弁護士は少なくない。
 司法制度改革は、さまざまな面で弁護士の環境を激変させた。強烈なビジネスの論理を持ち込んで、毀誉褒貶を受けながら急成長したアディーレのような存在も生んだし、一方で食えない弁護士を大量に輩出もした。次回以降、この司法制度改革が弁護士界に持ち込んだ変化をレポートする。

※参考情報3
************現代ビジネス2018.3.16
「アディーレ法律事務所」とはいったい何だったのか
★揺れる弁護士業界のいま
 悪貨は良貨を駆逐する。しかし時代が必要とすれば、それは悪貨と呼ばれなくなる――。
「◯万円もの過払い金が戻ってきた」そんな過払い金請求のCMをご覧になった方もいるだろう。債務整理・借金返済をメインとする弁護士法人「アディーレ法律事務所」に対し、2017年10月に業務停止処分が下った。
 今年に入って業務を再開した彼らは、はたして弁護士界の〈風雲児〉として復活するのか、それとも、ただの〈ならず者〉として、このまま葬り去られるか。「弁護士とは何者なのか」という問いもふまえて、未だ議論の分かれる弁護士界の声から、この問題を考えてみたい。
★アディーレは何が問題だったのか
 消費者金融業者への過払い金返還請求の着手金無料もしくは割引キャンペーンを「1カ月限定」と宣伝しながら、同じサービスを5年近く続けたという景品表示法違反(有利誤認)で、昨年10月、弁護士法人「アディーレ」に業務停止2ヵ月、元代表弁護士の石丸幸人弁護士個人には業務停止3ヵ月の処分が東弁(東京弁護士会)から下された。
 これが世にいう「アディーレ事件」だ。すでに処分が明けて今年から活動を再開したアディーレに対し、法曹界では「期待」と「批判」という相反する2つの声が今なお渦巻いている。

アディーレ法律事務所の広告を一度は見たことがあるだろう(写真:アディーレ法律事務所ホームページより)
 処分から1ヵ月後、一部メディア関係者の間に、こんな情報が駆け巡った。
――東弁がアディーレを追加で処分するらしい。
 結局、ガセ情報だったが、「単位会」と呼ばれる各都道府県弁護士会の会長を経験した関西の50代の大ベテランのひとりは、眉をひそめつつ次のように語った。
「(ある刑事事件の裁判について、確定した判決がある場合には、再度審理しないという)一事不再理の原則もある。一度、処分したものを、また改めて処分しなおすことは法律家としてどうなのだろう。ちょっと(アディーレが)可哀そうかなという気もする」
 今、法曹界では意外にも"アディーレ擁護"派が趨勢となりつつあるのだ。
 2004年の開業から17年の処分時まで、それまでの旧態依然とした個人商店的な弁護士ビジネスにはなかった徹底した〈組織力〉と〈マーケティング力〉を駆使するアディーレは、いわば業界の"鼻つまみ者"だった。ところがここ数年来、その風向きは大きく変わってきた。
 前出の大ベテラン弁護士はその事情をこう明かす。
「あまりにもアディーレは大きくなった。"出過ぎた杭は打たれない"ということ。それに批判の声もあるが大局的にみれば、彼らも弁護士界に貢献しているという事実もある」
彼が指摘する「彼ら(アディーレ)も弁護士界に貢献」とは、若手弁護士の「雇用」、これに尽きる。
 1999年以降段階的に推し進められた司法制度改革は、市民が容易に司法サービスを受けられるよう司法試験合格者数を大幅に増加させた。
 改革以前は例年500人程度だった司法修習生採用も、2001年司法修習修了の54期生からは750人、以降、徐々にその数は増えてゆき、初めて「新司法試験(現行)」合格者が世に出た2007年司法修習修了の60期生に至っては、旧司法試験での合格者も含めてその数は2367人にのぼる。以降、司法修習修了者数は、概ね2000人台を推移している。
その約2000人の司法修習修了者のうち、任官(裁判官)する者は毎年100人程度、任検(検察官)70、80人といったところだ。それ以外の者はすべて弁護士登録する。毎年、約1800人の新人弁護士が世に出る格好だ(いずれも『2017年版弁護士白書』参照)。
★新人弁護士の働き口になっていた
 だが、急激な弁護士数の増加に、法曹界というよりも弁護士業界が追いつかなかった。
 それまで弁護士事務所といえば、大掛かりな企業買収案件を手掛ける"渉外系"と呼ばれる大手事務所を除けば、多くは個人商店よろしく経営者である〈ボス弁〉、共同経営者である〈パー弁(パートナー弁護士)〉、正規雇用の〈イソ弁(居候弁護士)〉が1人、2人いれば"大規模"事務所の部類である。
 そこに大勢の"新人"を雇うキャパシティはない。"弁護士余り"が伝えられるようになってから生まれたという〈軒(のき)弁(事務所の軒先を借りて業務を行う非正規雇用者)〉としての雇用の枠も限りがある。
 なぜなら、弁護士の数が増えたからといってその"食い扶持"である事件の数が増えるわけではないからだ。前出・大ベテラン弁護士は言う。
 「いろいろ思うところもあるが、アディーレが就職難に喘いで行き場のない新人弁護士たちの雇用を確保したことは評価に値する」
 そもそもこのアディーレが世に出てきたのは、債務整理に特化した弁護士ビジネスだった。
 時は過払い金バブル。マスコミを駆使した派手な広告戦略も相まってアディーレの名は瞬く間に広がった。
 しかし、このアディーレが得意としたクレ・サラ問題、過払い金請求は、それまで地道に活動を続けてきた弁護士たちが苦労の末、やっと裁判所に認めさせたものである。
★儲けの源泉「クレ・サラ問題」
 クレ・サラ問題の元凶は、ひとえに「利息」だ。
 そもそも金銭貸借契約では借り手(利用者)と貸し手(貸金業者など)との間で自由に利息(金利)を決められる。だた、それはあくまでも法定の範囲内での話だ。
 利息を定める法律は一元化されていない。利息制限法と出資法とそれぞれ個別にある。出資法では29.2%以上の利息は罰則の対象となる。他方、2010年以前、利息制限法の上限は20%だった。問題は、「利息制限法上限の20%以上で、出資法の罰則対象となる29.2%未満」の部分である。
 これが当時、よく報道などで目にした「グレーゾーン金利」だ。民事では無効だが刑事罰が科せられない「金利の空白地帯」のことである。
 かつて貸金業規制法には、借り手が任意で貸し手に利息を払うと契約すれば、このグレーゾーン金利の支払いを有効とされた。いわゆる「みなし弁済」規定だ。
 クレ・サラ問題を生む元凶となったこの「グレーゾーン金利」が違法と認められれば、「過払い分」の返還も可能となり、多くの多重債務者が救われることになる――当時、この問題に取り組む弁護士たちは、それを裁判所に認めさせるべく奔走した。
 その甲斐あって、2004年2月の最高裁判決では、この、みなし弁済の適用が否定され、2006年1月の最高裁判決では、グレーゾーン金利は「違法」とされるに至る。
 結果、貸金業者はみなし弁済を主張できなくなり、借り手が返還訴訟を起こせば利息が取り戻せるようになった。これが世にいう「過払い返還請求」だ。
 いわゆる「サラ金」が社会問題化した昭和50年代(1975年頃)から、平成に入った2006年まで、弁護士たちは、多重債務者救済のため、クレ・サラ問題に、それこそ手弁当で取り組んできた。冒頭部で紹介したベテラン弁護士は言う。
「それまでこの問題はなかなか裁判所が認めなかった。それを長年、クレ・サラ問題に取り組んできた弁護士たちのお陰で、やっと裁判所に認めてもらったものだ。そこに敬意を払う必要がある」
 ところがアディーレは、そうした地道に頑張ってきた弁護士界の先達たちを軽く扱う態度を取ってきたという。そして、その弁護士界の先達が勝ち得た「過払い問題」を"ドル箱ビジネス"として収益分野とする。
 これが、いわゆる〈街弁〉と呼ばれる多くの弁護士たちにとっては面白くなかった。
★ここではスキルが身につかない
 時に〈商店街〉を思わせる弁護士の世界は司法修習期を軸とした官僚にも似た縦横の関係がある。加えて各都道府県弁護士会では、人権、憲法、刑事……などのテーマ別に分かれる「委員会活動」と呼ばれる勉強会がある。
 この司法修習期を軸とした縦横の関係と委員会活動は、自由業でありながら弁護士同士が結束、その知識と技を先輩から後輩へと伝える場として機能している。ところがアディーレ所属の弁護士はこうした場に積極的に出ることはなかったという。
 司法制度改革に反対の立場を取る弁護士はその辺りの事情を次のように推測する。
「アディーレ所属の若手弁護士が異なる事務所の先輩弁護士らと繋がり、弁護士としてのスキルをより高めていく。これをアディーレの経営陣が嫌ったのではないか」
 過去、アディーレに所属した弁護士らの声を総合すると、その〈組織力〉を強みとするここでは、他の弁護士事務所とは異なり、ひとりの弁護士がひとつの事件を最初から最後まで受任することはないという。
 依頼者の話を聞き取る役割、書面を作成・チェックする役割、裁判所などに出向く役割……と、分業制が敷かれ役割分担が徹底しているのだ。こうしたアディーレの人事システムについて愛知県弁護士会司法問題対策委員長の鈴木秀幸弁護士(72歳)は次のように心配する。
「これでは若手弁護士はスキルが身に付かず、将来、独立したときに困るのではないか」
 実際、この役割分担に慣れてしまうと弁護士としてひとつの事件を解決する力が身に付かないという声は多々耳にする。そのためか、アディーレで新人としてスタートを切った弁護士たちは、2年、3年と勤めれば外へと去っていく者が多いという。
 実際、当の"元アディーレ"弁護士たちの間からは、かつての所属事務所を悪しざまに言う声は何ら聞こえてこない。彼らは、皆、一様にこう口を揃える。
――"顧客目線"で弁護士ビジネスを学べたことは大きい。
★弁護士界は〈サービス業〉へと舵を切る
 かつてこそ法曹3者として公的な職業、即ち、〈法律家〉としての矜持が優先された弁護士だが、弁護士人口が増えたここ十数年来、その意識は、ごく一般的な〈サービス業〉と何ら変わらなくなった。その歩みは2004年のアディーレの台頭と歩調を一にする、というのが弁護士界のもっぱらの声だ。
 こうした〈サービス業〉志向の弁護士が増えたことを、ベテラン弁護士たちは内心、不快に思いつつも、その疑念を封印せざるを得なかった。というのも弁護士界の趨勢は、すでに〈法律家〉としての弁護士から〈サービス業〉へと舵を切っていたからだ。
 そのなかで一介の〈街弁〉で終わることなく、各都道府県や日弁連の会長といった栄達を目指す弁護士にとっては、若手を取り込まなければとても支持を得られない。今、増えつつある〈サービス業〉志向の弁護士を悪しざまにいうことは、あまり得策ではないという事情もある。前出の弁護士の大ベテランも指摘する。
 「結局は、『時代を見極められるかどうか』だ。社会と時代は常に変わっていく。それを読み切れないようでは、法律に携わる者として、失格だ」
 事実、先月2月9日、投開票された日弁連会長選では、経済的新自由主義を信奉し〈サービス業〉志向の若手弁護士から圧倒的支持を受けている候補者が当選した。
★変わる弁護士界
 昨年末、全国各地の弁護士会は"アディーレ・ショック"に揺れた。
 業務停止を受けた弁護士への依頼は、一旦、すべて解除される。「アディーレ顧客」たちは、皆、依頼していた「過払い金返還請求」や「債務整理」といった法的サービスが途中で受けられなくなる。そのためアディーレ所属の弁護士個人と再契約し直す、もしくは別の弁護士に依頼する。あるいは、自分で対応しなければならない。
 途中で止まった法サービスはどうなるのか、すでに支払った着手金の扱いはどうなるのか。のべ約5万人いるといわれる「アディーレ顧客」たちの不安を和らげなければ弁護士への信頼は地に堕ちる。
 そのため東京弁護士会(東弁)を中心に、全国各地の弁護士会では大勢の弁護士を動員、電話による「アディーレ顧客」への対応を余儀なくされた。
 顧客からの問い合わせが殺到することを想定して、東弁だけでも、10本の電話回線を新設し、午前9時から午後5時まで、1日40人態勢で弁護士が相談に応じた。約20日でのべ800人の弁護士を投入したという。
★弁護士800人が投入された
 この一連の騒動に、司法制度改革反対派の弁護士たちはこう口を揃えた。
――動員された弁護士の誰かがアディーレのせいで、みずからの弁護士業務に支障を来したという理由で、損害賠償請求を起こせばいい。
 しかし、実際には、そうした動きが起こる気配すらない。その背景について前出・大ベテラン弁護士はこう謎解きをする。
「年配の弁護士のなかには、感情的に"アディーレ憎し"の声はある。しかし、すでに増えつつある経済的新自由主義的な思想を持つ大勢の若手弁護士たちからの恨みは買いたくない」
 これは2015年の東京弁護士会の副会長選挙に、当時、弁護士界の中では若手の34歳、司法修習期64期生のアディーレ所属弁護士が立候補。大方の予想を裏切り305票もの得票数を得たことも背景のひとつにある。
 歴代の副会長選でトップ当選者でも909票、最下位当選者は522票。立候補時は「泡沫候補扱い」(東京弁護士会所属弁護士)にしては善戦である。
 だが、何よりも弁護士界に衝撃が走ったのは、その彼が掲げた公約である。「弁護士会を任意加入団体へ」「会費半減」――。
 ちなみに弁護士法には、次のように記されている。
《第八条 弁護士となるには、日本弁護士連合会に備えた弁護士名簿に登録されなければならない。》
 弁護士は日本弁護士連合会(日弁連)に登録されなければその業は行えない――つまり「強制加入団体」だ。
 これは戦前の暗い時代、対立する検察庁や裁判所が「弁護士監督権」を盾に弁護士の動きを封じてきた反省から、戦後は、裁判所、検察庁、法務省からも独立して、弁護士の監督権は弁護士が行う「弁護士自治」を徹底したことに端を発している。
 しかし、時代が進んだ今、弁護士自治を否定する弁護士が台頭している。いわゆる経済的新自由主義の発想を持つ若手弁護士たちだ。
 弁護士自治を否定する弁護士、いわゆる経済的新自由主義の発想を持つ若手弁護士たちを無視すると、もはや日弁連(日本弁護士連合会)は崩壊しかねない。戦後守られてきた「弁護士自治」も国に返上することになる。
 となると弁護士という職業は、もはや裁判官、検察官と同格の法曹3者ではなく、在野のライセンスを必要とする単なる〈サービス業〉へと成り下がってしまう。
 前出・大ベテラン弁護士は、「どうにも"アディーレ"的な発想は好きになれない」と前置きしたうえで、こう語った。
 「これまで弁護士など縁のなかったごく一般の市民のなかに飛び込んでいったのはアディーレだった。その"アディーレ"的なDNAは、弁護士界に着実に浸透している。もはや好き嫌いの問題ではなく、これは事実として受け止めなければならない」
 こうした背景について愛知県弁護士会司法問題対策委員長の鈴木秀幸弁護士は次のように語った。
「ごく一般の市民にとって弁護士とは、これまでは紹介制を旨とする〈個人商店〉然としたものしかなかった。そこに紹介など必要なく、大規模な広告を打ち出し大勢の顧客を受け入れる郊外の〈スーパーマーケット〉が登場したという話だ」
 事実、今、若手と呼ばれる弁護士の間では、アディーレの登場以降、債務整理にみられる効率性のよい分野に特化した大規模な弁護士ビジネスを展開するビジネスモデルを真似る動きが後を絶たない。
 こうした弁護士ビジネスでは、ときに"八百屋弁護士"と呼ばれる〈街弁〉とは異なり、離婚や相続といった「手間暇の割に複雑な事件」を嫌う傾向が見受けられる。〈法律家〉ではなく、あくまでも代行業として法的サービスを提供する〈サービス業〉といった趣だ。
★それでも市民は"アディーレ"を求めている
 さて、冒頭部でも触れたが、昨年末、東弁によるアディーレへの追加処分が云々された頃、多くの弁護士らは、こう語ったものだ。
――それはもう、アディーレは弁護士界から出て行ってくれ、ということではないか。
 だが、実際はそうはならなかった。その規模を縮小したといわれるが、その業務を再開するとこぞって顧客がアディーレの門を叩いたという。東弁所属弁護士は言う。
 「たとえば不祥事が伝えられた大手流通店でも、生活インフラとして消費者になくてはならない存在として認知されていれば、そう簡単に潰れることはない。それと同じで、もはやアディーレは債務整理の分野に強みを持つ大手弁護士事務所として市民の間に溶け込んでいるということなのだろう」
 その一方でアディーレ関係者によれば、業務停止によりいったん顧客が離れたこと、また看板名を悪名としたその大きな信用失墜から、実際、経営再建は厳しい面があるという。
「ただただ失った信用を取り戻すべく業務に専念するだけだ」
 かつて弁護士界の"鼻つまみ者"といわれたアディーレだが、紆余曲折を経て、今、弁護士界に受け入れられつつある。このまま弁護士界に溶け込んで〈風雲児〉として復活するか、あるいは〈ならず者〉として葬り去られるかは、アディーレ自身の正体ばかりでなく、我々が弁護士に求めているものも映しだすことだろう。
 愛知県弁護士会の鈴木秀幸弁護士は、やや否定的な面持ちでこう語った。
「アディーレは間違いなく復活する。そして、"アディーレ"的なモノも、これからもまた出てくる筈だ」
 弁護士に何を求めるのか。悪貨とされても必要とされるなら、それはすでに我々自身の選択の結果なのである。
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