市政をひらく安中市民の会・市民オンブズマン群馬

1995年に群馬県安中市で起きた51億円詐欺横領事件に敢然と取組む市民団体と保守王国群馬県のオンブズマン組織の活動記録

安中公社51億円事件に次いで首都高ローリー横転炎上事件で多胡ファミリーが打立てた金字塔・・・偽装倒産

2016-08-17 19:40:00 | 首都高炎上とタゴ運輸
■本日の朝、突然東京商工リサーチが「多胡運輸㈱が破産した」とプレス発表を行いました。株式会社東京商工リサーチは、東京都千代田区大手町1-3-1のJAビルに本社を置き、帝国データバンクに次ぐ国内第2位の信用調査会社です。それではどのような内容のプレス発表をしたのか見てみましょう。

**********東京商工リサーチ 8月17日(水)9時45分配信
平成20年に首都高でローリー横転事故を起こした多胡運輸(株)が破産
 多胡運輸(株)(TSR企業コード:270271104、法人番号:4070001009600、高崎市箕郷町上芝541-2、設立平成4年11月、資本金1200万円、多胡茂美社長)は8月4日、前橋地裁高崎支部より破産開始決定を受けた。破産管財人には都木幹仁弁護士(ぐんま法律事務所、同市昭和町224-1、電話027-326-6001)が選任された。なお、多胡茂美社長は逝去しており、上野法律事務所の上野猛弁護士が仮代表に就任している。
 負債総額は約33億円。
 昭和50年、運送業務を目的に創業。一般貨物輸送のほか石油燃料の輸送などを手掛けて業容を拡大し、タンクローリー6台を含む46台のトラックを所有し約2億円の年間売上高をあげていた。
 平成20年8月、東京都板橋区の首都高速5号線熊野町ジャンクションで、当社のタンクローリーが横転し炎上する大事故が発生。この影響で高速道路高架部分の架け替え工事、近隣マンションの外壁被害などで多額の損害賠償補償の問題を抱えていた。事故に伴い、本社営業所の車両使用停止、運行管理者資格者証の返納命令などの行政処分を受けながら、以後も事業を継続していた。しかし事故の影響で業績不振を招き、23年12月には本社不動産を売却するなど経営悪化が露呈し、24年度に事業を停止していた。
 この間、首都高速道路が復旧費用など損害賠償を求め、トラック業界では過去に例のない高額補償事案として係争していたが28年7月、東京地裁で敗訴。判決により当社および運転手に対し約32億8900万円の支払命令が下されていたが、高額な損害賠償の支払いができず事後処理を弁護士へ一任し、今回の措置となった。
東京商工リサーチ
最終更新:8月17日(水)9時45分
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 このように、さすがに日本全国に82(支社8、支店74)の事業所を構え、1994年に世界最大手の信用調査会社ダンアンドブラッドストリート(D&B)と提携し、国内与信・海外与信情報(世界200カ国超・2億件以上の企業データベース)を一手に提供できる体制を構築し、世界最大の企業データベースをワンストップで効率的に提供できる会社です。23年12月に本社不動産を㈱美正に売却し、既に偽装倒産の手続きを開始していたこと、その後、多胡運輸の多胡茂美社長が逝去したこと、そして8月4日に前橋地裁高崎支部から多胡運輸が破産開始決定を受けたこと、などを簡潔に記載しています。

■これに遅れること約5時間後、今後は業界トップの帝国データバンクが多胡運輸の破産について報じました。

**********帝国データバンク2016年08月17日(水)14時30分頃
多胡運輸株式会社
特定貨物自動車運送
破産手続き開始決定受ける

TDB企業コード:220222496
負債33億円
「群馬」 多胡運輸(株)(資本金1200万円、高崎市箕郷町上芝541-2、代表多胡茂美氏、仮代表上野猛氏)は、8月4日に前橋地裁高崎支部より破産手続き開始決定を受けた。
 破産管財人は都木幹仁弁護士(高崎市昭和町224-1、ぐんま法律事務所、電話027-326-6001)。財産状況報告集会期日は11月9日午前11時。
 当社は1975年(昭和50年)創業、92年(平成4年)11月に法人改組。群馬県内で燃料輸送大手の協力会社として、2008年8月期には年収入高約3億6000万円を計上していた。
 しかし、2008年8月に首都高速道路でガソリンを積載していた自社のタンクローリーがカーブを曲がり切れずに横転・炎上し、橋桁などが熱で熔解して大きく損傷した。
 その際、加入していた保険会社からの限度額となる賠償金10億円に加えて、資産の整理売却などによる賠償を企図したが、損害額が多額であったため補いきれず、道路を管理する首都高速道路(株)などから損害賠償請求を起こされていた。また、運営に関して利害関係人からの裁判所に対する申立により、2016年2月に弁護士である上野猛氏が仮代表に就任した。その後、2016年7月に当社と運転手に対し32億8900万円の支払い判決があり、今回の措置となった。
 負債額は4社(事故の被害会社)に対し約33億円。
 なお、社会ニーズの強い燃料輸送業務を行なっていたことから、運送事業に関しては、経理事務などを担当していた系列会社(以前は当社代表取締役多胡茂美氏が全株出資)に2011年に移管、所有していた土地に関しても同年末に同社が取得している。
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 これを見ると、安中市土地開発公社51億円巨額横領事件で、一人で罪をかぶった、多胡運輸社長多胡茂美の兄で元安中市職員の多胡邦夫に感謝の意を込めて、タゴファミリーのために生計を維持しなければならないことから、多胡運輸の事業を実質的に継承して現在も同じ場所で営業をしている㈱美正のことが、さらにわかりやすく書いてあります。

 これによれば、㈱美正は、多胡運輸の経理事務などを担当していた系列会社で、多胡運輸の社長の多胡茂美が全額資本金を出資していたことがわかります。そして、2008年8月3日に自社のアポロマークのタンクローリーが首都高5号線熊野町ジャンクション付近で横転炎上してから、3年後の時効到来直前に、首都高が多胡運輸と元請のホクブトランスポート、そして荷主の出光興産を相手取り、東京地裁に損害賠償を提訴した直後に、ちゃっかりと多胡運輸の運送事業を系列会社の㈱美正に移管し、所有土地も2011年末に㈱美正に譲渡していたことが判ります。

 これほどタイムリーにしかるべき民事破産に備えて準備を進められた背景には、やはり、前述の通り、群馬県の誇る自民党県連所属の中曽根派ファミリーの恩情による的確なアドバイスがあったことが強くうかがえます。

■どうりで、多胡運輸も、中曽根ファミリーに極めて近しいホクブトランスポートも、首都高とその上部機関の独立行政法人 日本高速道路保有・債務返済機構による苛斂誅求を極めた訴追にもかかわらず、どこ吹く風で、裁判のことは全て荷主の出光興産(この創業者の出光佐三と大勲位との親交はつとに知られる)に任せきりにできたはずです。

 その出光興産も、多胡運輸やホクブトランスポートのかわりに弁護士費用を負担しただけで、既に完全に事業や財産を㈱美正に継承した多胡運輸と既に破産した当時の運転手にすべての賠償責任を負わせる判決が出たことで、損害賠償からは一切解放され、多胡ファミリーも中曽根ファミリーもハッピーエンドを迎えることができたわけです。

■ところで、東京商工リサーチのプレス発表を受けて、レスポンスが次の追いかけ報道をしました。このレスポンスというのは株式会社イード(ホ社:東京都新宿区西新宿2-6-1 新宿住友ビル28階)が展開している自動車関連のウェブサイトです。

**********Response 2016年8月17日(水) 11時03分
http://response.jp/article/2016/08/17/280200.html
多胡運輸が破産、首都高のローリー火災事故で損害賠償32億円

 東京商工リサーチによると、群馬で燃料輸送などを展開する多胡運輸が8月4日、前橋地裁高崎支部より破産開始決定を受けた。負債総額は約33億円。
 多胡運輸は1975年、運送業務を目的に創業。一般貨物輸送のほか石油燃料の輸送などを手掛けて業容を拡大し、タンクローリー6台を含む46台のトラックを所有し約2億円の年間売上高をあげていた。
 しかし2008年8月、東京都板橋区の首都高5号線熊野町JCTで、同社のタンクローリーが横転し炎上する大事故が発生。高速道路高架部分の架け替え工事、近隣マンションの外壁被害など、事故による多額の損害賠償補償が問題となっていた。事故に伴い、本社営業所の車両使用停止などの行政処分を受けながら、以後も事業を継続していたが、事故の影響で業績不振を招き、2011年12月には本社不動産を売却するなど経営悪化が露呈。2012年度に事業を停止していた。
 この間、首都高速道路が復旧費用など損害賠償を求め、トラック業界では過去に例のない高額補償事案として係争していたが2016年7月、多胡運輸は東京地裁で敗訴。判決により同社および運転手に対し約32億8900万円の支払命令が下されていたが、高額な損害賠償の支払いができず事後処理を弁護士へ一任し、今回の破産手続きとなった。
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 レスポンスの記事試合は東京商工リサーチの記事の引用なので新鮮味はありませんが、サイトの利用者が多いため、瞬く間にこのニュースが広まりました。そのため、当会のブログのアクセス数が急増したものと考えられます。

■さらに今度はやはり同業の信用調査会社で九州の福岡市博多市に本社を置く㈱データ・マックス社が後追い報道を行いました。

 同社は東京経済出身の児玉直が1994年(平成6年)に設立した信用調査会社で、福岡に本局を置くほか、長崎市に支局、日本国内7ヶ所(宮崎市・熊本市・鹿児島市・下関市・倉敷市・東京都千代田区・大阪市西区)と中国・上海に事業所を構えています。

 信用調査とともに、企業情報誌「I・B企業特報」(週2回刊)の発行や、九州を中心とした企業・経済動向について独自調査によるニュースサイト「NETIB NEWS」の運営を主たる業務としていて、「IB」は「Information Bank」の略ということです。

**********Net IB News 2016年08月16日 13:56
【全国】破産手続開始決定
多胡運輸(株)(群馬)/特定貨物自動車運送

代 表:上野 猛
所在地:群馬県高崎市箕郷町上芝541-2
 8月4日、同社は前橋地裁高崎支部より破産手続開始の決定を受けた。
 破産管財人は都木幹仁弁護士(ぐんま法律事務所、群馬県高崎市昭和町224-1、電話:027-326-6001)。
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■そして、夕方には、不景気ドットコムがこのニュースを取り上げました。

**********不景気ドットコム2016年8月17日 15:59
群馬の「多胡運輸」が破産、ローリー横転・炎上で賠償命令
官報によると、群馬県高崎市に本拠を置く運送業の「多胡運輸株式会社」は、8月4日付で前橋地方裁判所高崎支部より破産手続の開始決定を受け倒産したことが明らかになりました。
1975年に創業の同社は、一般貨物輸送やガソリンなど石油製品の輸送を主力に事業を展開していました。
しかし、2008年8月に首都高速5号線の熊野町ジャンクションで、同社のタンクローリーが横転し炎上する事故が発生し、被害を受けた首都高速道路会社が多額の損害賠償を請求、2016年7月に東京地方裁判所より約32億8900万円の賠償命令が下ったため、支払いが困難となり今回の措置に至ったようです。
負債総額は約33億円の見通しです。
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■しかし、今回の多胡運輸破産のニュースはそのインパクトのわりに、日経など大手新聞社やテレビなどマスコミは全く取り上げませんでした。この背景としては、7月14日に東京地裁で出された茶番判決についての報道で、1件落着というスタンスをとったことが挙げられます。

 しかし、大手新聞社やマスコミの報道でも、本日の東京商工リサーチをはじめとする信用調査会社のネット記事でも、多胡運輸をとりまく深い闇の部分については全く触れていません。唯一、タゴファミリーと中曽根ファミリーの関係を追及してきた当会のブログだけが、この複雑な事件の背景を切り開いてきただけなのです。

 当会は引き続き、安中市で発生した地方自治体では史上最大の巨額横領事件であるタゴ1億円事件の真相究明と責任の所在明確化を目指して、果てしない活動を継続する決意です。

【8月18日追記】
 多胡運輸の破産の報道により、当会は当初「倒産」と「破産」とをきちんと区別していませんでした。
 今回の多胡運輸が倒産したわけですが、「倒産」は企業の経営破綻状態を広く指す用語として使われていて、「倒産」した企業がとる手続きは、大きく分けて次の二つがあります。
   ①事業を停止し、企業を清算する手続き(清算型)
   ②事業を継続し、企業を存続する手続き(再建型)
 このうち①の清算型の手続とは、会社が事業を停止し、財産を処分して、その代金を債権者に分配することで、「破産」などのかたちがあります。
 ②の再建型の手続とは、債務の一部免除や分割払などで債務の負担を軽減し、事業を継続しながら会社の再生を図っていくものです。再建型の手続の中心的なものに、民事再生手続と会社更生手続があります。
 多胡運輸は破産したとはいえ、実質的には㈱美正が事業を継承し、土地や車両そして人員などの財産を引き継いだことから、多胡運輸が破産時に保有していた財産といえば、多胡茂美社長が実兄の安中市元職員多胡邦夫から預かっていたかもしれない使途不明金14億円余りが考えられます。
 しかし、今回8月4日をもって多胡運輸が破産手続きに入ったことから、もしこの使途不明金14億円を多胡運輸が隠し持っていたとすれば、債権者に分配されてしまうことになります。
 となると、タゴ51億円事件のツケである安中市・公社と群馬銀行との間で24億5千万円を103年ローンで市・公社が群銀に支払う和解条項の残金87年分の17億3000万円だけが、安中市民のかたにのしかかってくるになります。
 多胡運輸が破産したのだから、当然、安中市は債権者として直ちに破産管財人にコンタクトし、1円でも多く横領金を取り戻すよう対策を講じなければなりません。


【ひらく会情報部】

※参考情報「7月14日の東京地裁のトンデモ判決直後の報道記事」
**********日本経済新聞電子版2016年7月21日
首都高タンクローリー火災で32億円の賠償命令
 首都高速道路5号池袋線の熊野町ジャンクションで2008年8月にタンクローリーが横転、炎上した事故で、東京地裁は16年7月14日、タンクローリーを所有する多胡運輸(群馬県高崎市)と運転手に対して、計約32億8900万円を首都高速道路会社に支払うよう命じる判決を下した。
 この事故は、2層構造になったジャンクションの下層を通る下り線で発生。火災の熱で上層の上り線の鋼桁が大きく変形し、路面が60~70cm沈下した。首都高は損傷した上層の鋼桁と床版を2径間分、計40mにわたって架け替える工事を実施。部分開放しながら半断面ずつ施工し、事故から73日目に全面開通にこぎ着けた。

急カーブを曲がりきれずに横転し、炎上するタンクローリー。消火までに3時間半を要した。運転手は業務上失火罪で有罪が確定している(写真:首都高速道路会社)
 首都高によると、昼夜連続の復旧工事に要した費用は約17億4000万円。加えて、当初の通行止めや工事中の渋滞などに伴う交通量の減少で、通行料収入が約15億5000万円減った。さらに、迂回路を示す案内看板の設置といった諸経費も掛かった。首都高は11年7月、これらを合計した約34億5000万円の損害賠償を求めて提訴していた。

鋼桁が変形して、路面が60~70cm沈下した上層の上り線(写真:首都高速道路会社)
■荷主の責任は認めず
 首都高は裁判で、多胡運輸と運転手のほか、ガソリンや軽油の運搬を継続的に委託していた出光興産と元請けの運送会社にも使用者責任があると主張した。これに対して、東京地裁は「個別の運送業務について、出光興産が運転手を指揮監督する地位にあったとは言えない」などと判断。出光興産と元請けの運送会社への損害賠償請求は棄却した。
 多胡運輸と運転手の支払い能力は不明。首都高は、今後の対応について「関係者と協議しているところだ」と話している。

現場検証を終えて搬出されるタンクローリー。「出光」マークがあったことから、首都高速道路会社は出光興産などにも賠償を求めたものの、東京地裁は棄却した(写真:首都高速道路会社)
 なお今回の判決とは別に、日本高速道路保有・債務返済機構が多胡運輸の加入していた関東交通共済協同組合に対して、道路法に基づく行政処分として保険金に当たる共済金の限度額10億円の支払いを求めて提訴。判決は15年7月に確定し、同組合は遅延損害金を含む11億7000万円を機構に支払った。この共済金は既に機構から首都高に渡っている。
 仮に今回の判決に基づく賠償金が全額支払われた場合、首都高は共済金と合わせて40億円超を受け取ることになる。事故の損害額に遅延金を加えた額に相当する。
(日経コンストラクション 瀬川滋)
[日経コンストラクションWeb版 2016年7月21日掲載]

**********物流ニッポン2016年7月21日
首都高ローリー横転事故、多胡運輸に32億円支払い命令 荷主・元請け責任問わず 東京地裁

 2008年8月に首都高速道路でタンクローリーが横転、炎上した事故を巡り、首都高速道路(宮田年耕社長、東京都千代田区)が復旧費用など損害賠償を求めていた裁判で東京地裁(青木晋裁判長)は14日、多胡運輸(群馬県高崎市)と運転者に32億8900万円の支払いを命じた。荷主(出光興産)と元請運送会社(ホクブトランスポート)の責任は問わなかった。この事故では、多胡運輸が加入していた関東交通共済協同組合(千原武美理事長)15年6月、11億8千万円を日本高速道路保有・債務返済機構(勢山広直理事長)に支払っており、トラック業界では過去に例の無い高額補償事案となった。(北原秀紀)
 タンクローリーは、東京都江東区の油槽所からさいたま市のガソリンスタンドにガソリン16キロリットル、軽油4キロリットルを輸送していた。8月3日午前5時52分、5号池袋線下りを走行中、熊野町ジャンクション(JCT)の急なカーブを曲がり切れず横転し、左側側壁に衝突した。運転者は重傷を負い、積み荷は5時間半以上にわたり炎上。路面がゆがみ、橋桁が変形したほか、近隣のマンションの外壁も焼けるなど多くの被害が出て、首都高の全面復旧まで2カ月半かかった。
 青木裁判長は高架部分の架け替え工事の費用など17億円のほか、通行止めによる営業損失を認めた。原因については「20~30キロの速度オーバーでカーブに侵入した」と過失を認定。しかし、出光興産については「指揮監督関係が運転者に及んでいたとは認められず、使用者責任は負わない」とした。
 この事故で13年5月、関交協は保有・債務返済機構から差し押さえ債権取り立て請求の訴訟を起こされた。
 事故後トラック事業を廃業している多胡運輸に支払う危険物輸送の補償最高限度額10億円を巡って裁判となったが、1審、2審とも関交協が敗訴。7年分の利息を含めて11億8000万円を支払った。
 一方、関交協は加入している全国トラック交通共済協同組合連合会(坂本克己会長)の再共済により9億3500万円の支払いを受け、多額の損失を回避した。単独車両による事故としては国内史上最大規模となる損壊事故の業界全体に与えた影響は計り知れず、その爪痕は今も残っている。
【写真=タンクローリーが炎上し、高速道路は大きく損傷=首都高提供】

**********企業法務ナビ2016/07/19 15:10投稿)
首都高炎上の運送会社に32億円の賠償命令、使用者責任について

●はじめに
2008年に首都高速でタンクローリーが炎上した事故をめぐり、首都高速道路会社が損害賠償を求めていた訴訟で東京地裁は14日、運送会社と運転手に約32億8900万円の支払を命じました。一方で運送委託をした出光興産に対しての請求は棄却しました。今回は不法行為に基づく損害賠償請求と使用者責任について見ていきます。
●事件の概要
2008年8月3日早朝、群馬県高崎市の運送会社多胡運輸所有のタンクローリーが首都高速熊野町ジャンクション内のカーブで速度超過により曲がりきれず横転・炎上しました。タンクローリーには約16キロリットルのガソリンと4キロリットルの軽油を積載し、埼玉県内のガソリンスタンドに向けて輸送していました。積み荷の燃料は約5時間半に渡って炎上し2階建構造の上層部分の路面を熱で変形させました。道路は長さ40m、深さ最大60cm沈下し北池袋から板橋JCTまでが上下線とも通行止めとなりました。8月9日には片側1車線通行で仮復旧したものの全面復旧までには約2ヶ月半を要しました。首都高速道路会社は多胡運輸と運転手および輸送を発注した出光興産に復旧工事費と逸失利益分で約45億円の賠償を求め東京地裁に提訴していました。
●不法行為による損害賠償責任の要件
故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条)。その趣旨は損害を補填することによる被害者の保護と損害の公平な分担を図る点にあります。以下要件について見ていきます。
(1)故意・過失
「故意」とは、自己の行為により権利侵害が発生することを認識・認容している心理状態を言います。「過失」とは結果発生の予見可能性があるのに、これを回避する行為義務を怠ったことをいいます(東京地判昭53年8月3日)。その判断基準はその者の職業や身分から通常求められる注意義務に反していないかで判断されることになります。
(2)権利・利益の侵害
他人の権利または法律上保護される利益を侵害するとは、すなわち行為が違法であることを意味していると言われております。民法上違法と言えるためには侵害された利益と行為態様の相関関係によって決まるとされております。利益が生命や身体といった重大なものであれば行為態様が軽微であったとしても違法性が肯定されるということです。
(3)損害の発生
不法行為における損害とは一般的に不法行為があった場合と無かった場合との利益状態の差を金銭で評価したものといわれております(差額説)。たとえば怪我をして病院に行った場合の治療費と仕事ができず得られなかった収入分が損害ということになります。判例も基本的にこの差額説を取っていると言われておりますが、怪我自体を損害と捉え、損害額は個別に算定するという立場(損害事実説)にも理解を示す例もあります(最判昭56年12月22日)。
(4)因果関係
416条は債務不履行に関して、賠償の範囲を原則通常生ずべき損害に限定し、予見可能性のない損害を含まないとしています。つまり債務不履行と相当因果関係に立つ損害に限定しているということです。判例は不法行為においても416条を類推適用し損害とは相当因果関係の範囲内としています。
●使用者責任について
715条によりますと、他人を使用する者は、被用者が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負うとしています。使用者に代って事業を監督する者も同様としています(2項)。要件は①他人を使用していること②被用者が業務の執行について第三者に損害を与えたこと③上記不法行為の要件を満たすことが挙げられます。「他人を使用」とは実質的な指揮監督関係があればよく、雇用形態等を問いません。「業務の執行について」とは、「業務の執行のために」より広く、「業務の執行に際して」よりは狭い概念と言われております。例えば、配達途中で窃盗を働いた場合には使用者責任は生じません。
●コメント
本件でタンクローリーの運転手は約20キロ~30キロの速度オーバーをしていたと言われております。それにより首都高でのカーブを曲がりきれずに横転しました。ガソリンという危険物を常時運搬する輸送業者としては、20t近い積載で速度超過をすれば事故につながることは予見することができたと言えます。それにもかかわらず回避義務を怠ったことにより横転炎上に至ったことについては、過失は否定できないでしょう。損害との因果関係も認められますので、不法行為の要件は満たすことになります。そして運転手は多胡運輸に雇用され、指揮監督の下に業務についていたと言えるので「他人を使用」していたと言えます。そして輸送業務中に事故を起こしたことから「業務の執行について」損害を与えたと言え、多胡運輸には使用者責任が認められたと言えるでしょう。一方で多胡運輸は出光興産にとっては下請業者と言えますが、判決では使用者責任を否定しました。個別の配送業務については出光が運転手に対して指揮監督する地位にあったとは言えないとしています。このように使用者責任が生じるための重要なポイントは不法行為者との間に指揮監督関係が認められるかだと言えます。事故を起こした場合、重大な損害を生じさせる危険のある下請業者を使用している場合には自社が指揮監督権を持っているかを確認し、持っている場合には事故防止を徹底させることが重要と言えるでしょう。
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コメント (1)
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