かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

ジプシー・ミュージックから、タンゴ・ミュージックへ

2015-03-03 01:26:10 | 歌/音楽
 麻布のハンガリー料理店で、ジプシー・ミュージックを聴いたのは、去年2014年の11月だった。
 ハンガリーには残念ながら行ったことがない。
 ハンガリーといってすぐに思い浮かべるのは、ブラームスの「ハンガリー舞曲」やリストの「ハンガリー狂詩曲」である。これらの音楽に見られるように、ロマの人たちの音楽の影響が強い。
 ロマといえば、いろんな呼び方がされているが一般的に広く伝わっているのは英語読みのジプシーという呼び名であり、ジプシー・ミュージックとしても定着している。
 フランスではジタンで、アラン・ドロンが一匹狼のヤクザに扮した「ル・ジタン」(Le Gitan)という映画もあった。アラン・ドロンが最も格好良かったころの映画だ。
 フランスでは、フラメンコを踊っている女性のシルエットをあしらったジタンというタバコもあった。今もあるだろうが、もうタバコを吸わなくなったのでその辺の事情はよくわからない。
 20代の気取っていた頃、一時期僕はこのジタンやゴロワーズを持ち歩いていたが、くせが強くて吸えなかった。時折、酒場でのカウンター辺りでおもむろにポケットからジタンを取りだして吸っていたが、普段はロング・ホープかセブンスターだった。
 ジタンは格好をつけるためのアクセサリーだった。ジタンのタバコに、カルティエのライター。う~ん、今思えば、気障で鼻持ちならないねぇ。

 *

 ハンガリー料理店「Paprika. hu(パプリカ・ドット・フ)」(高輪白金)での、ジプシー・ミュージックは、旧知のヴァイオリニスト古舘由佳子さんの演奏で、現地のミュージシャンとの共演で行われた。
 古舘さんはハンガリーに音楽留学したこともある、ジプシー・ミュージックに関しては日本では秀逸の演奏家である。
 その日も、まるでロマの人と思わんばかりの演奏を披露した。
 僕は、その日、かつてビートルズなどの日本でのディレクターで、音楽レコード業界を牽引してきた友人夫婦と、その音楽を聴いていた。
 演奏が始まる前、パプリカをふんだんに使ったハンガリー料理とワインをたしなみながら、僕たちは久しぶりに会ったので、懐かしい思い出話や音楽の話をしたのだった。
 演奏が終わった後、退席する際に、僕らと同じテーブルで、僕らの前に座っていたカップルの2人に挨拶した。
 すると、女性の人が、「みなさん、音楽の話をされていましたね。私もそれに参加したかったです。実は私たち二人とも、音楽をやっています」と語った。もらった名刺には「Sayaca」と書かれていた。

 *

 Sayacaさんは、タンゴ・ミュージックのヴォーカリストで、一緒に来ていた田中伸司さんはコントラバスの奏者だった。
 そのSayacaさんからライブ・コンサートの案内が来た。彼女は、一時期ブエノスアイレスに住んでいたタンゴの本格派ヴォーカリストである。
 ライブ・コンサートは、2月26日、神楽坂のライブハウスの「The Glee」で行われた。Sayacaさんのヴォーカルほか、ピアノ、バンドネオン、田中さんのコントラバス、ギターのメンバーである。
 タンゴといえば、ラ・クンパルシータやエル・チョクロ、カミニートなどのスタンダードや、アストル・ピアソラの曲ぐらいしか頭の中に入っていない。
 しかし、その夜、Sayacaさんの素敵なヴォーカルで、スタンダード以外の新しいタンゴを聴くことができた。そこには、ラテンの情感が溢れていた。

 ジプシー・ミュージックからタンゴ・ミュージックへ。人と人との繋がりは、予期せぬものであるから面白い。

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